ServiceNow Japanは7月29日のオンライン記者説明会で、ServiceNowのクラウド型プラットフォームである「Now Platform」とAPI接続コネクタ「Spoke」を活用して、自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるソリューションを紹介した。

東広島市がプラットフォームで情報連携

「Now Platform」は、業務の流れをクラウド上で管理するデジタルワークフローの基盤となるプラットフォームサービスだ。プラットフォーム上のアプリケーションワークフローでユーザーが必要なアプリを作成できるうえ、企業や自治体などで頻繁に発生する業務に関するサービスはSaaSでも提供している。また、業務特化型の一般的な基幹系システム同士をつなぐハブとしても運用できる。

自治体のDXを進めるうえでは、住民と行政がつながる環境、つまり自治体のエンドツーエンド環境の実現が重要で、そのためにはデジタルワークフローの導入が有効だとServiceNow Japanは考えている。

  • ServiceNowが考える自治体のDXのイメージ

同社第一営業統括本部エンタープライズ営業本部 兼 公共・社会インフラ営業本部営業本部長の野澤さゆり氏は、「従来のように人の努力で関係各所をつないだり、業務を遂行したりするのではなく、プラットフォーム環境を整備することで、部門を横断する業務の流れを整流化し、職員の体験向上も実現できる」と断言する。

  • ServiceNow Japan 第一営業統括本部エンタープライズ営業本部 兼 公共・社会インフラ営業本部営業本部長の野澤さゆり氏

例えば、自治体では施設予約や図書館利用、電子申請などの行政サービスをオンラインで提供しているが、ポータルや本人認証、グループ決済などの機能は個別に導入されているケースが多い。IDやパスワードも異なるし、対応している決済方法や本人確認機能もバラバラだったりする。

分断されているサービスをプラットフォームで統合すれば、ユーザーは共通のインターフェースで各サービスを利用できるし、一つのプラットフォームにデータが蓄積されることで、自治体もEBPM(エビデンスに基づく政策立案)に着手しやすくなる。

  • 自治体サービスの統合で得られるメリット

東広島市では2021年4月から「Now Platform」を利用して新たな「市民ポータルサイト」が開設されている。まずは、小中学校・幼稚園からの情報配信・情報閲覧、地域のゴミ収集通知、希望する分野に応じた市からのお知らせを第一弾のサービスとして提供し、コミュニケーションアプリとの連携や市役所の基幹システムなどとの情報連携を進める予定だ。

ServiceNow Japan 第一営業統括本部 公共、社会インフラ営業部 エグゼクティブセールスの森義貴氏は、「東広島市でのケースで、当社はプラットフォームのみを提供し、機能の要件定義は行っていない。自治体が提供したい行政サービスの内容や在り方というニーズに対して、プラットフォーム活用のサポートにとどまり、機能・サービスの改良などは自治体側が内省で進める点が、従来のパッケージでのシステム提供と異なる」と明かす。

  • ServiceNow Japan 第一営業統括本部 公共、社会インフラ営業部 エグゼクティブセールスの森義貴氏

API連携の負荷を軽減する「Spoke」

自治体のDXを実現するには、多様なシステム・サービスとの連携が欠かせない。すでに自治体では県庁や市役者内の情報システムをはじめ、個人認証、電子決済、帳票出力などのサービスやアプリ、地方公共団体を相互に接続するためのLGWAN(エルジーワン:総合行政ネットワーク)など、さまざまなシステムが利用されている。

ServiceNowでは、ユーザーがAPI連携で発生するコーディングなどのコストや手間を省けるよう、外部システムと接続するための連携プロトコルに対応するだけでなく、「Spoke」というAPI接続用のコネクタを提供している。2021年5月時点で、ServiceNowのパートナー企業のものを含めて850種類以上のSpokeが用意されている。Spokeを提供する企業は新しいバージョンでの検証を行い、時代の流れに合わせて随時新たなSpokeを提供する。

  • 「Spoke」のシステム連携先の例

「Spokeがあることで、API連携に際しての開発やバージョンアップなど開発者の運用負荷を軽減し、コストと導入時間の最小化を実現できる。システム管理者が要するシステムだけでなく、BoxやDocuSignなどとも連携できるので、エンドユーザーのDXも後押しできる」(野澤氏)

ネットショッピングのように住民票を申請

今回の記者説明会では、Spokeを用いてServiceNow Japanとパートナー企業が共同で構築した住民サービスポータルソリューションのデモが行われた。

住民票の写しを取得するケースが想定され、ユーザー(住民)は機能ごとにログインやツール変更を必要とせず、案内されるオペレーションに従うだけで申請まで行える。申請が完了すると、ユーザーはマイページ上で住民票発行の進行状況をリアルタイムに確認できる。また、自治体の職員には電子データが送られる仕組みなので、本人との対面や手作業による書類チェックなどを行わず、システム上で作業を完了できる。

  • 「住民票の写し」を発行するまでのフロー

デモで使用されたシステムのうち、公的個人認証サービスとの連携のためのSpokeはNECが開発。Web決済連携のためのSpokeはDGフィナンシャルテクノロジーが開発した。

ServiceNow Japan エンタープライズ・公共・社会インフラSC本部アドバイザリー ソリューションコンサルタントの山田一也氏は、「Spokeによる連携で、住民はネットショッピングのように手軽かつスムーズに申請が行える。一方、職員には作業のデジタル化で時間が生まれることで、人だからこそできる職務に専念できるはずだ」と語る。

  • ServiceNow Japan エンタープライズ・公共・社会インフラSC本部アドバイザリー ソリューションコンサルタントの山田一也氏

この他、ServiceNow JapanはLINEへの接続、オンライン申請結果の帳票出力、RPAといった組織内の事務効率化に利用できるSpokeも提供可能だという。今後は「ぴったりサービス」や「gBizID」など、国が提供する新たなサービスやシステムとの連携用のSpokeも整備していく予定だ。