NetApp INSIGHT 2019の会場において、ごく短時間ではあったがCEOのジョージ・クリアン氏に日本市場に関して話を聞く機会があったので紹介したい。

--日本市場に向けた取り組みは?

クリアン氏:日本市場において、NetAppは日本国内の主要なパートナー/ディストリビューターとの協力関係に基づいてビジネスを展開している。具体名を挙げるなら、富士通や伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)などのさまざまな国内企業であり、こうしたパートナー企業が日本国内のユーザーにNetAppのソリューションを提供している。

また、同様にNTTコミュニケーションズや富士通などの日本国内の主要なクラウドプロバイダーとも協力している。今回、KeystoneをNetAppのソリューションを導入するための新しい方法として日本国内のパートナー企業およびユーザー企業向けに紹介した形だ。

Keystoneなら、たとえば従来型のデータセンターで実行されていたワークロードを“Lift & Shift”によってパブリッククラウドに移行するのではなく、従来のデータセンター環境のままでパブリッククラウドライクなエクスペリエンスを実現したいと望むユーザー企業に最適なソリューションを提供できる。

パブリッククラウドのメリットは採り入れたいが“パブリッククラウドへの移行作業”は避けたいユーザーが、従来型のデータセンターのままでパブリッククラウドのメリットを享受するための手段となるはずだ。

--競合は?

クリアン氏:市場では「消費モデル」の競合としてHPE GreenlakeやPure Storage、Dell EMCなどの取り組みと比較されるようだが、われわれはこれらの既存サービスとKeystoneには大きな違いがあると考えている。たとえば、既存のサービスは基本的にはリース・モデルであり、ベンダーと顧客企業の間でリスク・シェアリングが行なわれているわけではなく、顧客企業が全てのリスクを負っている。

しかし、NetApp Keystoneの場合はNetAppが資産を所有し、顧客企業とNetAppがリスクをシェアする点が違う。“リース”なのか“真の消費モデル(True Consumption Model)”なのか、その点が競合サービスとNetApp Keystoneの最大の違いだ。

また、もう1点の違いとして、NetAppでは広範な選択肢を提供する点が挙げられる。たとえば、パフォーマンス面では“All Flash(オールフラッシュ)”“Hybrid Flash(ハイブリッドフラッシュ)”“Disk(ディスク)”のすべてを提供するし、アクセスプロトコルとしても“File”“Block”“Object”のすべてが揃っている。

競合他社では、たとえば「オールフラッシュのみ」とか「ブロックストレージのみ」といった提供しかしていない例があるが、NetAppはユーザーが必要とする全機能を提供できる。さらに、設置/運用場所はユーザーのデータセンターに限定されず、パブリッククラウドであっても構わない。

NetAppではすでに主要パブリッククラウドプロバイダーと密接な協力関係を構築しており、ユーザーが望むパブリッククラウド環境上でサービス提供が可能な状況になっている。柔軟性が極めて高く、広範な選択肢を提供できる点が、NetApp Keystoneと他社のサービスとの違いだ。

加えて、パブリッククラウドプロバイダーが提供するデータサービスとNetAppが競合するかというと、私は必ずしもそうではないと考えている。われわれが提供するデータサービスは高度な技術に基づく魅力的なサービスであり、パブリッククラウドプロバイダーが提供するサービスとは充分に差別化できているし、それ故に良好なパートナーシップを構築できていると思う。

また、グローバルにビジネスを展開するハイパースケール・クラウドプロバイダー3社のみではなく、世界各国のさまざまなクラウドプロバイダーともパートナーシップを構築している。日本ではNTTや富士通、他にも中国やインドでも同様に地元企業との連携を強化している。

確かに、米国発の“ハイパー・スケーラーズ”はグローバルに強力なサービスを展開しているが、そのサービス網がカバーしきれない国も存在する。ハイパー・スケーラーズが基本的にはパブリッククラウドサービスに特化した事業展開を行なっているのに対して、ローカルのクラウドプロバイダーはよりきめ細かなサービス提供を行なう傾向があるだろう。

日本でもその傾向は顕著だが、たとえばシステムインテグレーションや手厚いサポートなど、ハイパー・スケーラーズがカバーしきれない領域をカバーするローカルのクラウドプロバイダーが存在しているので、NetAppは彼らと協業することで広範なユーザー企業にソリューションを提供できる。

日本のユーザー企業は、スケールメリットに優れたハイパー・スケーラーズときめ細かなサービスを提供する日本企業によるクラウドサービスを適宜組み合わせる形での“ハイブリッドクラウド環境”を指向しているように見えるが、NetAppはそのどちらの環境に対しても良好なパートナーシップに基づくソリューション提供を行なっていく。

--Keystoneの想定ユーザー像は?

クリアン氏:Keystoneは特定の業種/産業分野を意図したサービスではなく、“モダンなアプリケーションを迅速に提供したいが、アプリケーションの実行環境としては自社データセンターを活用していきたい”という企業の利用を想定したサービスだと言えるだろう。

こうした企業の多くはプライベート・クラウド環境を構築しているだろうから、Keystoneの導入先としては大半がプライベートクラウドということになるかもしれない。なお、公式には今回Keystoneをグローバルで発表した形であり、日本市場でも同時に利用可能な状況になったと言えるが、現在提供方法などについて日本国内のパートナーと話し合っているところなので、日本国内向けにローカライズされたサービス提供の開始はもうしばらく先になる。

現在、ITとデータはビジネスの根源だと言える存在になっている。市場における競争ではスピードこそが勝敗を分ける鍵であり、デジタルなビジネスモデルではクラウドのスピード感が必須となっている。また、クラウドはすでにITを運用する際のベンチマークとなっており、企業内ITにおいてもクラウドと同等のスピードや効率性が求められるようになってきた。NetAppは、テクノロジー、パートナーシップ、ビジネスモデルの全ての面において、顧客企業が“デジタル・トランスフォーメーション”を達成するための支援を行なっていく。Keystoneはその具体策の1つとなる。