ソフトバンクグループは11月6日に、2020年3月期 第2四半期の決算を発表しました。登壇した孫正義氏は「今期の決算は、創業以来となる1兆円規模の大赤字でございます。今日はいいわけ抜きで、事実をお伝えしていこうと思います」と神妙な面持ちで決算発表会をスタートさせました。

  • 決算発表に登壇したソフトバンクグループ代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏

創業以来、ボロボロの決算

ソフトバンクグループの上期の連結業績は、営業利益が1兆4,363億円のマイナスとなりました。前年同期の営業利益が1兆4,207億円のプラスだったことを踏まえて「前年上期の利益をふっ飛ばしてボロボロでした」と孫氏。プレゼンの声にも活力が感じられません。

  • 決算発表会1枚目のスライドは、なんと荒れた大海原の写真でした

大赤字の原因は、アメリカのシェアオフィス大手「WeWork」の業績不振。すでにSVF(ソフトバンク・ビジョンファンド)が3ビリオンドル(約3,000億円)の、ソフトバンクグループが4.5ビリオンドルの投資を行っていますが、残念ながら業績が上向きません。そこで、来年の4月までに1.5ビリオンドルの追加投資を行うことも決定。この影響を受け、営業利益がマイナス計上となりました。

  • 連結業績は、営業利益が1兆4,363億円のマイナス。当期純利益も半減しています

「私の投資判断が、いろいろな意味でまずかった。大いに反省している」と孫氏。「取締役会などを通じて、社内外の役員から、ほとほと疲れ果ててしまうくらい責め立てられました。小さくなっている、今日現在の私であります」と元気がありません。

しかし孫氏は、ここで「2つの事実があります」と切り出します。1つは、最悪の赤字を計上しながらも株主価値は1.4兆円も増えていること。もう1は、SVFの累計投資成果が1.2兆円の利益を出したことです。

  • 孫氏がアピールする2つの事実とは?

株主価値が1.4兆円増えた背景には、ソフトバンクグループが保有している中国のアリババグループの株式が11.3兆円から13.4兆円まで増えたことが挙げられます。たしかにSVFの保有株式は3.5兆円から3.2兆円に目減りしましたが、これを補って余りある状況です。

  • SVFは3,000億円減ったものの、アリババの保有株式が2.1兆円の増でした

加えて、SVFによるほかの投資が利益を出していることも紹介しました。投資した約90社のなかで、価値が増した企業は37社(1.8兆円増)、評価減となった企業は22社(6,000億円減)。これを踏まえ、孫氏は「金額ベースで考えると3勝1敗。実は、利益のほうが大きいんです。どんな企業だって10勝0敗ということはない。世の中に5,000社あるといわれているベンチャーキャピタルの年間の評価益は13%程度だそうですが、我々のSVFはその倍近いIRRを出しているんです」として、いつもの前向きな(?)孫正義節が、ようやく復活します。

  • SVFの累計投資成果。トータルでは1.2兆円増になりました

熟せば儲かる? WeWorkの今後は

では、大きなブレーキとなってしまったWeWorkは、今後どうするのか。これについては、さらにサポートしていく方針を明らかにしました。

「一部のメディアでは、沈みゆくWeWorkを救済にいって泥沼にはまった、と報じる向きもありました。でも、現実は違います。りんごでいえば青りんごで、まだ熟していないだけ。熟せば儲かるんです。WeWorkは、世界に約700あるビルで事業を展開しています。ただ、全体の半分がまだ新しいビル。建設中のものも多い。新しいビルでは、最初の半年間は赤字になってしまいますが、時間とともに稼働率は改善していきます」(孫氏)

  • WeWorkが展開するビルの多くはまだ新しく、このため利益が出ていないと分析

「ソフトバンクではこれまで、ヤフージャパン、Vodafone Japan、Sprintなど、再建が難しいと思われていた企業の経営をいくつも立て直してきた自負があります。WeWorkも我々が大株主として経営に参画しました。いま、マルセロ・クラウレ氏が企業統治の適正化に取り組んでいます。新規ビルの増加を一時停止し、同時に経費削減も進める方針です。そうすれば、ほとんどのビルで稼働率が上がって、収益を稼ぐようになるでしょう。あとは時間が解決してくれる。青いりんごが、真っ赤になる。あ、色の例がふさわしくないですけどね」と孫氏。

  • WeWorkの収益構造は改善していくと楽観的に話します

「ただ、WeWorkの株式を高く買いすぎたのは事実。今回の件では、株主の皆様、貸付のレーティングエージェンシー、銀行の皆様にご心配をおかけしました。損切りすればいいじゃないかとのご批判もありました。でも、泥沼に手も足も突っ込んでしまったわけではないんです」(孫氏)

プレゼン中、何度となく「多くのことを学んだ」「深く反省した」と繰り返した孫氏でしたが、最後には「反省はしましたが、萎縮するほどではありません。大波ではなく、さざ波くらい。だから記者の皆さんも、記事のタイトルを『反省はしているけれど萎縮はしていない』にしたら良いのではないでしょうか。なかなかいいタイトルですね」と笑顔を見せるなど、生まれながらの”プラス思考”をすっかり取り戻した様子でした。

  • 大勢に異常なし、と最後は笑顔になった孫氏

そして発表会後、孫氏は記者団による質問に回答していきました。

WeWorkがやっていることは不動産業に過ぎず、今後も大きな利益は期待できない、ここに投資する価値はあるのか、という指摘に対して孫氏は「今後、ソフトバンクグループやSVFが総力戦でAIの技術、ノウハウを注入していきます。当初、WeWorkの経営陣ともそのことについて大いに語り合いました。だから期待値が高かった。でも、彼らはまだそれを実行できずにいる。そこで経営に参画して、まずは赤字を止めることから始めます。大儲けはできないかもしれないけれど、回収の目処は立つ。そのあと、時間をおいてから少しずつテクノロジーを組み入れていきます。社内では、5~6年のうちに年間で1ビリオンドルくらいのEBITDAを出せる、そんな予測も立てているところです」と答えます。

続いて、孫氏は人に惚れやすいところがあるが、WeWorkの創業者アダム・ニューマンを見る目がなかったのではないか、との指摘には「彼には、良い部分と悪い部分が混在していました。でもマイナスの多くに目をつむり、プラスの面を過大評価してしまったのかもしれません。WeWorkのプロダクトそのものはすばらしく、彼の攻めの姿勢、アーティスティックな側面を評価していた。反省しています。ガバナンスに問題があったので、筆頭株主として10名の役員のうち5名をソフトバンク、SVFのメンバーで固め、彼の権利の多くを剥奪しました」と説明しました。

そして、かねてから人生50か年計画として、60代で次の経営陣にバトンを渡す、と人生設計を語ってきたことに対して、その考えに修正はあるのか、と聞かれると「19歳のときから、そう公言してきました。その方針に変わりはありません。ただ、69歳になったときに、もうちょっとやりたいと思うかもしれません。いま、事業経営がおもしろくて仕方ない。そして、このAI革命を追い求めていきたい気持ちでいっぱいです。ただ、時間の問題はあります。後継者を育成していかないといけないのも事実。並行して準備を進めていきたいと思います」と答えていました。