Versal Premiumで実現できる差別化とは?

ではVersal Premiumを使う事でどのような形で差別化が出来るのか、という話がこれに続き紹介された。まずはTransport ApplicationのスループットでASSPと比較して3倍近く、Virtex UltraScaleと比較して5倍近いスループットが実現できるとする(Photo10)。また消費電力を半減させた結果として、より実装密度を引き上げられるとしている(Photo11)。

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    Photo10:ASSP1はMicrosemiのPM5990 DIGI-G4、ASSP2はPM6010 DIGI-G5だそうである

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    Photo11:正確に書けば、Virtex UltraScale+だと2つ必要な処理を1つのVersal Premiumで実現できるので、消費電力が半減し、また実装密度を2倍に出来るというあたり。もっとも実際には1個あたりの消費電力そのものもVirtex UltraScale+より下がっている模様

AIに関しては、一般論的なものとしてResNet50やYOLOv2、Random Forestといった典型的なAIワークロードを利用しての処理の結果が示されたが、いずれもGPUやXeonと比べて高い結果が実現できているとする(Photo12)。

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    Photo12:「こうした処理をするならVersal AI Coreの方が良いのでは?」と質問したものの、返答はなかった。ネットワーク機器を作るにあたっては、2種類のFPGAを混ぜるのは色々と面倒であり、出来れば1つで済ませたいということは理解できる。ただ今後こうした処理が増えるのであれば、AI Coreを搭載したVersal Premiumが出てきても良さそうな気もする

またメモリはDDR4-3200/LPDDR4X-4266のI/Fを標準で搭載しているが、それとは別に内部のBlock RAM/UltraRAMを利用することで圧倒的なOn-Chip Memory Bandwidthを実現可能としている(Photo13)。

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    Photo13:ただBlock RAMやUltraRAMの容量はそれほど大きくないので、素直にこの数字を信じてアプリケーションを組むと悲惨な事になりそうではあるが

プログラミング環境は従来のVersal Prime同様に、VivadoとVitis、それに各種AI向けフレームワークが利用できるので、開発は容易とする(Photo14)。

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    Photo14:これは別にVersal Premiumの特徴というよりはVersal全般というべきだが

ちなみにこれは別にVersal Premiumだけの話ではないが、Dynamic Function eXchange(Photo15)の速度がVirtex Ultrascale比で8倍高速化された。かつてはPartial Reconfigurationなどと呼ばれていた機能であるが、単にFPGA FabricだけでなくDSPのワークロードもやはりかなり高速に入れ替えが可能になったとする。

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    Photo15:とは言えまだミリ秒オーダーの切り替え時間が必要であるため、例えばパケットの種類に合わせて処理を入れ替えるなどという用途への適用は難しい。使いどころはちょっと限られるだろう

Versal Premiumは7品種を用意

Photo16がVersal Premiumの製品一覧である。

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    Photo16:Versal PrimeではローエンドにあたるVP1102と、Versal Primeでは上から2番目にあたるVM2602が大体同程度といったところである

Scalar Engineは全体に共通で、Cortex-A72×2とCortex-R5×2が利用できる。このあたりはVersal Primeと差はない。異なるのはLogic Cell(LC)とDSP、それと先に紹介したI/Oである。Versal Primeの場合、System Logic Cellは336K~2233K、LUTは153K~1M、DSPは472~2672個となっており、これと比較するとVersal Primeは圧倒的に利用可能なリソースが多い事がわかる。ロジック数だけで言えば、2019年11月にIntelが発表した「Stratix 10GX 10M」の方がやや多いが、SerDesで比較すると圧倒的にVersal Premiumが有利であり、単純にロジックの数だけでは決まらないだろう。

そのVersal Premiumであるが、ドキュメント類はすでに入手可能、ツール(Vivado/Vitis)の対応は2020年後半、シリコンのサンプル出荷は2021年前半を予定している。ただ基本構造はVersal Primeと同じなので、エンジニアはVersal Primeの評価キットを利用して、Versal Premium向けの開発をすぐにでもスタートできるとの事であった(Photo17)。

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    Photo17:右の写真はVersal Primeの評価キット