AI PCは個人向けノートパソコンだけではなく、ゲーミングパソコンにも拡大
日本HPは、2025年1月16日に事業戦略発表会を開催しました。発表会では4名のスピーカーが登壇しましたが、全体の総括を行った岡戸社長と、新しく登場するAI PCのラインナップと特徴を説明したパーソナルシステム事業本部事業本部長の松浦 徹 氏の内容を中心にお伝えします。
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今回展示された製品。ビジネス向けのAI PCとしてHP EliteBook X G1i/G1a 14 AI PC。Polyのwebカメラでオンライン会議もスムーズに(AMD版は一月下旬、Intel版は2月月中旬販売開始)
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HP Z2 Mini G1a workstation。ミニ筐体のワークステーションは珍しく、中は放熱機構で結構ギッシリ(販売開始五月以降)
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HP Zbook Ultra G1a 14inch。ワークステーション製品にはAMD Ryzen AI MAXプロセッサを採用し、本体メモリは最大128GB(オンボード)。大規模言語モデルにはGPUメモリが重要ですが、最大96GBを割り当てできる製品です(販売開始3月中旬)
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ゲーミングノートのOMEN MAX 16。16インチながらディスプレイは2560x1600のWQXGA。GPUも最大GEFORCE RTX 5090 Laptopとハイスペック(Intel版2月中旬、AMD版4月中旬販売開始)
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小型ゲーミングPCのOMEN 16。名前と左サイドの16Lというマークからわかるように16Lの小型筐体を採用。GPUはNVIDIA GEFORCE RTX4060tiまで対応します(2月中旬販売開始)
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Polyの会議システム。元々Plantronicsというヘッドセットのトップメーカーで、ビジネス向けのヘッドセットに強みをもっています。Polycomの買収と共にPolyにブランドを変更。2022年にHPが買収しました
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旧Poly的な製品は右の片耳でマイクブームのあるヘッドセットで、現在も人気商品ですが、最近はTWSヘッドフォンタイプもあります
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発売済の個人向けAI PCやプリンタ製品と共に展示していました
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産業用として定着した感のある3Dプリンタも地道に進化。見本を触ってみるとざらつき感が減っていましたし、中央にあるブックレットは表面テクスチャの見本で、意匠性を上げています
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商業印刷機の出力例。中央上は、KADOKAWAの書籍を新聞記事と共に展示しています。中央はagnaviの日本酒の缶。その隣のボトルラベルは表面と裏面で全く異なる印字を一回の印刷工程で実施しています(中央に不透明白色インクを入れる事で分離できます)
AI PCに関しては、パーソナルシステムズ事業本部長の松浦氏が説明しました。2024年はAI PC元年としてHPも個人向けのAI PCを発売していますが、2025年はAI PCを法人向けやゲーミングパソコンにも拡大します。また、法人向けセキュリティ「HP Wolf Security」によるセキュリティやプライバシー保護とHP eSIM ConnectやPolyを使ってハイブリッドワークの強化も行います。
AI PCは従来クラウド側で行っていた複雑なAI処理をPC内部で行う事ができるもので、よりパーソナライズされた体験とスピードに加え、外部にデータを送信しないため、セキュリティやプライバシー保護やコスト削減に役立ちます。
いっぽうで、AI PCだからこんなに便利という事例がまだ少なく、使いこなしにもコツが必要という事もあり、市場の過半数がAI PCという状態にはまだなっていません。
昔インテルが仕掛けたCentrino(無線LAN内蔵ノートパソコンに付けたブランド)やUltrabook(薄型軽量パソコンカテゴリ)のように名前が表舞台から消えても市場で一般的になるというのはまだ先になりそう。
次世代AI PCのラインナップの新製品として、個人向けにはオールインワン製品とOmen MAX 16を提供します。法人向けのノートパソコンとしてはElitebook X G1a、EliteBook X G1i。モバイルワークステーションのZbook Ultra G1aと、小型デスクトップワークステーションのZ2 Mini G1a Workstationが登場します。
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昨年のまとめ。AI PCを発売するとともにHPが持つWolf Securityの強化とeSIM ConnectやPolyによるハイブリッドワークの強化をしていました
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次世代AI PCは個人向けにAIOを追加するほか、ゲーミング、法人、プロフェッショナル向けと全方位に拡大します
Elitebook X G1i AI PCとElitebook X G1a AI PCには、Polyの技術を使ったwebカメラや機械学習でファンの静音性を高めるSmart Senseを搭載します。
さらに生産性を高めるためのツールとして「HP AI Companion」も提供します。プロンプトを入力してQ&Aやインサイトを得ることができます。これはGPT 4oを使用したクラウド利用ですが、個人ファイルを入れたことでカスタムライブラリを構築したり、PCのデータを使用したパフォーマンスを可視化するツールも含まれており、この分析やパフォーマンスの機能はNPUを使用したローカルAIとなっています。
ワークステーション製品はRyzen AI MAX PROプロセッサを搭載し、メインメモリも128GBまで対応。このうち96GBをグラフィックスに割り当てができるため、大規模言語モデルの追加学習にも対応するといいます。
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一般法人向けはHP EliteBoox X G1i/a 14 AI PCを投入。AIアシスタントやPolyによるハイブリッドワーク強化、機械学習による騒音低減等が盛り込まれています
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ワークステーションには最大128GBのメモリを搭載し、うち96GBがGPUに割り当てられると大規模モデルにも対応した製品を投入
OMEN MAX 16は16インチのゲーミングパソコンで刷新された冷却機能とオーバークロッキングを可能とします。この製品にはOMEN AIが含まれており、OMEN Gamin Hubで蓄積された数百万のデータと機械学習モデルでゲーム内設定とFPS向上との相関関係を検出し、最適な推奨設定を保存するといいます。対応ゲームタイトルも順次拡大するというので、楽しみな機能です。
またHyper Xの超低遅延アクセサリーをUSBドングルレスで3台までペアリングできるようになり、傘下のワイヤレスペリフェラルがスマートに接続できるようになります。
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ゲーミングノートPCもAI PC向けのモデルが投入され、さらにOMEN AIアプリによるゲーム設定の最適化を実現。傘下のゲーミングペリフェラルブランドHyperXの超低遅延アクセサリーのドングル不要なのもポイント
ちなみにHP製品はGxで第x世代製品を表していますが、CPU採用が広がったためか、Gxiはintel製CPU、GxaはAMD製CPUを意味するようになりました(qualcomm製CPU製品だとGxqです)。
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AI PCに足らないのはアプリケーション。そこでHPは独自のAI Companionを搭載。生成AIが使える機能に加え、ローカルファイルの分析やパソコンそのもののパフォーマンス確認ができるツールとなっており、後ろのふたつはローカルAIとなります
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Polyのカメラとアプリが入っていることでハイブリッドワークを快適に動作
AIをさらに加速するHP。プリンタを活用した事例も紹介
説明会の冒頭、岡戸伸樹社長は「2024年度は尻上がりによくなった」と総括していました。「今年は巳年、蛇が脱皮して大きくなるようにリスクを取っても大きく成長させる」と今年の抱負を語っていました。
今後数年のPC市場をけん引するのはAI PC。2024年はAI PC元年だったのですが、終わってみるとHPにおけるAI PC率は15%。2024年当初はIntel製のみでしたが、AMDやQualcomm製プロセッサも加わったものの、数値としてはやや低めなイメージがあります。
それでもAIが仕事に与える影響は大きいようで、HPが世界12か国12000人のナレッジワーカーに対して行った調査では、仕事でAIを利用している人は昨年の38%から66%と大きく向上し、AIが仕事を楽にしてくれると感じる人が73%、AIが仕事を楽しむ新たな機会を与えてくれたと感じる人が68%とAIに対する期待は高いようです。
岡戸社長は日本で仕事にAIを活用しているナレッジワーカーはまだ世界よりも低いとおっしゃっていましたが、AI利用の増大基調は変わらないと説明していました。
HPとしては「Future of Work」という企業の成長と従業員の充実を満たす事を狙っており、そのための大きな柱がAI。AIを活用したITプラットフォームとスマートテクノロジーとパーソナライズ体験、高いコラボレーション体験を柱としています。
一例としてAIによって印刷レイアウトを自動的に最適化するHP Print AI(現在、アメリカでβ提供を開始)を紹介。印刷レイアウトをあまり考えずにExcelを作ると、スプレッドシートが数枚にわたって分割されて印刷された経験がある人も多いハズ。きれいな結果を得るために何度も印刷プレビューを見てレイアウトを変更する試行錯誤を繰り返すというのは生産効率を下げてしまいますし、見た目の悪い印刷結果を四苦八苦してみるのも大変です。
HP Print AIを利用することで、タイトルが自動表示されるとともに、グラフやスプレッドシートが見やすくページ内にレイアウトされています。これはちょっと使ってみたい機能ですし、AIによって印刷結果がわかりやすくなって生産性を向上させるよい事例だと思います。
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AIの活用事例の一つとして、スマートなスプレッドシートの印刷を実現。この機能が提供されたらHPのプリンタを購入するかもしれません
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HPとしてはAI PCとデジタル印刷&3Dプリンタ、そしてソリューションビジネスを今後も推進。さらに多様な人材の確保と育成を行う方針です
日本での製品導入・採用事例としては4つ紹介していました。杏林製薬ではMR向けにHP Dragonfly G4を960台導入しました。HPが採択された理由としてHP eSIM Connectによる5年間の無制限データ通信利用権があり、いつでもどこでもデータ通信が利用て着る点と、HP Protect and Trace with Wolf Connectによって、電源オフの状態でも現在位置の把握や必要に応じてロック・ワイプ可能なMDMが提供されており機密情報を扱うMR向けにフィットしたと説明がありました。
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採用事例とポイント。5年間の常時接続を実現するHP eSIM Connectと電源オフでもPCの位置検索、ロックワイプができるMDM HP Protect and Trace with Wolf Connect対応ノートを杏林製薬のMRに支給
出版大手で総合メディア産業のKADOKAWAが、「ところざわサクラタウン」にHPのデジタル印刷機を8台導入。これにより100部からの小ロット印刷に対応し、従来ならば10日ほどかかる納期を1?3日という短納期を実現しています。
すでに3000万部がこのデジタル印刷機によって作られており、販売機会の損失や、返本や廃棄の減少という効果があり、特に返本率が10%削減できていると具体的な数字を挙げて説明していました。
Agnaviという日本酒スタートアップ企業は、日本の酒蔵の約10%に相当する120蔵元と提携し「一合180mLの缶入り」日本酒ブランドを展開しています。
従来の日本酒は一升瓶が主力ですが、これを飲みきりサイズにしたというのは大きく、現在200種類以上の地酒を販売しているそうです。種類の豊富さに加え、世界10か国への輸出も実現しているということで、ここで缶の印刷にHPのプリンタを使用していると紹介していました。
最後にSUBARUのコンセプトカー「SUBARU LEGACY OUTBACK BOOSTGEAR PACKAGE」用の部品をHP JetFusion 3Dプリンターを活用して製造したと紹介。従来ならば金型を作る必要がありますが、3Dプリンタでの制作ならばデザイナーの意志通りのパーツを短期間で製造可能です。
JetFusionは以前からある製品ですが、展示コーナーで見たところ素材そのものも改良されているようで3Dプリンタで製造したザラザラ感が減っているのと、表面テクスチャのサンプルが用意されており、それを組み込むことで気軽に意匠の変更ができるように思えます。最近は往年の名車の補修部品を3Dプリンターで製造しているケースもあります。
また、社内活動としてボランティアや社員の自主活動を通じたキャリア教育に関しても説明。全社員の2/3の社員が何らかのボランティア活動に取り組んでおり、これは昨年比10%増となっています。
具体的な活動としては中高生に対してのキャリア教育や、高校生に対してのサステナビリティ出張授業。さらにDE&Iの視点からのビジネス創造について説明しました。
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ボランティア活動に参加する社員は2/3を突破。出張教育だけでなく、DE&I向けのビジネスにも挑戦しています
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日本HP ワークフォースソリューション事業本部事業本部長の前田悦也氏
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HPのソリューションビジネスの中で珍しいのがセキュリティ。プリインストールだけでなく、他社製PCへの導入も可能な上、中堅・中小企業からエンタープライズ、自治体向け製品も投入しているのがユニーク
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要件の厳しい自治体にも導入実績があるとアピールしていました
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日本HP 人事総務本部本部長の濱岡有希子氏
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人事の方が出てくるのは珍しいのですが、日本HPを「働き甲斐のある会社」にするためにする活動を紹介していました
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社内リスキリングやマネージャー研修の早期実施、エバンジェリストの選定も行っています