2021年の年末は久しぶりに故郷や実家へ帰省したという人も多いでしょう。交通手段はさまざまですが、新幹線を使う場合、気になるのが車内の騒音。長い移動時間を過ごす間、動画や音楽、ゲームを楽しんだり、飽きたら着けたまま眠ってしまえるイヤホンがひとつあると便利です。
筆者は遠方への出張で新幹線で乗る前に、車内の騒音対策をどうするか少々悩みました。仕事柄、ノイズキャンセリング機能を備えた最新のイヤホン/ヘッドホンの情報にたくさん触れているので、その中から好きなものを選んでしまえば済む話ですが……。
実は私、音楽を聞いたり読書をしたりと、車内で何かに集中していると、普通列車ですら乗り過ごしてあわててしまうことが少なくないのです。最近のノイキャン搭載機種は騒音低減効果が格段にアップしていることもあり、こういう状況ではそれがかえってアダになります。「目的地が終点の列車を選べばいいのでは?」とは思っても、スケジュール的に選べる選択肢が限られてしまい、難しいこともあります。
車内で過ごしているときに適度に遮音しつつ、(到着駅などの)必要なアナウンスは聞こえるように完全に外の音をシャットアウトしない製品はあるのか? さらにいえば、あまりお金をかけずに済むとなお良し。
ということで筆者が今回選んだのが、有線イヤホン「Sleeper Loop」(実売2,200円)、完全ワイヤレスイヤホン「COTSUBU for ASMR」(6,980円、直販のみ)の2つ。これらを新幹線の車内で実際に使って試してみました。
Sleeper Loop/COTSUBU for ASMRの特徴
まずは、製品の概要をかんたんにお伝えしましょう。「Sleeper Loop」は音楽を聞きながら眠りにつきたい人向けのイヤホン、いわゆる“寝ホン”というジャンルの定番機種である、米ADV.ブランドの“スリーピングイヤホン”「Sleeper」(実売1,900円)をリニューアルし、10月に発売された新機種です。国内では宮地商会M.I.D.が取り扱っています。
シリコンハウジングを薄くフラットな形状に改良して、フィット感を高めているのが特徴。ダイナミックドライバーをひとつ内蔵していて、高音の再生能力を最高40kHzまで伸ばすなど、音質強化も図っています(Sleeperは20kHzまで)。ケーブルに備えたリモコンマイクには新たにスライドボリュームを追加し、接続したスマホなどをいじらなくても手元で音量を調整できるようになりました。
Sleeperは以前、筆者も気に入って使っていましたが、ケーブルが断線してしまったのか、いつしか音が出なくなってしまい買い直すハメに……。新しいSleeper Loopでは対策として、ステレオミニ端子をおおう箇所が断線しにくいよう、柔らかく長い形状に変更。さらにケーブルをくるくる巻いてステレオミニ端子をループ状のパーツに突き刺し、収納しやすいようにまとめられる機能も追加されました。これなら耐久性アップにも期待できそうです。
「COTSUBU for ASMR」は、低価格ながら音質に定評のある有線モデルをはじめ、高級機までさまざまなイヤホンを手がけるfinalが、自社ブランド「ag(エージー)」から11月に発売した“ASMR専用”完全ワイヤレスイヤホン。
睡眠導入やストレス解消を目的として昨今楽しまれているASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:音楽とは異なり、ささやき声や環境音などから得られる心地良さを追求したコンテンツ)のための音質設計を採用しているのが特徴。ASMRファンの一部で人気を集めているfinalの有線イヤホン「E500」の完全ワイヤレス化を目指した製品ということで、発表当初から注目を集めていました。とはいえ、かなりニッチな製品ということもあってか、今のところはfinal公式ストアと直営店舗「final STORE」のみで限定販売されています。
片側約3.5gと非常に小型軽量に仕上げられており、BluetoothコーデックはiPhoneなどに適するAACや、Androidスマートフォンで採用例の多いaptXに対応し、接続性も十分。MEMSマイクとcVcノイズキャンセリング機能を備え、ハンズフリー通話で使えます。片耳のみで使える「片耳モード」にも対応しています。
新幹線で実際に使ってみた
それでは、東京—新大阪間を走る新幹線「のぞみ」の車内で、2製品を実際に使ってみます。
まずはSleeper Loopから。筆者(30代男性)の耳穴は、イヤホンに標準でついていることが多い、真ん中のMサイズのイヤーピースでジャストフィットすることが多く、Sleeper Loopも問題なく装着できました。コンパクトなカナル型(耳栓型)なので、耳穴へのフィット感は上々。ハウジングを薄くフラットにしたというだけあって耳からの出っぱりが少なく、新幹線のヘッドレストに耳を押し当てるような体勢になっても痛くなりません。
ノイズキャンセリング機能はありませんが、装着してみると「ゴーッ」という耳障りな騒音をよく抑えられていると感じました。完全に騒音をシャットアウトするわけではないので「コーッ……」という感じでうっすら聞こえます。ただ、熟睡してしまうとマズい車内で使うには、個人的にはこれで十分。宿泊先の部屋で空調ノイズが気になる……というときにも重宝しそうです。
ケーブルがついているので、耳から外れてもなくしにくいのも大事なポイント。イヤホン出力を備えたスマートフォンや、ポータブルオーディオプレーヤー向きですが、変換アダプターを使えばスマホのUSB Type-C端子や、iOSデバイスが備えるLightning端子にもつなげられます。
なお、このイヤホンは本体とイヤーピースが一体化していて交換はできないので、SサイズやLサイズのイヤーピースを常用している人には向かないことに注意が必要です。
続いてCOTSUBU for ASMRです。こちらも最初からついているMサイズのイヤーピースで筆者の耳にはピッタリ。イヤホン本体にバッテリーや基板を詰め込んでいるぶん、Sleeper Loopよりは大きめのサイズですが、思ったより耳から出っぱらず、首を振っても安定しています。Sleeper Loopと同様、耳穴にジャストフィットの状態では耳障りな車内の騒音も抑えられて快適でした。
完全ワイヤレスなのでケーブルを引き回す必要がないのはとても便利です。連続再生時間も最大5時間と、バッテリー持ちはまずまず。移動時間以外は充電ケースにキチンと収めておけば、ケース込みで最大20時間利用できます。そのほか、IPX4の生活防水に対応するので、小雨くらいでは水濡れの心配をしなくてもよさそう。イヤホンなど小物を落としたりなくしたりしがちな人には向かないかもしれませんが、メーカーでは万が一イヤホンを片方を紛失した場合も、保証期間内であれば片方のみの購入もできるようにしているそうです。
ただ、COTSUBU for ASMRを使っていると、気になることもありました。たとえば、耳に着けたままヘッドレストに押し当てるような体勢をとると、本体のタッチセンサーに耳たぶが触れて勝手に操作されてしまい……ベッドなどに横になって使うと、高確率でイヤホンの電源が切れてしまいます。約3秒間のタッチセンサー長押しで電源オフという仕様によるもので、横になってASMRコンテンツを楽しむ人も少なくないはずなので、ここは改良して欲しいところ(COTSUBUシリーズ向けのスマホアプリはなく、タッチ操作のカスタマイズはできません)。これはベースモデルのCOTSUBU(6,480円)とも共通です。ついでながら、サラサラの粉雪塗装仕上げの手触りはいいのですが、充電ケースに若干色移りしたり、汚れがついたりしやすいのも気になります。
では最後に、両製品の音質のインプレッションについて。Apple Musicで睡眠導入向けの楽曲をいくつか聞いてみると、クラシックのピアノ曲やシンプルなサウンドの曲に合うようで、優しくゆるやかな音が楽しめます。この記事のために試聴テストをしているうちに、あぶなく眠りこけてしまうところでした(帰りの東京行きだったので寝落ちても心配はないですが)。
特に、Sleeper Loopは従来のSleeperよりも心持ちサウンドが明るくクリアに仕上げられており、実売価格の差額(300円程度)を考慮してもSleeper Loopのほうがオススメです。一方、COTSUBU for ASMRはやはりASMRコンテンツ、特に人の声に特化した音作りなだけあって、歌モノを聞いてもまるで耳の近くで歌われているような“ゾワゾワ感”がしますが、聞くコンテンツ次第ではまどろみの世界へとゆっくりいざなってくれる感じがあって秀逸でした。
リラックス用に最適。長時間利用には注意
Sleeper LoopとCOTSUBU for ASMRは、どちらもリラックスして使うことを目的とした特殊な用途向けのイヤホンなので、普段通りに音楽を聞いた場合は、よく言えば“穏やかでふわっとしたサウンド”、言葉を変えると“解像感があまり高くなくネムい音”に感じられます。
といっても、もちろんわざと音を悪くしているわけではありません。眠りにつくときなど、耳を刺激しないまろやかな音に仕上げられているので、製品のコンセプトと使い方がマッチすれば大変幸せになれるイヤホンです。「そんな目的のために手持ちのイヤホンを買い増す必要があるのか?」と聞かれれば、筆者は迷わず「イエス」と答えるでしょう。
今回のような目的でイヤホンを探している人には、癒やされるサウンドに加え、遮音性が高く、買いやすい価格帯であることも考え合わせると、両方ともオススメです。どちらを選ぶかは、音作りの好みや、ケーブルの有無など使い勝手の面で決めると良いでしょう。筆者は両方とも購入したので、横になるときはSleeper Loop、ソファにゆったり腰掛けて人の声に癒やされたいときはCOTSUBU for ASMRを……といった感じで、シチュエーションに応じて使い分けるつもりでいます。
今回取り上げた2製品に近い、“寝ホン”やASMRコンテンツ向けの選択肢としてはこのほかにも、少し値が張りますがボーズの睡眠用ウェアラブルデバイス「Bose Sleepbuds II」や、ASMR音源専用イコライザーも利用できるANIMAブランドの完全ワイヤレスイヤホン「ANW01」などがあります。「移動中はとにかく寝たい、音が聞けなくても良いけど騒音はカットしたい」という向きには、ビクターやサンワサプライの完全ワイヤレス型デジタル耳栓がありますので、自分に合った一品を探してみてください。
最後になりますが、公共交通機関での移動中や睡眠時などでイヤホンを使うときは、再生音量や聞く時間の長さ、イヤホンの清潔度に気を配るとベターです。大きな音量でずっと聞き続けると“イヤホン難聴”になるおそれがありますし、きちんとメンテナンスをしないと外耳炎にかかるリスクもありますので、長時間利用は避けるなど、ほどほどに留めておくと安心です。