月や火星で森は育つのか

  • 火星の森のイメージ

    火星の森のイメージ(提供:京都大学)

そもそも土井さんの発想の源は、宇宙の森作りだった。現在、人類はふたたび月に戻り、月に生活圏を築こうとしている。月に森を作ることはできるのだろうか?

「もちろんできます。月は真空なのでドーム型の構造物が必要ですが、ドーム自体も木でできるし、ガラス(のような透明な木材)も作ることができます。月には水があると言われているので、空気を満たしたドームを作れば木を月で生やすことはできると思います。水耕栽培か土壌の改良は必要になると思いますが」

土井さんによると、月ではジャックと豆の木の世界が実現できるという。「木の高さを決めるのは、根から頂上まで水を引き上げる力。それは重力に関係します。月の重力は地球の6分の1なので、月の木は地球の木と比べて6倍の高さに伸びるはず。地球上でもっとも背が高いのはセコイアで100mほどの高さですが、月では600mまで育つ大木になるでしょう。ジャックと豆の木の世界が再現できるはずで、それを見たいですね」

さらに、火星ではドームなしで木を育てることができると土井さんは考えている。「火星には二酸化炭素の大気があって、植物の光合成によって酸素を作ることができます。京大の樹木育成チームは、火星で樹木を育てるための実験も行っているんです」

具体的には低圧チャンバの中で植物を育てる実験を実施中だ。現在は0.1気圧まで実験を行っているが、火星環境は100分の1気圧以下。もっと低圧にする必要がある。「100分の1気圧でも木が生長できる条件を探すのが実験の目的です。火星ではドームなしに森ができる可能性がある」(土井さん)

  • 京大宇宙木材研究室では月や火星での樹木の育成法を探求している。アクリル製の低圧チャンバの中でポプラの苗を育てる実験中。育成目標は火星環境(1/100気圧二酸化炭素大気)の中で木を育てること。左:0.3気圧 右:大気圧

    京大宇宙木材研究室では月や火星での樹木の育成法を探求している。アクリル製の低圧チャンバの中でポプラの苗を育てる実験中。育成目標は火星環境(1/100気圧二酸化炭素大気)の中で木を育てること。左:0.3気圧 右:大気圧(提供:京都大学)

「木は約500万年前から、私たち人類の進化を助けてくれました。宇宙に行っても木がそばにあれば、きっと私たちを助けてくれるでしょう。私たちが宇宙で生きていけるなら、木は当然、生きていけるはずです。人間は人間だけで宇宙に行くのではありません。地球生命を味方にして宇宙に行くのが、正しい行き方だと思います」

木は私たち日本人にとって身近な存在であり、世界に誇る文化でもある。木とともに宇宙へ。なんと壮大な計画だろう。ただし研究には長い時間とコストがかかる。まずは今回のクラウドファンディングにぜひ、ご協力を。