携帯キャリアによるスマホの春商戦が盛り上がっています。発売されたばかりの新製品「第3世代iPhone SE」が条件付きで「一括1円」で売られるなど話題には事欠きませんが、細かい条件を紐解いてみると、さらにおトクな買い方が見つかりそうです。
新しいiPhone SE、発売初日から「一括1円」に
年度末を迎える3月、新生活が始まる4月は、携帯キャリアにとって重要な商戦期とされています。かつては、キャッシュバックによるMNPの獲得競争が繰り広げられた時期もありましたが、最近はさまざまな規制に対応した新しい値引き合戦が加速しています。
高価格帯のスマホで人気があるのは、残価設定型の購入プログラムです。一定期間後に端末を返却することで残債が免除されるというもので、携帯キャリアでは「iPhone 13 mini」や「Pixel 6」などの機種が0円に近い実質負担額で契約できます。この“実質負担額”とは、端末を返却した場合の金額なので、感覚的には“レンタル”に近いといえます。
これに対して、端末価格を「一括」で示しているものは通常の端末購入です。第3世代iPhone SEはこちらの売り方が多く見られ、ソフトバンクは家電量販店などで3月18日の発売日当日から64GBモデルを「一括1円」で販売し、話題になりました。その後はauも追従し、3月末まで似たような条件で販売しています。
法規制内の「22,000円」とは別に、機種代金も値引き
実際に、家電量販店などで売られている第3世代iPhone SEの価格を見ていきましょう。auの64GBモデルを例に挙げると、都内のビックカメラでは端末代金から43,334円引き、乗り換えまたは22歳以下ならばさらに22,000円引きで「一括1円」。ヨドバシカメラでは「対象機種限定特典」で43,325円引き、他社からの乗り換えならさらに22,000円引きで「一括10円」となっていました。
家電量販店によって条件は微妙に異なりますが、共通するのは値引きの種類が「機種自体の値引き」と「乗り換えなど回線契約を条件とした値引き」の2つに分かれている点です。この違いがあとあと重要になってくるので、ここで理解しておきましょう。
携帯キャリアがどういう価格で端末を売るかは自由と思われるかもしれませんが、実は法規制があります。2019年10月に施行された改正電気通信事業法では、回線契約に紐付く値引きの上限が「22,000円」に規制されました。
なぜ規制されたかというと、端末の過剰な値引きが横行するとキャリアは通信料金で元を取ろうとするため、料金が高止まりする懸念があったためです。スマホ売り場でよく見かける「22,000円」という数字は、この規制を上限まで活用したものといえます。
これとは別に、現在値引きの中で大きな割合を占めているのが、4万円を超える機種代金からの値引きです。各キャリアとも、第3世代iPhone SEに5G普及の起爆剤としての役割を期待しているとはいえ、発売直後の新製品としては異例の値引きといえます。
なぜ、ここまで大きな値引きができるのでしょうか? かつてのような「2年縛り」はありませんが、5Gで高速&無制限プランの快適さを一度体験すると元には戻りにくいものです。さらに、携帯キャリアの事業は多角化しており、光回線や電気、ポイント、金融など、各キャリア独自の経済圏に呼び込むことで元が取れる、との計算もありそうです。
すでに第2世代iPhone SEの販売は終了していることから、auとソフトバンクは最も安いiPhoneとして第3世代モデルに期待しているのでしょう。一方、ドコモの「一括1円」は第2世代のみで、第3世代は一括1万9800円で販売していることから、第2世代の在庫がまだ残っていることがうかがえます。
単体購入ならトータルで「一括1円」より安くなる場合も
第3世代iPhone SEが、現行の上位機種であるiPhone 13シリーズと同じ「A15 Bionic」プロセッサーを搭載していることを考えれば、「一括1円」は破格のオファーといえます。ただ、気になるのは1円になる条件として、auやソフトバンクへの乗り換えが必要となっている点です。
iPhone SEでも、メインの料金プランで5Gをフルに楽しむことはできますが、どちらかといえばサブブランドや新料金プラン、MVNOなどを活用し、データ容量を節約しながら毎月の料金負担を抑えたい人のほうが多いのではないでしょうか。
そこで注目したいのが「単体購入」という買い方です。現在ではアップルの直販と同じように、契約に手を付けることなく携帯キャリアから端末だけを単体で買うことができます。さすがに1円では買えませんが、こちらの場合も4万円強の値引きが適用されるため、22,000円程度で入手できます。もちろん、SIMロックはかかっていません。
UQ mobileなどのサブブランドやahamoなどの新料金プランを使い続けることで、メインブランドよりも料金負担を毎月3,000円抑えられると仮定した場合、8カ月以上使うならば22,000円を払ってでも単体購入したほうがトータルの負担額は安くなるというわけです。
問題は、キャリアや販売店にとっては端末を単体で売っても利益にならないとみられる点です。総務省による「競争ルールの検証に関するWG」(第26回)では、単体販売を拒否されたという消費者からの通報が取り上げられています。件数は徐々に減っており、法律の理解は広まっていると思われるものの、購入時には気を付けたい点です。
もし、来店客の多くが単体購入を希望すれば、キャリアや販売店にとって赤字は避けられないでしょう。ただ、実際にはそこまでテクニカルな買い方をする人はそれほどいないので成り立っている販売手法といえそうです。
「一括1円」でも十分におトクであることは間違いありませんが、スマホの値引き構造や法規制についての知識を少しアップデートしてから店舗を訪れてみると、これまでとは違った景色が見えてくるかもしれません。