2020年8月6日、来春スペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船で宇宙へ飛び立つことが決まった、日本人宇宙飛行士の星出彰彦氏が記者会見を開催。意気込みや想いなどを語った。
星出宇宙飛行士が語るスペースXの印象とは?
星出彰彦宇宙飛行士は1968年、東京都に生まれ、現在51歳。1999年に日本人宇宙飛行士候補として選抜され、2001年に宇宙飛行士に認定された。
そして、2008年にスペース・シャトルで初の宇宙飛行に臨み、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在し、「きぼう」日本実験棟の取り付け作業などを実施。さらに2012年には、ロシアの「ソユーズ」宇宙船でふたたびISSに長期滞在した。
その後も次のミッションに向けて準備を行っていたところ、2018年3月に新しいISSの長期滞在クルーとなることが決定。さらに若田光一宇宙飛行士に続く、日本人として2人目のISS船長になることも決まった。
そして今年7月28日、ISSに訪れる際に搭乗する宇宙船が、米宇宙企業「スペースX」が開発した「クルー・ドラゴン」宇宙船の運用2号機(Crew-2)となることが発表された。
同宇宙船には、船長としてシェーン・キンブロー宇宙飛行士、パイロットのメーガン・マッカーサー宇宙飛行士が搭乗。そして星出宇宙飛行士はミッション・スペシャリストを務め、また同じくミッション・スペシャリストとしてESAのトマ・ペスケ宇宙飛行士も搭乗する。
ちなみに、その前の運用1号機(Crew-1)には野口聡一宇宙飛行士が搭乗することになっており、民間の新型宇宙船の運用1号機と2号機に、日本人宇宙飛行士が連続して搭乗するという、エポック・メイキングな出来事になる。
これを受けて、星出宇宙飛行士は8月6日、米国からインターネットを通じて記者会見を開催した。
星出宇宙飛行士はまず、クルー・ドラゴン運用2号機への搭乗が決まったことを自らの言葉で報告。「これまで個人での訓練が多かったが、これからはクルー・ドラゴンに搭乗する4人での訓練が中心となる」とし、「いまはクルー・ドラゴンに関する基礎的な知識を学んでいるところで、今後1~2か月後から、4人での運用にかかわる訓練を行っていくことになる」と語った。
また、クルー・ドラゴンを開発しているスペースXについては「宇宙に対するアプローチが、(NASAやJAXAとは)違うということを肌で感じている」と印象を語ったほか、「フットワークがとても軽く、たとえば訓練で『こういうときには画面にこういうふうに表示されるとありがたい』とリクエストすると、その翌日には実装されている」といったエピソードも語られた。
なお、星出宇宙飛行士らが搭乗するクルー・ドラゴン運用2号機には、先ごろ試験飛行を終えて地球に帰還したDemo-2のカプセル(クルー・モジュール)部分が再使用される予定となっている。これについては「これからスペースXやNASA、そしてJAXAなど国際パートナーと協力し、きちんと検証や評価を行っていきたい」と話した。
「新型コロナから身を守りつつ、夢に向かってがんばろう」
星出宇宙飛行士はまた、クルー・ドラゴンに同乗する他の3人の宇宙飛行士についても紹介。まず船長のシェーン・キンブロー宇宙飛行士とは「じつはNASAにおける宇宙飛行士のクラスにおける同期としていっしょに訓練した」、またパイロットのメーガン・マッカーサー宇宙飛行士は「宇宙船通信担当官(CAPCOM)として先輩にあたり、私もCAPCOMの訓練を行う際にいろいろ教わった」と述懐した。
さらに、ESAのトマ・ペスケ宇宙飛行士とも「フロリダ沖にある海底実験施設におけるNASA極限環境ミッション運用(NEEMO)でいっしょに訓練したことがある」とし、偶然にも搭乗する3人と深い縁があることを感じさせるエピソードを披露した。
また、次世代の宇宙開発を担う子どもたちに向けては「いまは新型コロナでみんな大変な想いをしているだろう」と気遣ったうえで、「まず伝えたいのは、自分の身を守ること。自分の身を守ることは、まわりの人の身を守ることにもつながる。そして、さまざまな制約の中でもできることを全力で行い、自分の夢に向かってがんばってほしい」とエールを送った。
さらに、クルー・ドラゴンが民間人の宇宙飛行にも使われる予定であることについては、「もはや、職業として宇宙飛行士をしている私たちだけが宇宙に行く時代ではない。いろんな分野、バックグラウンドをもつ多くの人々に宇宙に来ていただいて、新たな文化を作っていくことになるだろうし、またそうあるべきだとも思う」とし、宇宙飛行の新たな時代が訪れることへの期待を語った。
ちなみに、星出宇宙飛行士が宇宙滞在において大事にしていることは「楽しむこと」だという。
「ペスケ宇宙飛行士と参加したNEEMOでも、また過去のISS長期滞在でも、危険と隣り合わせのミッションだったが、安全に気をつけつつ、楽しむことを大事にした。楽しむ心やユーモアをもって人間らしく振る舞うことは、難しくチャレンジングなことだが、とても大事なことでもある。ある意味では新型コロナが流行しているいまの生活にも通じることでもあり、次のISS長期滞在でも、船長としてこの考え方を通したい」。
そして「民間の宇宙旅行者の方にも、安全に気をつけつつ、楽しんで、いい経験をしてもらいたい」と語った。