中外製薬は6月25日、同社が掲げる成長戦略である「TOP I 2030」と、デジタル戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に関する記者会見を開催した。同社は、デジタル人財/人材を育成するプログラムである「Chugai Digital Academy(CDA)」、業務改善を促進する「Digital Innovation Lab(DIL)」、業務手順を見直し効率化を図る「Reconsider Productive Approach(RPA)」の3つの取り組みを通じて、デジタル基盤の強化を狙う。

同社は今年2月に、2030年に向けた成長戦略として「TOP I 2030」を発表している。この成長戦略では、「デジタル技術を活用した世界最高水準の創薬実現」と「先進的事業モデルの構築」を2つの柱として定めており、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって研究開発と薬品の上市を促進したいという。

また、同社が2030年に到達するべき姿として、「世界の患者が期待する」「世界の人財/人材とプレーヤーを惹きつける」「社会課題を解決する世界のロールモデルとなる」の3点を掲げている。「革新的新薬」を事業のコアに据え、世界のヘルスケア領域においてトップクラスのイノベーターを目指しているとのこと。

  • トップイノベーター像実現に向けた5つの改革

執行役員 デジタル・IT統括部門長 志済聡子氏は「TOP I 2030」の実現に向けたデジタル戦略として、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を挙げた。これには、デジタル技術によって同社のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供する目的があるのだという。志済聡子氏は会見の中で「デジタル技術を取り入れた創薬によって社会を変えるために、個々人に最適な個別改良の提供や、早期診断、予防、治癒の実現によって高いQOLを実現することに貢献していきたい」と述べた。

  • 中外製薬 執行役員 デジタル・IT統括部門長 志済聡子氏

また、同社は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を支える3つの基本戦略として、「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「全てのバリューチェーンの効率化」「それらを支えるデジタル基盤の強化」を策定している。デジタルを活用するにあたっては、人材が重要となるが、同社ではCDAによって、部門横断的に育成対象となる人財/人材を募集し、職種共通および職種別専門の講座から構成されるOff-JTと、実践的なOJTまで含めた包括的な育成プログラムを提供する。データサイエンティスト専門プログラムや、デジタルプロジェクトリーダー専門プログラムなど、職種に応じてより専門性の高い教育も実施される 。

デジタル戦略推進部長 中西義人氏は、自社内での社員育成だけでなく、社内で蓄積した製薬とデジタルのナレッジを、学生を中心とした次世代人財/人材に積極的にも提供していくと説明した。これには、社会への還元を通じて、同社のブランド価値と採用力の強化を図る狙いがある。さらに同社は、CDAのコンセプトを実現するために、社内外におけるデジタル人財/人材の強化を共に促進するパートナー企業を募集している。

  • 中外製薬 デジタル戦略推進部長 中西義人氏

DILはビジネスとデジタルの両観点から、業務の改善や新たな価値の創造を実現し、社内だけでなく社会的な課題の解決も目指すもの。組織としてだけでなく、個人単位でもアイデアの提案が可能であり、誰もがチャレンジできることがポイントだという。

DILではアイデアの創出から、PoCの計画および検証、本番展開の意思決定までのプロセスを包括的に支援していく。それぞれのアイデアが検討される過程は全社的に共有され、より良いアイデアや解決方法がフィードバックされる仕組みとなっている。また、優れたアイデアについてはインセンティブなども検討されている。

さらに、社内からのアイデアだけではなく、社外のパートナー企業が起点となるアイデアの提案も受け付けている。パートナーが企画やアイデアを提案することで、希望した同社社員とマッチングでき、両社が共同で企画書を作成するとのこと。

続いて、3つ目のデジタル基盤の強化に向けた取り組みとして、ITソリューション部長 小原圭介氏がRPAを紹介した。通常、RPAはRobotic Process Automationを指すことが多いが、同社のRPAは、ロボットを開発する前に現在の作業内容や手順を見直すことから始めることだという。小原氏は、2018年に同施策を開始して以降、累計7.7万時間以上の業務時間を削減したと報告した。

  • 中外製薬 ITソリューション部長 小原圭介氏

同社ではRPAをより拡大するために、社内認定制度を作成し、認定資格として人事システムに登録できるようにしている。また、これまでの3年間の活動から、RPAを活用する組織の積極性に濃淡があることや、多くの従業員が活用できるRPAが少なく、効果を実感できている従業員が限定的であることなど、徐々に課題も見えてきたという。こうした課題を解決しつつ、2023年にはAI(人工知能)を利用しながら累計10万時間の業務時間の削減を目指すとしている。