2020年はA14プロセッサと5G対応でiPhoneの回復を強く印象づけられる年になりそうです。だからといって、そのままiPhoneが5G時代の主役を担い続けるとは限りません。

5Gの特徴である「高速大容量」の通信によって動画ストリーミングが楽しみやすくなるし、「低遅延」はオンラインモバイルゲームの幅を広げてくれるはずです。Appleが2019年に投入した新サービスは5G時代を見据えたものだったと言えます。でも、それらは5Gで開ける可能性の一部でしかありません。まっさらな状態で、5Gの特徴を踏まえて次世代のモバイルデバイスを思い描くとして、今のスマートフォンのようなデバイスを想像するでしょうか。今日のモバイルの延長としてスマートフォンは5Gの立ち上げと普及に重要な役割を果たすでしょう。しかし、今のスマートフォンが5Gのポテンシャルを存分に発揮させられるデバイスかというと疑問符が付きます。

  • コストが分かりにくい米Verizonのサービスをおちょくるような広告を掲載する米T-Mobile、5G時代のサービスを巡るキャリア同士の競争も熾烈に

PCからWeb、そしてモバイルへと時代が移り変わっていく過程で、テクノロジーはより広く、より多くの人々にリーチしてきました。スマートフォンは情報やテクノロジーの民主化に大きな貢献を果たしましたが、5G時代の到来が実感できるようになった今、5Gの可能性を存分に引き出せるデバイスやサービスが求められます。

それは新たなスタイルのスマートフォンかもしれません。噂のAR/VRデバイス、ARMベースのApple独自のプロセッサを搭載したMacが、そうなるかもしれません。でも、今のAppleにMacintoshやiPod、iPhoneのような製品を作れるでしょうか。過去10年度々指摘されてきたことです。Walt Mossberg氏がThe Vergeに久しぶりに寄稿した「Tim Cook's Apple had a great decade but no new blockbusters」で次のように書いています。

「過去10年でAppleは大きく成長した。2019年度の売上高は2009年度の6倍だ。新しいヘッドクォーターはペンタゴンより大きい。また、5つの事業はそれぞれがFortune 500の規模である。しかし、プロダクトはどうだろう? そしてカルチャーは?」

Tim Cook時代にもAppleはApple WatchやAirPodsといった素晴らしい製品を送り出しています。また、過去10年の企業としての成長は大成功と呼べるものです。MacintoshやiPhoneのようなゲームチェンジャーと呼べるハードウェア製品の再現を、いつまでもAppleに求め続けるのが間違いなのかもしれません。でも、10年以上前のAppleを知っている人達は、5G時代の到来でAppleの革新を起こす力に期待してしまいます。

Mossberg氏によると、Cook氏は自身がプロダクトの人ではないため、製品づくりに関しては最高デザイン責任者のJonathan Ive氏に全てを任せてきました。Ive氏は存分に力を発揮しましたが、バタフライキーボードのトラブルのようなデザイン優先の問題も生じました。「何人かのインサイダーによると、アイヴのデザインチームに(プロダクトの)全権を与えたことで、ジョブズ時代に保たれていたデザイナーとエンジニアの間のバランスが、少なくとも今年の初めにアイヴがAppleを去るまで失われていた」(Mossberg氏)。

Ive氏が去った後のAppleで、ハードウェア製品を生み出すリーダーシップがどのように機能しているかは不明です。もしかするとデザイナーとエンジニアのバランスが回復したかもしれません。プロダクトのリーダーを失った穴をうまく埋められていない可能性もあります。新たな体制で「プロダクトのApple」の力が発揮されるか、これからのApple製品の注目点の1つになります。