Intel

相変わらず順調に遅れている(?)のがIntelである。まず10nm世代。8月に開催されたIntel Architecture Day 2020によれば、2019年に最初の10nm(Ice Lake向け:既にCannon Lakeの10nmは無かったことになっている)を投入。2020年にはこれを改良した10nm SuperFinを投入予定で、将来は更に性能を引き上げた10nm Enhanced SuperFinを投入するとしている。実際に10nm SuperFinはこの説明会の1カ月後の2020年9月にTiger Lakeで採用されたので、スライドの公約は守った格好だ。一方で10nm Enhanced SuperFinは投入時期が明確にされていない。

問題はこの10nmの状況である。2020年10月に行われた第3四半期決算に関するEarning Callの中でBob Swan CEOは"We've made really good progress on 10-nanometer yields during the course of this year. And the expectation as we mature going into next year on 10-nanometer will in fact -- We expect will in fact improve"(10nmプロセスのYieldは非常に良くなっており、来年(つまり2021年)にはMatureになる予定で、実際そうなると期待している)と述べたその直後に、"And then we have some headwinds. When we migrate more and more of our volume from 14 to 10 that will work against us as we anticipated as we planned"(しかしながら、量産プロセスの軸を14nmから10nmに移行するのは予定通りにはならないだろう。これに関しては我々にとって逆風となっている)と言っている辺り、10nmのYieldそのものは改善していても、生産量そのものは(少なくとも2021年中は)14nmに及ばない程度とみられる。

これに関してはこの後も説明するが、そもそも10nmプロセスはXe GPUとIce Lake-SP、それとTiger Lakeでほぼ供給が一杯いっぱいという感じである。実はこのIce Lake-SPに関してはクライアント向けのIce Lakeと同じく10nmで、10nm SuperFinではない(これは2020年のHotChipsで明らかにされている)。Intelの事情からすれば、本来であれば10nm SuperFinに移行させた方が効率が良い。Tiger Lakeはもう10nm SuperFinだし、Xe GPU(正確に言えばサーバ向けのIntel Server GPUとモバイル向けのIris Xe MAX)も10nm SuperFinになっている(こちらは元々10nm SuperFinを前提に設計されているから、10nmでの製造には恐らく再設計が必要)し、Yieldを高めるためにも10nmと10nm SuperFinが混在する環境はIntelとしてもあまり嬉しくないからだ。にも拘わらず実際には混在させざるを得ない訳で、するとどうしても供給量を増やすのは難しくなる。

話を戻すと、そんな訳で10nm/10nm SuperFinは2020年中に量産がスタートしているものの、Desktop向けまでカバーできない状況であり、これは最低でも2021年一杯続くだろう。もっとも、では外部委託を...といってもIntelの必要とする分量のウェハを生産できるFab、もっと正確に言えばIntelの必要とする分量のウェハを追加で生産できるFabは世界中探してもどこにもない。結果的に、特にDesktop向けCPUに関しては引き続き14nmに頼らざるを得ない。性能はマイクロアーキテクチャの改良などで向上させられるし、動作周波数も恐らく引き上げられるだろうが、その一方で消費電力は酷い事になるだろう。今更14nmプロセスの省電力化、という訳にもいかない(そもそも14nmは元々低動作周波数/省電力向けのプロセスで、これをどんどん高速型に引っ張り上げたのが14nm+とか14nm++である)。さすがに14nm+++が出るとは考えにくい(絶対に無いとは言えないが、このあたりはRocket Lakeがそうしたプロセス側のカスタマイズを必要とするか否か次第である)。

  • Photo03: ポン太さん(♂)。同居してたヴィーノさん逝去後はひたすら甘えん坊になり、無限「顎を掻け」攻撃を繰り出してきた。元々は外猫として15年ほど大原家で過ごし(大原家玄関の脇のシェルターで生活)、2018年の引っ越しを機に家猫になった子。2020年11月逝去。

さて、問題はそれでも立ち上がった10nmではなく、その先の7nmである。2020年7月のEarning Callの中でSwan CEOは"Turning to our 7nm technology: We are seeing an approximate six-month shift in our 7nm-based CPU product timing relative to prior expectations. The primary driver is the yield of our 7nm process, which based on recent data, is now trending approximately twelve months behind our internal target. We have identified a defect mode in our 7nm process that resulted in yield degradation. We've root-caused the issue and believe there are no fundamental roadblocks, but we have also invested in contingency plans to hedge against further schedule uncertainty."(7nmプロセスベースのCPU製品の投入タイミングは、おおむね6カ月ほどずれる。主要因は7nmプロセスの歩留まりで、最新のデータによれば当初の社内計画と比較して12カ月遅れている。この歩留まり悪化の根本的な要因となる欠陥モードは特定できており、これをもたらす根本要因の排除を行なうことそのものは可能と考えている。ただし更なるスケジュールの遅れを回避するための代替プランにも投資を行っている)とした。

更にこの遅れの結果として、"We now expect to see initial production shipments of our first Intel-based 7nm product, a client CPU in late 2022 or early 2023. We are also focused on maintaining an annual cadence of significant product improvements independent of our process roadmap, including the holiday refresh window of 2022. In addition, we expect to see initial production shipments of our first Intel-based 7nm data center CPU design in the first half of 2023"(現時点では、7nmベースのクライアントCPUの投入は、2022年末ないし2023年初頭になる事を予定している。ただしそれまでの期間も引き続き重要な製品のアップデートは継続する予定であり、2022年のホリデーシーズンに向けても新製品の投入を行う。加えて言えば、最初のIntelベースのデータセンター向けCPUは2023年前半の投入となるだろう)としている。

まず前半の話はまぁ読んだ通りであって、2020年7月の時点で7nmプロセスの投入が1年遅れる事を公式に認めた形だ。1年前の2019年5月のInvestor Meetingにおけるロードマップ(Photo04)では、2021年に7nmが立ち上がる筈だったのだが、これが早くて2022年、下手をすると2023年までSlipすると公式に認めた事でIntelの株価は急落したのだが、まぁそれはそれとして。

  • Photo04: まだ前向きというか、7nmに希望が持てていた時代のロードマップ。そういえばこのロードマップを紹介していたMurthy Renduchintala博士(Chief Engineering Officer兼TSCG Group President)はその後辞任していた。まぁ仕方ないだろう。

ただSwan CEOは「2020年7月の時点で1年遅れている」と言ってるだけで、これ以上遅れないとは言っていない事に注意されたい。でなければ代替案なんぞの話が出てくるわけがない。その代替案であるが、要するにTSMCへの生産委託である。これについては2020年7月27日のDigiTimesが、IntelがTSMCの6nmを18万枚予約したと報じたが、WCCFTechはTSMCの5nmだとしている。そもそもIntelの10nmがTSMCの7nm相当であることを考えると、Intelの7nmの代替がTSMCの6nmで収まる筈がなく、恐らくはTSMCのN5であろうと想像される。

こうした状況をうけて、IntelのHPC向けであるPonte VecchioはBase Tileが10nm SuperFin、Rambo Cacheが10nm Enhanced SuperFin、Compute TileがIntel 7nmとExternal(多分TSMC N5)、Xe Link TimeはExternal(これも恐らくTSMC N5)という複雑な構成になった

ちなみにIntelが2021年に投入予定のSapphire Rapidsはともかく、その先をどうするのか? という話にもなっている(Photo05)。Sapphire Rapidsが元々10nmで製造予定で、これが10nm SuperFinに変更になった程度である。ただこのSapphire Rapidsの後継であったGranite Rapidsは2022年にIntelの7nmで投入予定であり、これをどうするかという話である。現状は半年遅らせて2023年前半に、という話になっているが、あるいはBackupプランとしてこのGranite RapidsのTSMC N5バージョンの設計がスタートしているのかもしれない。

  • Photo05: これは2020年のArchitecture Dayのもの。ただIce Lake-SPが2021年にシフトしており、2021年はIce Lake-SPとSapphire Rapidsの2本立てという複雑な製品構成になりそう。

このあたりに関しては2020年第3四半期のEarning Callでは、Swan CEOは直接には7nmは話題にしなかった。しかしアナリストによる質問に答える形で"We're evaluating each one of those kind of as we exit 2020 and really early 2021, because that's the time that we'll have to make the determination as to whether we're buying more 7-nanometer equipment or whether a third-party foundry would be adding that capacity. So we're going through this process really looking at our capabilities others' capabilities around those three fundamental criteria."(2020年末~2021年初頭のタイミングで、我々は7nmに向けて新規の製造装置を導入すべきか、それともサードパーティのファウンダリに委託をするかを決めなければいけない。我々は基本的な3つの分野の能力に関してこれを見極める)と述べている。ちなみに3つの分野とはCPU、AI向けGPU、及びFPGAだそうである。つまりまさに今、Intelの首脳陣は7nmをどうするかを決めている時期である。

ただ、実を言うともう半分くらい答えが出ている。7nmに関しては、かなりの部分をTSMCに委託せざるを得ないだろう。なぜならIntelも7nm世代でEUVを導入するからで、ところがTSMCのところで説明したようにASMLのEUV Stepperの殆どをTSMCとSamsungが抑えている状況では、Intelは追加のStepperを入手できる可能性は低い(できても数台のオーダーだろう)。こうなるとどうしてもウェハの生産能力は低めに抑えざるを得ない(そもそも現在保有している台数もそう多くない)。更に余談だが、奪い合いをしているのはEUV Stepperだけでなく、マスク描画装置や検査装置も奪い合いだそうである

ついでに書けば、そもそもIntelの7nmがつまずいた理由はEUVにあるのでは、という観測もあるほどで、こうなると先行してN7+で実績を積み、N5の量産をスタートさせたTSMCに分があるのは間違いない。本当かどうかは定かではないが、TSMCはEUVの習熟の為に100万枚のWaferを費やしたという話もある(Samsungは半分の50万枚位らしい)。このWaferコストもさることながら、これと同じことをするためにはまずEUV Stepperの台数が必要である。数台のEUV Stepperで100万枚のWaferを練習用に生産するとなると、下手をすると10年近く掛かるかもしれない(生産して終わりではなく、その結果を分析して問題を特定し、その解決策を練って実装し、のサイクルを回す訳だから、そりゃ時間が掛かる)。少なくとも7nmの世代でTSMCに追いつくのは無理と筆者は見ている。巻き返しがあるとすれば、ASMLの次世代機の投入時期だろうか。同社は既にNA=0.55の次世代機の計画をアナウンスしており、光学系に関してはその先のNA=0.70も既にロードマップに上がっている。こうした次世代機を(資金にモノを言わせて)ぶったくってこれれば、あるいはTSMCのキャッチアップは不可能ではないかもしれない。ただそうした動きはもっと先、2023年以降の話であり、直近の2021年中は(表に見える)動きはなさそう、といったところだろう。

Globalfoundries

もうここを利用しているのはAMDの、それも一部のCPUとI/O Chipletだけという状況であり、そのChipletについても、次のZen 4世代ではどうだろう? という感じになってきている。理由はZen 4世代になるとPCIe Gen5/CXL 2.0やDDR5が入ってくるからだ。一番厳しいのがPCIe Gen5/CXL 2.0で、勿論Globalfoundriesの14LPP/12LPで製造が出来ない訳ではないが、PCIe Gen5の世代はほぼ7/5nmがターゲットになっており、そろそろ効率が悪い。勿論引き続きZen 3世代の製品は提供されるが、MCM構成のRyzenがそのままAthlonに落ちるケースはほぼなく、これはGPU内蔵のRyzen Gシリーズの旧製品がAthlonとして投入される格好になるので、あまりこの先の出番はなさそうである。

そんなGlobalfoundriesであるが、業績そのものは好調である。FinFETの12LP/12LP+は、最近はAIアクセラレータ向けの受注が増えているようである。一方のFD-SOIについては、特に5Gに絡んでフロントエンドに採用される事例がかなり多く、それもあってSOIウェハの供給を更に強化すべくGlobalWafersからの供給を強化する契約を結んだりしている。また変なところでは、アメリカ政府及び軍向けの供給契約を結ぶといったニュースもある。旧AMDのドレスデンとか旧Chartered Semiconductorのシンガポールなどあちこちに分散してFabを持っているが、先端のFinFETに関してはニューヨークのFab 8に集約されており、「米国の工場で生産された米国向け半導体」というのは安全保障の観点からも安心という面があるのだろう。

そんな訳でPCビジネスからは次第に離れつつあるが、少なくとも現時点では健全に経営されている感じになっている。問題はいずれ今の12LP/12LP+が陳腐化するであろうということで、その時にどうするのか? であるが、それはこのロードマップのカバーする範疇ではないので、措いておきたい。

  • Photo06: ポン太さん同様に大原家の外猫で16年近くを過ごし、2018年に引っ越しで家猫になったヴィーノさん(♂)。これは取っつかまって新居に連れてこられた直後、ケージから出て速攻でクーラーの上まで逃げ出したご様子。でも2日ほどで部屋には慣れてくれた(人間には最後まで慣れてくれなかった)。2019年2月に逝去。