ヤフーを傘下に収めるZホールディングス(ZHD)と、LINEの経営統合が正式に発表された。11月18日午後に都内で会見を開いた両社は、「対等の関係での経営統合で、日本、そしてアジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」(ZHD代表取締役社長・川邊健太郎氏)と強調した。

11月18日には基本合意書を締結し、2019年末から2020年初頭にかけて最終契約にこぎつけたのち、各種の申請や審査などの手続きを経て、遅くとも2020年10月までには統合を完了したい考えだ。

  • Zホールディングスの川邊健太郎社長、LINEの出澤剛社長

    記者会見に登壇したZHDの川邊健太郎社長(左)とLINEの出澤剛社長。両者はそれぞれのコーポレートカラーを交換したネクタイを身に着けていた。ZHDの川邊氏はLINEカラーの緑、LINEの出澤氏はYahoo!カラーの赤だ

現在、Zホールディングスはソフトバンクの傘下にあり、LINEは大株主として韓国NAVERが控えている。今回の経営統合では、統合会社となるZHDの株式を50%ずつ(少数株主の持分を除く)を、ソフトバンクとNAVERが取得。ZHDの川邊社長によれば、少数株主は35%程度になる見込みで、残る65%をソフトバンクとNAVERで分け合う。

  • ソフトバンクとNAVERが50%ずつを出資したジョイントベンチャーが、ZHDの株式を取得し(一般株主分を除く)、ソフトバンクが統合会社の新生ZHDを連結子会社化。その下に100%子会社として、ヤフーとLINEが存在する

新生ZHDはソフトバンクの連結子会社となり、ヤフーとLINEはそれぞれZHDの完全子会社として存続する形だ。

ヤフーは、日本のインターネットにおいて検索事業やポータル事業の先駆けとして長らく国内トップだったが、検索機能自体はGoogleを採用し、Eコマースや決済、メディア、広告といった事業を強化してきた。一方のLINEは、2011年にリリースしたメッセンジャーサービスが大ヒットし、国内最大級に成長。LINEアプリを中心としてEコマース、決済、メディア、広告といった事業を展開してきた。

そんな両社は、メッセージサービスに強いLINEとEコマースに強いヤフー、スマートフォンベースで若者に支持されるLINE、PCユーザーやシニアユーザーも多いヤフーといった具合に、それぞれ得意分野がある。ヤフーとLINEの統合によって、シナジー効果が生み出せると判断した。

主要なシナジーとしては、ヤフーが抱える6743万人のユーザー、300万社以上のビジネスクライアント、LINEの8,200万ユーザーと350万社以上のビジネスクライアントという基盤を挙げる。両社のサービスは重複もあるため、単純な合算にはならないが、前述のようにユーザー層としてもサービスとしても補完的なものがあり、統合のシナジーにつながるというわけだ。

さらにZHDは、グループ各社との連携も期待できる。親会社となるソフトバンクの通信事業に加え、ソフトバンクが進めるBeyond Carrier戦略による通信以外のサービスとの連携も可能。グループであるMONETやDiDiといったMaaSの分野も、「補完的」だと川邊社長は述べる。

LINEは、韓国1位の検索ポータルであるNAVERとの技術開発によってAIのClovaを生み出しており、LINEとNAVERの技術力をアピール。新生ZHDではAIテックカンパニーを目指す点からも、シナジーを生み出せるとの判断だ。

ヤフーとLINEの統合で社員数は2万人強となる。デザイナー、クリエーター、データサイエンティストといった専門職も、両社で数千人規模になるという。ZHDの川邊社長は、こうした人材面でのシナジーにも強い期待を寄せる。

「AIのテクノロジーによる新しい課題解決、インタフェース、ユーザー体験といった領域に積極的、集中的に投資していく。ユーザーに喜んでもらえる価値を提供して、日本、アジアの人々の生活に資するような存在になっていきたいと願っている」と、LINEの出澤社長は意気込んでいる。

  • ヤフーとLINEのサービスは各分野で競合しているが、そこにもシナジーを生み出せるところがあるという認識

ヤフーとLINEの統合で背景にあったのが、「グローバルテックジャイアントの存在」(LINE・出澤社長)だ。米国のGAFA(*)だけでなく、中国勢がグローバル市場を席巻しており、「勝者総取りのビジネス構造で、強いところはもっと強くなり、差が開いてくる構造」(LINE・出澤社長)のため、このままでは海外勢に飲み込まれるという危機感があった。

*GAFA:Google、Amazon、Facebook、Appleを指す

  • ZHDとLINEを単純に合算しただけでも、米中の巨大企業には大きく離されている

ZHDとLINEの時価総額を合わせると3兆円規模に達するが、米中の大手はその10倍以上の時価総額で、営業利益、研究開発費、従業員数のどれを取っても届かない。そうした中で、経営統合でさらなる拡大によって、海外勢に対抗することを目指す。

さらに、「課題先進国」(ZHD・川邊社長)の日本では、人口減とそれに伴う労働人口の減少、災害対策などの分野において、「テクノロジーによって解決できることがまだまだあるのに、実際は解決できていない」(ZHD・川邊社長)との認識を示した。ヤフーとLINEの技術、人材の活躍によって、テクノロジーによる課題の解決につなげたいと気概を見せる。

「大きな志で事業展開をしたい」とZHD・川邊社長。日本にフォーカスしたAIテックカンパニーを実現するとともに、LINEが強みを持つタイ、台湾、インドネシアといった国々をはじめとしたアジア地域に進出して、規模を拡大。米中のIT大手に対抗するグローバル企業へと拡大していきたい考えだ。

  • アジアに強いLINEの基盤を活用したアジア進出も目指す

とはいえ、現時点では統合に1年近い期間が必要となる。その間、ヤフーとLINEの事業については、「ヤフーの社員には、思い切りLINEと戦って、どちらがいいサービスを作れるのか勝負をかけろと告げた」とZHD・川邊社長が言う通り、当面はライバルとして事業を展開していく方針だ。

LINE・出澤社長も「まったく同じことを社員に言った」と述べ、統合までは、従来の事業は継続される見込み。「より良いサービスを作り、成長した形で、統合する日に向かう」(LINE・出澤社長)という状況で、ZHD・川邊社長は「両社は花嫁武者修行をする」と表現した。

「LINEというサービスが大好きでヘビーユーザー。こんないいサービスとは一緒に(事業を)やりたいと前から思っていた」とZHD・川邊社長。以前から経営層の交流があり、ZHD・川邊社長が副社長時代から、「何か大きなことをやろう」とLINEにオファーしてきたという。

2019年の春先にあった懇親の場で、同様のオファーに対してLINE側が初めて反応。今回の経営統合に向けた話し合いが始まったという。2019年6月には、ソフトバンクとNAVERというそれぞれの親会社を加えて本格的な議論がスタート。ソフトバンクグループの会長兼社長である孫正義氏に対して統合をプレゼンしたときには、「100%賛成。日本のため、アジアのインターネットのため、スピーディにやるように」と言われたそうだ。

こうした話し合いを続けて5カ月、今日の11月18日に基本合意にいたった。今後は統合に向けた話し合いはさらに加速し、本業ではライバルとして切磋琢磨しつつ、統合への取り組みも続けるとのこと。

個別事業に関しては、「優れたサービスを生み出さないと統合後に統廃合される」という危機感によって、むしろサービス強化が進展する可能性がある。逆に統廃合を想定して、縮小されるビジネスが出てくるかもしれない。

ただ、統合後の事業に関しては現時点で明らかにされなかった。PayPayとLINE Payのように重複した事業の統廃合や、LINE Bankのような現在準備中の新規事業がどうなるのかといった詳細は、今回の記者会見では触れられていない。

補完的な事業もあるが、現実として重複事業が多いヤフーとLINEが、経営統合によってどれだけのシナジーを生み出せるかは未知数だ。ただ、海外勢の規模に対抗するためには、国内での統廃合は不可避でもある。ヤフーとLINEが経営を統合する成否は、日本経済にとって大きな転機にもなり得るだろう。

今後、ヤフーとLINEは統合後の青写真を描きつつ、既存サービスの進化も続けなければならず、当面は難しい舵取りが続く。2人ともがCo-CEOとなり、共同CEO体制を取るZHD・川邊社長とLINE・出澤社長が、どのような戦略を描き、実行に移すのか、注目が集まる。