オンデマンド形式で2021年1月15日まで開催されていたエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2020 Virtual」併催のSEMIマーケットフォーラムにおいて著名な証券会社の5人のトップアナリストによる2021年の世界半導体半導体製造装置市場(おもにウェハファブ装置市場)を予測する座談会が開催された。

英国に本拠を置くInformaの市場動向調査組織OMDIAのシニアコンサルティングディレクターの南川明氏が司会を務め、クレディ・スイス証券株式調査部マネージングディレクターの前川英之氏、ジェフェリーズ証券調査部シニアアナリストの中名生正弘氏、野村証券エクイティ・リサーチ部マネージングディレクターの和田木哲哉氏、JPモルガン証券市場調査本部株式調査部長マネージングディレクターの森山久史氏、UBS証券株式調査部エグゼクティブディレクターの安井健二氏の5人のアナリスト(最初の発言順)に2021年の見通しが語られた。

その様子を以下に紹介しよう。

ばらつく2021年半導体装置市場予測

司会(南川氏):来年の半導体製造装置業界の対前年比成長率と注目点は?

前川氏:5%減を予測している。注目点は「中国におけるNANDおよびファウンドリ投資はいつまで継続するか?」、「2010年代に投資をけん引してきたiPhoneの技術サイクルが2021年も投資を継続できるか?」、「HPC向け投資がどこまで設備投資に寄与できるか?」、「メモリ世代交代時期だが、メモリ向け投資がROIをクリアして継続できるか?」の4点である。全般に、2021年の装置投資に関しては保守的に見ている。

中名生氏:3.8%増(WFEに限定)を予測している。2020年は9.7%増だったので、2021年上期は減速すると見ている。後半は中期的成長に戻るだろう。注目点は、2020年に世界設備投資総額の11%を占めたIntelおよび8%占めたSMICが2021年にどんな投資を行うか?

和田木氏:10%増と絶好調で過去最高額の投資を予測している。注目点は、半導体需要を大いに高める中国監視カメラ市場とコロナ後に理想社会の構築を目指すデジタルトランスフォーメーションである。

森山氏:3.1%増(各社の設備投資計画を2020年末の段階で積み上げた数値)と予測している。2020年1月には、同年の設備投資はマイナス1.7%と予測していたが、12月時点ではプラス9.8%にまで増加し、11.5%もギャップが生じた。2021年もこの調子で積み増せば、14.6%増というシナリオもありうる。

過去から現在に至るシリコンサイクルをみると、これから2年間の成長期の入り口にあたり、IoT/AIに加えて5Gが成長ドライバーとなろう。

安井氏:6%増と予測している。2020年は16%増と強気のスタンスをとっている。半導体は構造的な成長産業であり、スマホの5G化、それを支えるデータセンタのテクノロジーに注目している。 懸念事項は「Intelの投資戦略が大きく変化するか」、「NANDが供給過剰 となるか」、「中国へのメモリ規制が出るかどうか」の3点である。私たちは規制は出ないと見ているが、政治がらみの問題なので実際どうなるかわからない。なお、半導体産業は、景気減速対テクノロジ依存加速のバランスで着実に成長していく。

司会:強気な見方をしている人が多いように感じた。不確定な要素も多く、予測はますます難しくなっている。

米中貿易摩擦の製造装置業界への影響は?

司会:次に、米中の関係が半導体装置市場にどんな影響を与えるか。デカップリング下で中国は自国で装置作れるようになると思うか、という問題の見方を問いたい。

安井氏:米国は中国の技術を脅威と認めている。解決は難しく2021年に関しては装置産業にとってマイナス要因となる。半導体に対してもマイナス要因。

和田木氏:短期的にはかなりプラスに働く。米中問題で予想外の投資が次々出てきている。しかし、数年先はリスクがありマイナスに効いてくる可能性性が高い。米国はBuy Americanの方針を鮮明に打ち出し、一方では中国装置メーカ―が育ってきて、日本の装置業界にとってはマイナスになろう。

森山氏:2021年の中国の設備投資は、SMICに関してはマイナスだが、DRAMやNANDへの投資が大きく増えるので、全体ではプラスとなる。中国は5年ぐらいで一部装置は国産可能だが先端品は難しい。日本の装置メーカーにとっては中国へ売り込むことでプラスに働く。

中名生氏:今は日本の装置メーカーがシェアを上げられるように状況にはないが、長期的には日本装置メーカーにとってはチャンス。中国メーカーの国産化には時間がかかる。米中問題は、数年にわたりネガティブな事象が発生するだろう。

前川氏:中国の設備投資は余剰感がある。グローバルには実情に合った投資になっている。

中国装置の国産化は先進国に比べて10年ギャップがあるので、実用化がともなっていない。日本の半導体メーカーが日本の装置材料メーカーを育てたが、中国半導体メーカーは果たして地場産業を育てられるかという問題ある。中国の国産化には時間がかかる。