オンデマンド形式で2021年1月15日まで開催されていたエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2020 Virtual」併催のSEMIマーケットフォーラムにおいてSEMI ChinaのIndustry Research and Consulting担当シニアディレクタであるLily Feng氏が「中国の半導体サプライチェーン」と題して、日本ではあまり知られていない中国の半導体産業の内側を紹介する講演を行った。

中国政府が掲げる新たな半導体政策とは?

同氏の話は、2020年8月4日に中国政府国務院が発行した、半導体産業に対する重要施策を記した「8号文書」の紹介から始まった。

同文書は、情報産業の中核であり科学技術に革新をもたらす半導体とソフトウェアの両産業に質の高い発展を促進するための中国政府の方針を説明した文書で、半導体とソフトウェアが発展するための8つのかぎを握る項目として、「金融・税制」、「投資融資」、「研究開発」、「輸出入」、「人材」、「知的財産」、「市場活用」、「世界的な協力」を挙げている。

中国に設立された半導体企業とソフトウェア企業は、所有者に関係なく規則に従って関連する政策を享受できるとしているほか、ICとソフトウェアに関して世界的な連携を深め、海外に展開することにも言及している。

中国では、「新基建(New Infrastructure Plan、新たなインフラ計画)」と呼ばれる国を挙げたインフラ整備のプロジェクトがスタートしようとしており、「5Gネットワーク」、「産業用インターネット(IIoT)」、「高速鉄道」、「データセンタ」、「AI」、「超高圧グリッド」、「EV充電ステーション」という7つの分野に焦点が当てられている。

この国家プロジェクトの実行で、中国の国内半導体産業に多大なビジネスチャンスをもたらすことが期待されている。5Gネットワークを例に挙げると、現在の規模は2900億元だが、2025年までに4000億元に成長すると予測されている。半導体としては、RFと電源管理ICの需要の伸びが期待される。充電ステーション、高速鉄道、超高電圧グリッドはパワー半導体と密接に関連してくる。データセンタはメモリの需要を促進し、AIはCPUとGPUの利用を促進し、IIoTは各種センサの需要を促進するといった具合である。

  • 中国半導体

    新しいインフラ整備プロジェクトは半導体産業にとって大きなビジネスチャンス (出所:SEMI China、以下すべて)

中国政府による半導体産業投資基金

中国半導体産業を発展させるための資金はどうなっているのだろうか。中国政府は2014年9月、国内半導体および関連産業振興のために「国家集成電路産業投資資金」(通称「大基金、Big Fund」)を設立した。第1期の大基金で調達された投資資金総額は1387.2億元で、23の半導体および関連企業の70のプロジェクトに投資された。その67%が半導体製造関連に、17%が設計関連に、10%がパッケージングとテスティングに、残りの6%が半導体製造装置・材料企業に投資された。その結果、国内の半導体生産能力不足問題が緩和され、プロセス改善や技術向上に役立ったという。

第2期の大基金は、2019年10月に設立され、調達された投資資金総額は、第1期を上回る2040億元とされる。残り4年間で中国の半導体産業をさらに振興することを目的に活用される予定で、半導体自給自足のため装置材料開発に第1期よりも注力するとしている。

半導体関連企業に利益をもたらす中国の新興株式市場

上海証券取引所は2019年、新たにSTAR市場を立ち上げた。米国のNASDAQのような市場である。2020年10月時点で185社が上場しているが、半導体関連は27社で、STAR市場の主役になっている。27社の内訳は、14社がファブレスIC設計会社、7社が半導体材料メーカー、4社が半導体製造装置メーカー、SMICを含む2社が半導体メーカーである。

市場価値上位20社のうち、半導体関係企業が5社を占めている。STAR上場企業の平均企業価値は170億元であるのに対して、半導体関連27社の平均企業価値は350億元と高い。

STAR市場では、半導体製造装置および材料メーカーが魅力的で、例えば、先端エッチングやMOCVD装置を手掛けるAMECは、株式公開時の株価は29元だったが2020年10月時点の株価は180元、市場価値は1000億元近くまで上昇している。また、CMPスラリメーカーのANJIは、格式公開時の株価は39元だったが2020年10月時点の株価は334元、市場価値は180億元近い。半導製造装置材料メーカーは株式市場の有効な資本循環を形成しつつあり、市場価値に対する利益を市場から享受している。 

同氏は「米国の半導体関連企業の売上高に対する研究開発費の比率は16.4%に対して、中国では8.3%にとどまっており、今後、中国企業は、米国企業に追いつくためには研究開発にもっと力を入れる必要がある」と指摘した。ちなみに、日本の比率は8.4%で中国に次いで低い。