毎年10月第1金曜日は米国では「National Manufacturing Day(全米製造の日)」に指定されており、国民に製造業の重要性を理解してもらうために製造工場を地元住民や将来を担う児童や学生に公開する日である。2020年は、10月2日がその日に当たり、Intelは、同社にとって最新のメガファブである米国アリゾナ州のFab 42を公開すると同時に、米国の半導体研究・製造強化の国策に沿った2件の米国政府機関との協業体制の発表を行った。紆余曲折のFab 42の話題は、後で紹介するにして、まずIntelの米国政府との協業について紹介しよう。

Intelと米国国防総省が3次元実装で協業

Intelは、米国国防総省が主宰するSHIP(State-of-the-art Heterogeneous Integration Prototype)プログラムの2020年10月から始まる第2フェーズに参画し補助金を勝ち取った。SHIPプログラムにより、米国政府はアリゾナ州とオレゴン州にあるIntelの最先端の半導体パッケージング機能にアクセスし、Intelの研究開発と製造投資によって生み出された機能を活用できるようになるという。

Intelと米国政府は、国内の半導体製造技術を進歩させるという優先事項を共有し、SHIPプログラムにより、国防総省はIntelの高度な半導体パッケージング機能を活用し、サプライチェーンを多様化し、米国の知的財産を保護すると同時に、米国で進行中の半導体R&D強化策に貢献するという。具体的には、IntelのCPU、GPU、FPGAなどの半導体チップをパッケージに組み込んだSiPを国防総省指定の国家安全保障電子機器を製造する防衛産業サプライヤに提供する。このため、Intelは、最近、3次元実装、いわゆるヘテロジニアスインテグレーションに注力しており。Foveros、EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)、およびFoverosとEMIBの両方を組合わせたCo-EMIBなどの開発に注力している。なお、SHIP第2フェーズには総額1億4000万ドルの国防総省補助金がついているという。

Intelがエネルギー省国立研究所と協業

Intelは、米国政府エネルギー省(DoE)傘下のSandia National Laboratory(サンディア国立研究所)とニューロモーフィックコンピュータの開発で3年間のパートナーシップを組んだと発表した。

Sandia National Labは、5000万ニューロンのIntelのLoihiベースのニューラルシステムを使って研究を始める。IntelのLoihiチップを搭載したボードはすでに納入している。共同研究により10億ニューロン相当のニューロモーフィックコンピューティングを目指す。これには、Intelの次世代ニューロモーフィックアーキテクチャに関する継続的な大規模ニューロモーフィック研究と、これまでにない可能性のある規模ののニューロモーフィック研究システムの提供が含まれる。

IntelのニューロモーフィックコンピューティングラボのディレクターであるMike Davies氏は、「ニューロモーフィックコンピューティングアーキテクチャの高速、高効率、適応機能を適用することにより、サンディア国立研究所は、国家安全保障にとってますます重要になっている、需要が高く、頻繁に進化するワークロードの加速を探求することになる。数十億のニューロンレベル以上に拡張できる次世代のニューロモーフィックツール、アルゴリズム、システムにつながる生産的なコラボレーションとなるよう期待している」と述べている。

Intelとエネルギー省とのコラボレーションとしては、すでに同省傘下のArgone National Laboratory(アルゴンヌ国立研究所)とエクサスケールのスーパーコンピュータ「Aurola(オーロラ)」の共同開発を行っている。このスパコンは科学計算問題をはじめとする宇宙や気象モデル、創薬開発などの複雑な問題を解くのに使われるという。エネルギー省は、エクサスケールという超巨大な問題解決だけではなく、人間の頭脳をモデル化するニューロモーフィックコンピュータや量子コンピュータの開発もIntelと共同で行うとしている。

このように、米国政府の国家安全保障確保のための半導体研究強化策に沿ってIntelは政府との関係を強めており、政府の米国系トップ半導体メーカーであるIntelへの期待感も大きい。米国は、国内における半導体製造も強化しようとしており、最近、TSMCの半導体ファウンドリ工場の米国アリゾナ州への誘致に成功した。もちろん、Intelの米国内半導体製造強化(新たなファブ建設)も要請しているが、ここ数年にわたる超微細化プロセスの開発・試作段階での歩留まりが低迷しているIntelに、この要請にこたえられるかどうかは疑問が残る。