AMDはRyzen 3 3100および同3300Xを発表した。日本国内ではともに5月21日から販売開始を予定しているが、それに先立って実機を入手できたので、パフォーマンスをひと通りチェックしておきたい。

  • Ryzen 3 3300X(左)とRyzen 3 3100(右)を入手

    Ryzen 3 3300X(左)とRyzen 3 3100(右)を入手

さて、今回のRyzen 3 3100とRyzen 3 3300Xの最大の特徴と言えるのは、Zen 2アーキテクチャを採用したことだろう。Zen 2アーキテクチャベースのいわゆる「第3世代Ryzen」は、Ryzen 5まではリリース済みだったがRyzen 3では初。ただし今回の2製品とも従来のRyzen 3 3200G(Zen+)のように統合GPUは搭載していないため、グラフィックスカードが必須だ。つまり統合GPUを利用した低コストPCといった用途ではなく、グラフィックスカードを搭載する前提の製品になる。

低価格PCにグラフィックスカードを搭載するニーズとは……。実はRyzen 3 3100/3300Xは4コア8スレッドであり、思い起こせば2017年までのハイエンドCPUと同レベルのスペックなのだ。低予算で十分に強力なゲーミングPCを作れるのではないか。そうした視点から調査してみた。

予算制限のあるゲーミングPC自作のツボ

PCにおけるゲーミング性能は天井が高い。高性能なCPU、高性能なグラフィックスカード(その上に搭載されたGPUチップ)を求めれば、非常に高価だが非常に快適な性能が得られる。ただし、そう簡単に潤沢な予算が確保できるものでもない。先に予算が決まっているとして話を進めよう。

ここで検討したいのは、ゲーム性能を決定する要因であるCPUとGPU、どちらにより多くの予算を割り当てるかだ。基本的に、ゲーム性能においてCPUもGPUも重要だが、どちらか一方だけと言われればCPUよりもGPUのほうがより重要だ。ただし、CPU性能を落としすぎてGPUの足を引っ張ることも否定できない。この部分が重要だ。果たしてRyzen 3 3100/3300Xは大丈夫だろうか。ここが今回のパフォーマンス検証のポイントだ。

Ryzen 3はRyzenシリーズの中ではエントリーグレードに位置する。ただ、肝心のCPUも、コア数と動作クロックという二つの要因がある。先のとおり、4コア8スレッドは3年前ならハイエンド級であり、ゲームタイトル側もメインストリームと呼ばれるあたりのものならまだまだ4コアを想定していることが多い。一方のクロックもRyzen 3 3100はともかく、Ryzen 3 3300Xはターボ時で4GHzを超える。

まずはとりあえず、新製品のスペックを簡単にまとめよう。

Zen 2なのがGood! IPCが向上してPCIe 4.0も対応

Ryzen 3 3100と3300Xのスペックをまとめたのでまずはこれを見てほしい。※比較としてRyzen 3 3200Gを添えている。

■CPUスペックまとめ
Ryzen 3 3100 Ryzen 3 3300X Ryzen 3 3200G
アーキテクチャ Zen 2 Zen 2 Zen+
コア/スレッド 4C/8T 4C/8T 4C/4T
定格/最大クロック 3.6/3.9GHz 3.8/4.3GHz 3.6/4.0GHz
L3キャッシュ 16MB 16MB 4MB
PCI Express Gen4 Gen4 Gen3(x8)
統合GPU Radeon Vega 8(8コア)
メモリ DDR4-3200 DDR4-3200 DDR4-2933
TDP 65W 65W 65W
ソケット AM4 AM4 AM4

スペックでポイントとなるのがまずアーキテクチャ。Ryzenは初代Zen、第2世代のZen+とIPC(1クロックあたりの実行命令数)を向上させてきた。とりわけZen+から最新Zen 2ではここが大きく向上し、ライバルIntelのCoreアーキテクチャに迫った。同一コア/スレッド数、同一クロックとすると、Zen+よりもZen 2のCPUのほうが高性能だ。コスト最重視には響かないかもしれないが、技術系としてはここが最大のオシになる。

Zen 2のポイントとしてもう一つ、PCI Express 4.0対応が挙げられる。PCI Express 4.0は、今後のグラフィックスカードやNVMe SSDで主流となる技術だ。Zen+までの世代はPCI Express 3.0までの対応になる。コスト重視の場合、最初からPCI Express 4.0対応のグラフィックスカードやNVMe SSDを搭載するという選択は少数派かもしれない。ただ、自作PCの王道、組み上げて予算ができたら次のアップグレードを行なうといった場合、サポートされているかいないかは重要だ。

そしてソケットAM4。Ryzen登場以前からあるAM4は、次の世代、Zen 3までサポートされると公表されている。今は低予算で仮組み、本命はZen 3という方も安心だ。Ryzen 3 3100/3300Xは、現行の幅広いチップセットに対応している。現行世代ならばAMD X570や同時発表されたAMD B550、そのほかAMD 400シリーズや300シリーズのマザーボードで利用できる。ただし、多少の注意点があるので、チップセット選びについては次で触れよう。

マザーボードの組み合わせも豊富、ポイントは?

Ryzen 3 3100/3300XはAMD 500シリーズ、400シリーズ、300シリーズチップセットで利用できると書いた。AMDのチップセットには、3桁数値の前にX、B、Aといったアルファベットが付く。Xはハイエンドで機能全部入り、Bはスタンダード、Aはエントリーといった位置づけだ。Ryzen 3 3100/3300Xと組み合わせるオススメは「B」。XはRyzen 3でも豊富な機能で可能性を広げてくれるが価格はやや高い。Aは低価格でコスト重視に適しているのだが制限される機能も多く長く愛用するにはオススメしづらい。価格/機能のバランスがとれているのがBだ。

■チップセットまとめ その1
X570 B550
CPU直結PCIe PCIe x16 Gen4 Gen4
PCIe x8×2マルチGPU
M.2 NVMe Gen4 Gen4
チップセット側PCIe Gen4 Gen3
USB USB 3.2 Gen2 10Gbps 8 2
USB 3.2 Gen1 5Gbps 0 2
■チップセットまとめ その2
X470 B450 X370 B350 A320
CPU直結PCIe PCIe x16 Gen3 Gen3 Gen3 Gen3 Gen3
PCIe x8×2マルチGPU × × ×
M.2 NVMe Gen3 Gen3 Gen3 Gen3 Gen3
チップセット側PCIe Gen3 Gen3 Gen3 Gen3 Gen3
USB USB 3.2 Gen2 10Gbps 2 2 2 2 1
USB 3.2 Gen1 5Gbps 6 2 6 2 2

ではB550、B450、B350とチップセットの世代で比較検討した場合でポイントを挙げよう。B550は第3世代Ryzen向けのチップセットなので、PCI Express 4.0に対応しているところが一つ目のポイント。B550のPCI Express 4.0対応はCPU直結に限られるので、PCI Express x16スロットとM.2スロット(#1)という二つだ。たとえばここがX570の場合は、チップセット側のM.2スロット(#2以降)やチップセット側から先のPCI Express x1/x4スロットなどもPCI Express 4.0対応になる。B550はこうしたチップセットから先の部分はPCI Express 3.0だ。

低コストを極めたいという場合、旧世代チップセットも選択肢に入る。B450やB350チップセット搭載マザーボードは店頭でセール対象となることも多いのでお得感も高い。ただし最新CPUをサポートしているのかどうか、ここは要確認だ。一つは設計的な面で、製品ページでサポートCPUリストを確認したい。Ryzen 3グレードならTDPもほどほどなので電源設計で問題になることは少ないが、BIOS容量などの点で旧世代CPU向けに設計されたものが最新世代までサポートできるかどうかは製品次第なところもある。

もう一つはBIOS。基本的にBIOSのアップデートは必須だ。これは現行チップセットでも発売後しばらく経過しているAMD X570にも当てはまる可能性がある。旧世代CPUを持っていればそれを用いて自力でアップデートすることも可能だが、そうではない場合は購入時の確認が必須だ。店頭購入であれば店員に確認しよう。あるいはショップがBIOSアップデートサービスを提供している場合もある。インターネットショッピングの場合は、これも購入時にメール等で問い合わせをするのが確実だが、大手ショッピングサイトのように一つの製品ページに対して複数のショップが出品している場合、問い合わせ可能不可能を含め難易度が上がる。そして仮に最新CPUをサポートしていないBIOSのマザーボードを引いて、手元に旧CPUもないような場合は、AMDがBIOS更新用にCPU貸し出しサービスを展開しているのでこれを利用することができる。ただし、申請から手元に届くまでに多少の時間を要する点は考慮したい。

  • 今回はCPUとGPU、マザーボードの組み合わせ方で悩む必要がある

実録! 旧マザーのBIOSが最新Ryzen非対応だった場合の対処法

なお、今回はRyzen 3 3100と3300XにAMD B350マザーボード「GIGABYTE GA-AB350N-GAMING WIFI(rev. 1.0)」を組み合わせてまさにこのパターンが生じたので、BIOSバージョンが最新CPU非対応だった場合の対処の例を紹介しておこう。

まず、非対応BIOSにRyzen 3 3100/3300Xを搭載した場合、電源を投入してファンが回転をはじめた(つまり通電は問題ない)が、いつまで待ってもディスプレイには何も表示されなかった。それどころか電源LEDが点灯しなかった。これは普通ではない。

一般的に、CPUを搭載、あるいは交換して最初の起動時はマザーボード自身によるチェックが入るため時間がかかるものだ。しかし、通常なら電源LEDは点灯する。ここが異なる症状だ。

また、これは別のPOSTコード表示LCD付きマザーボード使用時のことだが、非対応CPUを搭載した場合、POSTコードが表示されなかった。つまりハードウェアチェックのプロセスにも進めていないわけだ。

CPUクーラーやグラフィックスカードのファンが回転する、つまり通電した状態で電源LEDが光らなかったりPOSTコードが表示されなかったりというのは通常では起こらない。マザーボードの故障や初期不良を疑いたくなるだろう。しかし、新CPUをそれ以前に発売されたマザーボードで運用しようという際にはよく起きることだ。

先に紹介したように、こうした場合は旧CPUを用いてまず起動するかどうかを確認する。そして無事起動したならば、BIOSアップデートを行なうといった手順を踏む。今回の場合、幸いなことに別件で手元にあったRyzen 5 2400Gとの組み合わせでは問題なく起動した。これを機に自作PCをはじめたいという方は覚えておこう。旧CPUを手元に残しておくとこのような場合でも自力で解決することができる。旧CPUを一つ、売らずにキープできるようになればもう立派な自作馬鹿だ。

さて、BIOSからバージョンを確認すると「F20」だった。これに対して最新は「F50a」だ。この間、CPU側の世代も進化している。このような場合、一気に最新のF50aまで引き上げることができないこともある。今回は、一度少し古いF30を適用し、その上でF50aを適用するといった段階を踏んだ。こうした注意点はマザーボード製品サイトのサポート、ダウンロードのBIOS欄に記載されている。一般的に英語表記なのでなんらかの手段で訳し、注意書きを見逃さないようにしよう。

  • サポートサイトのBIOSダウンロード欄にある赤い注意書き。赤字部分が重要だ

こうした手間もあるので、自作PC初心者には旧製品の特価に飛びつかず、同時発表でBIOSアップデートも不要なB550マザーボードを第一にオススメしておこう。B550マザーボードなら、基本的にインターネットショッピングで購入してもRyzen 3 3100/3300Xがすんなり動くはずだ。