スマートフォンに他キャリアのSIMを挿入すると通信ができなくなる「SIMロック」が、2021年10月から原則禁止となる予定です。SIMロックが原則禁止となることでユーザーにはどういった影響が出るのか、そのメリットと注意点などについて解説していきましょう。

総務省での議論の末、原則禁止が決定

スマートフォンに購入したキャリアとは違うキャリアのSIMを挿入して利用しようとすると、通信ができない「SIMロック」。かつてはSIMロックがかかっていることが当たり前で、キャリアを変えるなら端末も買い替えなければならないというのが常識となっていましたが、総務省が2015年にSIMロックを解除できるようにすることを義務化して以降、現在販売されている多くのスマートフォンは何らかの形でSIMロックを解除できるようになっています。

  • スマートフォンで通信するのに必要なSIMだが、他キャリアのSIMを利用できないようにする「SIMロック」が、10月1日以降は原則禁止されることとなる

ですが今後販売されるスマートフォンは、SIMロックを解除する必要なく、他社のSIMを挿入して利用できるようになることが予定されています。

なぜなら総務省が2021年5月まで実施していた有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」での議論の末、SIMロックは端末購入者の利便性を損ない、キャリア間の競争を阻害するものであるとされ、SIMロックをかけることを原則禁止にするという結論が打ち出されたからです。

  • 総務省「スイッチング円滑化タスクフォース報告書(概要)」より。現状SIMロックはかかっていることが前提となっているが、今後はかけること自体を原則禁止するようになる

総務省は8月10日、意見募集の結果を踏まえ、「移動端末設備の円滑な流通・利用の確保に関するガイドライン」の改正版を公表しました。これによるとSIMロックは2021年10月1日から原則禁止となる方針です。では一体、SIMロックが原則禁止となることで、我々のスマートフォン利用にどのような変化が起きると考えられるでしょうか。

原則禁止は2021年10月1日を予定、例外は

最大の変化は、2021年10月以降に発売されたスマートフォンには原則としてSIMロックをかけることができなくなり、SIMロック解除の手間をかけることなく他キャリアのSIMを挿入して利用できるようになることです。

例えばauでスマートフォンを購入した後、すぐソフトバンクのSIMを挿入して利用することも可能になるワケで、同じ端末を使ったまま他キャリアへ乗り換えやすくなることが、消費者から見た最大のメリットといえるでしょう。

先のガイドラインを見ますと、SIMロックが原則禁止となるのはスマートフォンやフィーチャーフォン、タブレット、モバイルルータ、そしてUSBモデムとかなり広範囲にわたっているようです。それゆえ2021年10月以降に発売された端末であれば、基本的にSIMロックを気にすることなく他社回線に乗り換えることができると考えてよいでしょう。

もっともSIMロックの禁止はあくまで“一律”ではなく“原則”であり、例えば顧客が端末を分割払いで購入する際、不払いが発生するリスクがあるとキャリア側が判断した場合は、総務省に確認した上でSIMロックをかけることが認められています。

ただその場合であっても、信用や支払いが確認できた場合は、顧客が手続きをする必要なく無料でSIMロック解除することがキャリアには求められています。

10月以前に発売した端末は対象外

一方、2021年10月1日より前に発売された機種は改正されたガイドラインの対象とはりません。そうした端末を2021年10月1日以降に購入した場合は、従来同様SIMロックがかかっている場合があり、他キャリアのSIMを利用する場合は解除の手続きが必要なことにも注意が必要でしょう。

ただ実は、既に原則SIMロックを解除した状態で端末を提供しているキャリアもいくつか存在します。楽天モバイルは参入当初から販売する端末にSIMロックをかけていませんし、MVNOも既に同様の措置を取っています。またNTTドコモも2020年8月から、端末を一括払い、あるいはクレジットカードによる分割払いで購入した場合はSIMロックがかかっていない状態で端末を渡すようになっています。

一方でKDDIとソフトバンクは現状、一括またはクレジットカードによる分割払いで購入した場合、利用者の申し出があればSIMロックを解除するという対応にとどまっており、ガイドライン改正までは同じ措置を継続すると考えられます。

ただしソフトバンクは8月10日、ソフトバンクとワイモバイル、LINEMOのブランド間ののりかえ手続きをした場合、自動的にSIMロック解除の手続きを行うと発表しました。また、KDDIはSIMロック原則禁止の措置を先取りする形で、auブランドなどで販売するシャオミ製の新機種「Redmi Note 10 JE」に関しては、原則SIMロックがかかっていない状態で販売するとしており、対応にやや変化も見られるようです。

  • KDDIがauブランドから2021年8月18日に販売する「Redmi Note 10 JE」は、SIMロック原則禁止に先行してSIMロックが解除された状態で販売されるとのこと

同じ端末を使って他社に乗り換える際の注意点

SIMロックが原則禁止になったことは確かに消費者にはメリットなのですが、だからといって同じスマートフォンに他キャリアのSIMを挿入して快適に利用できるかというと、必ずしもそうはいかないことも覚えておく必要があります。なぜならモバイル通信を利用する上で重要な周波数帯(バンド)の対応具合が、端末によって違っているからです。

実は携帯4社に割り当てられているバンドは同じではなく、例えば同じプラチナバンドと呼ばれる帯域で比べてみても、NTTドコモの800MHz帯(バンド19)とKDDIの800MHz帯(バンド18)には違いがありますし、ソフトバンクに割り当てられているのは900MHz帯(バンド8)と、また別の帯域になります。

しかも大手キャリアから販売される端末は、iPhoneなど一部を除くと各キャリアが免許を持つバンドを使って快適に通信できるよう設計されていることが多く、他社の主要なバンドをカバーしていないことが意外と多いのです。そうしたことから契約しているキャリアが使用しているバンドに端末側のバンドが対応していなければ、通信速度が遅かったり、特定の場所で通信ができなかったりするなど、快適に通信できなくなってしまう可能性があるのです。

  • 総務省「各携帯電話事業者の通信方式・周波数帯」より。携帯4社に割り当てられているバンドには違いがあり、そのバンドに対応している端末で利用しないと通信ができない

各端末の対応バンドは、SIMフリー端末であればメーカーが公表しているスペック表などに、キャリアが販売する端末であれば各キャリアのWebサイトに情報が掲載されています。SIMロックがかかっていない端末で今までとは異なるキャリアのSIMを利用する際には、事前にそれらの情報を確認することが必須と考えておいた方がよいでしょう。

  • NTTドコモの「SIMロック解除対応機種および対応周波数帯」より。各キャリアは販売した端末が他社SIMで利用されることを見据え、SIMロック解除ができる機種の対応バンドを公開している

またスマートフォンやSIMに詳しくない人の場合、他キャリアのSIMに差し替えただけでは通信できない場合が多いことも知っておく必要があります。SIMを差し替えた後にAPN(Access Point Name、端末からインターネットに接続するために必要な情報)を設定する必要がありますし、iPhoneであればそのAPNを設定するための「構成プロファイル」のダウンロードが求められる場合があります。

特にMVNOのSIMや、「ahamo」などオンライン専用プランのSIMを利用する場合、そうした設定や操作は全て自分でする必要があり、お店でサポートしてくれる訳ではありません。SIMロックがかかっていないからといって誰でも簡単に他キャリアへの乗り換えができる訳ではなく、乗り換えにはモバイル通信に関する一定の知識が必要になることはぜひ知っておいてほしい所です。