米TIME電子版が10月1日付けで「Inside the Taiwan Firm That Makes the World's Tech Run」という記事を掲載し、その中でTSMCのMark Liu会長が、各国で自動車が減産にしている問題について、車載半導体の出荷量は自動車への搭載量よりはるかに多く、サプライチェーンのどこかで買いだめが起きていると指摘した。
台湾メディアはこのTIME誌のインタビューを一斉に取り上げているが、TSMCは来週開催予定のカンファレンス前のクワイエットピリオドのため、Liu氏や広報担当者は本件に関する一切のコメントを避けているという。業界関係者は、Liu会長が買いだめに言及したのは、TSMCが自動車向けチップの増産に尽力しているにもかかわらず、努力していないと後ろ指を指され、半導体不足の元凶のように言われていることへ反論するためだと見ている。
Liu氏はTIME誌とのインタビューの中で、顧客の実際の需要を把握する調査を行う中で一部の顧客による買いだめを確信したと説明している。TSMCはどの顧客が本当にチップを必要としており、どの顧客が買いだめを行っているかを把握する調査を進めているとし、重要顧客であっても差し迫っていない受注は出荷を延期するなど、業界にとっての最善策を取るとLiu氏が述べたとしている。
TSMCは2021年5月の段階で、2021年の車載用マイコンの生産量を前年比60%と拡大することを発表しているほか、米国政府が9月23日に自動車大手や半導体メーカーなどを招集してオンラインで開催した会合の後にも、サプライチェーンと協力し、半導体の供給不足問題に取り組むと表明している。
またLiu氏は、米中間に存在する敵意は誰にも利益をもたらさず、多くの中国企業がHuaweiのように標的にされないように、チップを備蓄しているとも指摘しているほか、「米国と中国は友人ではないかもしれないが、敵でもないことを理解する必要がある」ともしている。Boston Consulting Groupの調査によると、米国と中国の半導体技術やビジネスを「分離」すると、米国の半導体チップ会社の売上高が総額800億ドル削減されてしまうという。このため、米国の半導体および関連企業は、米国政府の半導体製品および製造技術輸出に関する中国制裁に反対している。
このほかLiu氏は、米アリゾナ州で計画している工場建設に関して、米国でのコストは想定よりはるかに高く、3年間で1000億ドルとしている資本的支出(研究開発や工場建設、設備投資などに投じる費用)について、不足する恐れがあるとの見方を示している。そのため、米国での製造はコスト高となり、サプライチェーンの柔軟性を向上させず、むしろ低下させる可能性があるとも指摘している。
なおLiu氏は、米国政府が半導体サプライチェーンを強引に追跡することに資金を投じて、国内での製造を進める代わりに、同じ規模を投じてシステム設計、AI、量子コンピューティングなど次世代技術のために使って、米国の強みに焦点を当てるべきであると述べ、今後の米国の技術開発の方向性についての提言を行っている。