定番の日本語入力システム、ジャストシステムの「ATOK for Windows」(以下、ATOK)のアップデートモジュールが2020年1月31日に公開されました。ジャストシステムのFAQにあるとおり、Google Chromeのアドレスバーでサジェスト機能が動作しなくなるバグを修正し、推測候補と連想変換の機能拡張が追加されています。

変更点は以上の3カ所。過去のアップデートを振り返ると、2019年2月はバグフィックスと機能追加、2019年4月は新元号(令和)への対応、2019年9月はダークモードデザインの採用と、細かな改良を加えてきました。2020年2月以降の進化にも期待を込めつつ、まずは2つの新機能を掘り下げていきましょう。

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    オンラインアップデートツールに現れたアップデートモジュール

推測変換

入力したい単語の先頭数文字をから、過去に入力した文章を候補として提示する推測変換に助けられているユーザーは少なくありません。たとえば筆者は連文節変換ではなく単語変換を多用しており、推測候補リストを常に表示させると同時に「Tab」キーを押して、入力したい文章を選択しています。しかし、従来のATOKは呼び出せる範囲に限界がありました。句読点や括弧を含んだ文章は推測候補に現れず、筆者はテキストエディターの自動補完機能でカバーしています。

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    長文の推測変換機能を使うには「確定履歴を使用する」を有効に

新しいATOKは一連の制限を取り除き、2回の繰り返し入力で推測変換候補に提示するようになりました。ただし、すぐに現れるわけではありません。日に5,000文字程度を入力するユーザーの場合、数日間で同じ内容を2回確定し、1週間程度で3回目の入力があると現れる仕組みです。本機能を確認するため同じ文章を何度も入力したところ、10回程度で推測候補に現れるようになりました。

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    10回ほど同一の文章を入力することで、長文の推測変換候補が現れました

従来のATOKで長文をすばやく入力するには、省入力ユーザーデータへの登録が必要でしたが、新しい推測変換は前述のとおり、入力頻度の高い文章をデータとして蓄積します。ユーザーの負担を軽くしてくれる有益な機能と評価できるでしょう。

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    不要になった変換候補は単語削除と同じく、「Ctrl」+「Delete」キーで削除できます

連想変換

連想変換は、変換する単語から連想される類義語や、言い換え表現を探すときに使う機能です。上記の推測変換と並ぶ新しい機能の新連想変換は、連想変換辞書を搭載することによって、「表現」に特化した変換を可能にしています。新連想変換は入力した状況を検知し、別の表現を提示するようになりました。

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    従来の連想変換。「新しい」を変換候補として「Ctrl」+「Tab」キーを押すと、類似する別単語を候補として提示します

具体例としては、「年の瀬は何かと」までは変換確定し、その後「忙しい」「目まぐるしい」「せわしない」などと、変換した類語を確定せずに(=キャンセルしつつ)文章作成を続けます。この変換キャンセルをATOKが検知し、別の表現を提示するようになりました。ただし、この機能が動くのは、同じ行で連続入力している場面のみ。確定やウィンドウを切り替えたあとにカーソルを移動させても動作しません。

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    新連想変換では、確定キャンセルを繰り返すことで、別の表現を提示します

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    「Ctrl」+「Tab」キーを押すことで、異なる連想変換候補を提示します

正直なところ、新連想変換については、筆者はそれほど高く評価していません。ユーザー個人の使い方にもよるとは思いますが、変換をキャンセルする場面は少なく、脳内に浮かんだ文章を入力することが多いからです。一方、じっくり考えながら、表現を吟味しながら、文章を作っていくユーザーには有益な機能ではないでしょうか。

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    クラウド経由で推測変換用単語を配布する「ATOKキーワードExpress」も、スポーツを中心に強化されています

Windows 10が標準搭載するMS-IMEは、ユーザー操作を先回りするような機能はさほど多くありません。入力履歴などを用いた予測入力やオートコレクト、文字種による全角/半角の変換確定程度でしょうか。単純に機能を比較しても、ATOKに軍配が上がることは明らかです。

ただし、2019年のATOKレビューでも述べたように、年に数回のバージョンアップに物足りなさを感じるのはワガママでしょうか。過去のATOKは、一太郎の新バージョンとほぼ同時に新バージョンがリリースされ、新機能を実装してきました。現在のATOKは、基本的にサブスクリプションサービスの「ATOK Passport」に切り替わっています。一般的なSaaS(Software as a Service)モデルは、かなり頻繁にUI改善や機能拡張を行っていますが、長年ATOKを使い続けている1人のユーザーとして、ATOKにも進化のスピードアップを期待したいと思います。

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    ATOK Passportプレミアム契約の場合、「大辞林 4.0」「ウィズダム英和辞典 第4版」「ウィズダム和英辞典 第3版」などを、ATOKクラウド辞典経由で利用できます(画面は一太郎2020付属版を使用)

阿久津良和(Cactus)