SEAJが2021年度までの半導体/FPD製造装置需要予測を発表
日本半導体製造装置協会(SEAJ)は1月9日、2019~2021年度における日本製の半導体製造装置およびFPD製造装置の需要動向予測を発表した。
2019年度は、半導体製造装置が前年度比8.1%減、FPD製造装置が同6.8%減、全体で同7.8%減の2兆5658億円に留まるとSEAJは予測しているが、2020年度は半導体製造装置、FPD製造装置ともに緩やかな回復が見込まれることから全体で同7.2%増の2兆7511億円。2021年度はFPD市場に不透明さが残るものの、半導体の設備投資が本来の成長軌道に戻ると見て、全体で同9.4%増の3兆89億円と予測している。
SEAJ会長の牛田一雄氏(ニコン会長)は、「半導体・FPD製造装置市場ともに緩やかな上昇基調にあり、2021年には、過去最高(2018年度)の売上高(2兆7843億円)を超えて史上最高額に到達することが期待される」と記者会見で述べた。
2021年度の半導体製造装置は2桁増成長に期待
日本製半導体装置の販売高(海外拠点を含む日系企業の国内および海外販売額)だが、2019年度はメモリーメーカーの設備投資が低調で抑制傾向が続くものの、ロジックおよびファウンドリー投資が従来の想定以上に好調な点を加味した結果、SEAJでは前回(2019年7月)予測から 2.9ポイントの上方修正となる前年度比8.1%減の2兆658 億円と予測している。また、2020年度はメモリー向け設備投資の復調が見込まれるため、同8.0%増の2兆2311億円、そして2021年度はさらなる設備投資が進むと期待されるため、同12.0%増の2兆4988億円と予測している。
日本市場における販売高(日経企業および外資系企業の日本国内への販売額)は、2019年度がソニーセミコンダクタソリューションズのイメージセンサー向け設備投資が好調であったものの、キオクシア(旧東芝メモリ)のNAND向け設備投資が想定以上に悪化したため、同30.5%減の6865億円とSEAJは予測している。2020年度はメモリー向け設備投資の復活と高水準のイメージセンサー向け設備投資の継続で同31.4%増の9021億円。2021年度も2020 年と同水準の設備投資が期待されるため同0.3%増の9048億円を予測している。
SEAJでは、今回の予測の背景について、「IMFの2019年10月発表によると、2019年の世界経済成長率は、米中貿易摩擦の影響を中心に7月発表時点から0.2ポイント下方修正され、2018年の実績を0.6ポイント下回る前年比3.0%増に減速すると予想されている。2020年は同3.4%増に回復し、2021年も引き続き成長して2018年と同レベルの同3.6%増まで回復するとしている。半導体を消費するアプリケーションとしては、2019年はCPUの供給不足や遅れなどもあり、PCやデータセンター関連の需要が低迷し、スマートフォンの出荷数も2年連続の減少が見込まれている。ただし、2020年は、5G通信の普及が本格的に始まる年であり、関連してデータセンター需要の復調も期待できる。半導体需要は、これまでのようにいくつかの電子機器の出荷台数に大きく依存するのではなく、5GやAI、IoT、 自動運転など用途の広がりによって拡大していくと考えられる。世界半導体市場予測(WSTS)が2019年12月に発表した予測では、2019年の半導体市場成長率は、同12.8%減とされており、特にメモリーが長期間にわたる価格下落が続いたことで、同33%減と大きく減速する見込みであるが、2020年にはメモリーの販売高も回復に転じ、全体で同5.9%増と堅実な回復が見込まれる。設備投資についても、2019年はDRAM、3D NANDとも低調であったが、ロジックメーカーやファウンドリーの投資が増額され、全体としては7月の予測よりも若干であるが好転した。2020年も引き続きロジックメーカーやファウンドリーの投資は堅調であり、2020年後半以降はメモリーの設備投資の回復も期待される」と説明している。
FPD製造装置は2020年度にプラス成長も2021年度はマイナス成長に
一方の日本製FPD製造装置の販売高についてSEAJでは、2019年度はG6(第6世代)基板有機EL(OLED)向け設備投資が需要面で谷間にあたったこと、ならびにG10.5(第10.5世代)基板LCD投資で一部投資延期がみられたことから、前年度比6.8%減の5000億円と予測。G6基板のOLED向け、G10.5 基板のLCD向け設備投資ともに、中国が全体の8割を占めている。2020年度は、G6投資の再開と延期されたG10.5投資の実施が見込めることから、同4.0%増の5200億円と予測しているが、2021年度は不透明な投資計画を 考慮した上で、同1.9%減の5101億円と予測している。
SEAJでは、FPD製造装置市場の動向をこのように分析した背景について、「G6の中小型OLEDパネル、G10.5を中心とした大型LCDパネル投資ともに、投資は中国に集中 している。2018年度の実績は、両市場における投資全体の78%が中国向けであり、2019年第3四半期(7~9月)も76%が中国向けであった。韓国・台湾・日本の大手パネルメーカーの営業利益率は2017年第2四半期をピークに低下傾向が続いており、2019年第3四半期は、韓国の1社を除き営業赤字を記録した。計画されている中国のG10.5 LCD投資が実行されると膨大な生産能力ができるため、他国では正面からの競争を回避し既存LCDラインの停止や、QD-OLEDといった新技術向けに設備を転用する動きが出ている。2021年以降の投資計画は不透明であるが既存のディスプレイとの技術的な差別化がポイントとなる。中国を含む各社の方針により技術的な選択肢は広がり、投資金額としての変動要素も大きくなる。先進的な装置メーカーにとっては、新たな事業機会として前向きに捉えることも可能である」と説明している。
また、2021年のFPD装置販売額をマイナス成長と予測したことに関して、SEAJは記者会見の席上、「韓国勢がポスト液晶として、中国勢に対して優位性をどこに置こうとしているのか2021年以降の方針や戦略が未発表であり、いまのところはっきり見えていない。LCDだけではなくOLEDも中国勢が力を入れてきており、韓国勢が量子ドットOLED(QD-OLED)かマイクロLED(MicroLED)かそれともさらに先を狙うのかはっきりしたらポジティブな予測に替わるだろう。この辺の不透明さ、不確実性ゆえにいまはわずかなマイナス成長という予測にとどめている」と補足している。
グローバルな自由貿易の重要性をSEAJ会長が強調
記者会見に引き続き開催されたSEAJの賀詞交歓会において、同協会会長の牛田一雄氏(ニコン代表取締役会長)は、「2019年を振り返ると悪いことが2つあった。1つは自然災害が多かったこと、もう1つは半導体・FPDの世界規模のサプライチェーンが国境を越えて構築されて自由に貿易できてこそ業界全体として成長ができるわけであるが、グロ-バル化に逆行してディグロバラゼーション(世界規模の貿易の停滞)をもたらすような地政学的な懸念事項があり、今後の成り行きが懸念されることである」とグローバルな規模の自由貿易の重要性を強調した。
日米貿易戦争や日本政府の韓国に対する輸出管理の厳格化など自由貿易への逆行ともとらえられかねない政策を念頭にした発言と見られる。また同氏は「令和という新しい時代を迎えて業界がゆるやかな上向き加減で新年を迎えることができたのは喜ばしい。半導体製造装置とFPD製造装置の販売額総額3兆円を目指した今後の発展を期待したい」と抱負述べている。なお、牛田氏は、2019年5月30日付けで前任の辻村学氏(荏原製作所)に代わってSEAJの会長に就任している。