いよいよ国内でも5Gの商用サービスが始まりましたが、各社のサービス内容を見ると5Gの理論上の最大通信速度に違いが出ているようです。こうした違いはどういったところから生まれてくるのでしょうか。この謎をひも解く鍵となる、5G通信速度の仕組みについて解説したいと思います。

同じ5Gで通信速度にばらつきがある

2020年3月25日に、NTTドコモが5Gの商用サービスを開始して以降、KDDI(au)、ソフトバンクが相次いで5Gのサービスを開始。いよいよ国内でも5Gが使えるようになりました。ですが各社の5Gサービス内容を見ると、さまざまな点に違いがあるようです。

料金プランや提供するスマートフォンなどに違いがあるのはもちろんなのですが、よくよく見ると意外と違いがあるのが通信速度です。実際、各社が公表している理論上の最大通信速度を確認すると、やや違いがありました。

NTTドコモ 下り最大3.4Gbps/上り最大182Mbps
KDDI(au) 下り最大2.8Gbps/上り最大183Mbps
ソフトバンク 下り最大2.0Gbps/上り最大103Mbps
いずれも5Gサービス開始時点

KDDIは2020年夏頃に予定されているソフトウェアのアップデートで下り最大3.4Gbpsになるとしていますが、それまでは各社とも、ややばらつきがあることは確かです。

  • 5Gスマートフォンの最大通信速度はキャリアごとにやや異なる

    5Gスマートフォンでは現時点でも1Gbpsを超える通信速度を実現できるが、現在理論上の最大通信速度には3社でやや違いがある

なぜこれだけ速度に違いがあるのでしょうか。多くの人が最初に思い浮かべるのは、5Gで使用している周波数帯域幅の違いではないかと思います。理論上の通信速度には周波数帯域、つまりデータが通る道幅の違いが大きく影響してくるからです。

実際、NTTドコモとau、ソフトバンクは割り当てられている周波数帯域幅に違いがあります。28GHz以上の周波数帯「ミリ波」に関しては3社ともに共通で、28GHz帯を400MHz幅ずつ割り当てられていますが、6GHz以下の周波数帯「サブ6」に関しては、NTTドコモは3.7GHz帯と4.5GHz帯を100MHz幅ずつ、KDDIが100MHz幅の3.7GHz帯を2つ割り当てられているのに対し、ソフトバンクは100MHz幅の3.7GHz帯を1つしか割り当てられていません。

そうしたことから、サブ6の帯域幅で不利なソフトバンクの通信速度が遅いのでは? と思われる人も多いかもしれません。ですが実際のところ、サービス開始当初に3社が使用しているのはサブ6の100MHz幅を1つずつなので、5Gの周波数帯域の差が現在の通信速度の差につながっているワケではないのです。

  • 総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」より。サブ6に関してはNTTドコモとKDDIが2枠、ソフトバンクと楽天モバイルが1枠ずつの割り当てとなっている

NTTドコモ 【サブ6】3.7GHz帯 3600MHz~3700MHz(100MHz幅)
【サブ6】4.5GHz帯 4500MHz~4600MHz(100MHz幅)
【ミリ波】28GHz帯 27.4GHz~27.8GHz(400MHz幅)
KDDI(au) 【サブ6】3.7GHz帯 3700MHz~3800MHz(100MHz幅) / 4000MHz~4100MHz(100MHz幅)
【ミリ波】28GHz帯 27.8GHz~28.2GHz(400MHz幅)
ソフトバンク 【サブ6】3.7GHz帯 3900MHz~4000MHz(100MHz幅)
【ミリ波】28GHz帯 29.1GHz~29.5GHz(400MHz幅)
楽天モバイル 【サブ6】3.7GHz帯 3800MHz~3900MHz(100MHz幅)
【ミリ波】28GHz帯 27.0GHz~27.4GHz(400MHz幅)
各キャリアが割り当てられた5Gの周波数帯域

実は4Gの通信速度が5Gにも大きく影響

では何が影響しているのかというと、それは現在の5Gの運用方法です。5Gは携帯電話会社の負担を減らすため4Gから徐々に移行する仕組みが取られており、現在の5Gは4Gの通信設備の中に5Gの基地局を設置し、5Gによる高速大容量通信を実現する「ノンスタンドアローン」(NSA)という方式で運用がなされているのです。

そしてNSAの仕様上、5Gの基地局だけに接続しても通信はできず、ベースとなる4Gの基地局にも同時に接続している必要があります。そこで多くの携帯電話会社は現状、4Gと5Gの電波を結合する「デュアルコネクティビティ」という技術を用いて5Gの通信速度の高速化を図っているため、実際の通信速度には4Gのネットワークも大きく影響しており、デュアルコネクティビティで組み合わせる4G周波数帯の違いによって各社の通信速度に差が出てきているのです。

  • KDDIは5Gを展開するに当たり、4Gのネットワークを「ピカピカにする」として強化を進めてきたが、それも5Gの通信速度に影響してくるが故と見られている

ちなみにもう1つ、NSA運用の特性によって、「5Gに接続している」とされていても、実際は4Gでしか通信していないケースが起き得ることも覚えておく必要があるでしょう。先にも触れた通り、NSAで5Gに接続するにはまずベースとなる4G基地局に接続する必要があるのですが、5Gの電波は周波数が高く障害物などがあると届きにくいため、4G基地局に接続できたからといって必ずしも5G基地局にも接続できるとは限りません。

しかしながらそうした場合でも、仕様上スマートフォン上のアンテナ表示は「5G」となってしまうのです。この場合当然4Gのみでの通信となるため、通信速度は5Gに接続した時と比べ大きく落ちてしまいますし、そのことが見た目にも分かりにくいことから、先行して5Gのサービスが始まっている国では、消費者から「問題がある」との声が相次ぎ騒動になったこともあるようです。

  • アンテナピクトに「5G」と表示されていても、実際には4Gにしか接続していない場合もあるので要注意だ

当面は3社とも5Gのエリアが非常に狭く、大半のエリアでは4Gを利用し続けることになるためこの問題を意識するケースはほとんどないでしょうが、5Gのエリアが広まるであろう今後に備え、「5Gでつながっているのにあまり通信速度が速くならない」という場合があることは覚えておく必要がありそうです。

楽天モバイルの5Gは実効速度で有利?

もちろん、5Gで使用する周波数帯が変われば通信速度も変わってきます。NTTドコモとauは2020年夏のソフトウェアアップデートで、サブ6より帯域幅が広い28GHz帯の利用を可能にすることで、それに対応したスマートフォンでの通信速度が向上するとしています。

具体的には、理論上の最大通信速度がNTTドコモの場合下り4.1Gbps/上り480Mbps、auの場合下り4.1Gbps/上り481Mbpsになるとのこと。スマートフォンであればサムスン電子の「Galaxy S20+」や、富士通コネクテッドテクノロジーズの「arrows 5G」が28GHz帯に対応していることから、これらの機種では28GHz帯の活用によって、さらなる通信速度の向上が期待されています。

  • NTTドコモが発売予定の「arrows 5G」など、一部のスマートフォンは28GHz帯に対応するため、さらなる高速化が期待できる

もっとも28GHz帯はサブ6よりも電波が遠くに飛びにくく、広範囲のカバーがかなり難しい帯域なので、実際に利用できるエリアは現在の5Gエリアより一層狭いと考えられます。28GHz帯に対応した端末だからといって、どこでも高速になるワケではないことには注意が必要でしょう。

そしてもう1つ、ここまで紹介してきた通信速度はあくまで理論上の値であり、環境の変化によって実効速度、つまり実際の通信速度が大きく変わってくることも忘れてはなりません。特に4Gに関しては、現在でも多くの利用者を抱えていることから、デュアルコネクティビティの影響により、4Gの混雑で5Gでの通信速度が大きく落ちることもあり得るワケです。

そうした実効速度の面で優位性があるのが楽天モバイルです。楽天モバイルは2020年6月に5Gのサービスを開始するとしていますが、同社は4Gの本格サービスも4月8日に開始したばかりで、大手3社と比べ利用者がまだ非常に少ないのです。

  • 4Gでの本格サービス開始を発表したばかりの楽天モバイルだが、2020年6月には5Gのサービスも開始するとしている

楽天モバイルは、4Gの周波数帯が1.7GHzの1つだけ、5Gもソフトバンクと同様100MHz幅の3.7GHz帯と、400MHz幅の28GHz帯のみと、潤沢な周波数帯の割り当てを受けている大手3社と比べ帯域の面では不利ではあります。しかしながら当面、利用者自体が自体が少ないことからネットワークが混雑しにくく、その分実効速度が速くなる可能性が高いと考えられるワケです。

もっとも楽天モバイルはまだ4Gのエリア自体が狭く、多くの場所をKDDIへのローミングで賄っている状況なので、消費者がその恩恵を受ける場所はかなり限定されることになるでしょう。とはいえ大手3社の5Gエリアも、少なくとも1年間はスポット的なカバーにとどまり非常に狭い状況が続くだけに、5Gの競争だけに絞れば楽天モバイルは意外と優位に立てる可能性があるかもしれません。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。