では、どのような施策の結果として、ここまでエネルギー消費量を低減できているのかということは気になるところだ。

この点については、本来であれば新しく拠点を整備する際は電気やガス、水、空調などはオーバーサイズで設計されることが大半であるものの、それらのメーターを同社の工業用モータドライブでデジタル化することにより、調節が可能となるためサイズの適正化を図っている。

また、フロアを13平方メートルごとにゾーニングし、各ゾーンごとに温度や照度などを計測するセンサを設置した上でデータを収集。そして、データを天気予報などをベースにクラウドで分析し、照明や空調機を最適に制御している。

さらに、従業員は近距離無線通信規格であるZigBeeを内蔵したIDカードの着用を義務付けられており、どこのゾーンに誰(個人名は特定できない)が所在しているのかを把握できるため、セキュリティとエネルギーマネジメントの観点からも有効だという。

  • ZigBeeを内蔵したIDカード

    ZigBeeを内蔵したIDカード

HIVEの屋上などには250kWの太陽光発電システムを設置し、発電した電力はビルの使用電力のうち、10%に活用されている。

  • 屋上に設置された太陽光発電システム

    屋上に設置された太陽光発電システム

  • HIVE内のデータを収集するなどエッジコントロールを担う配電盤

    HIVE内のデータを収集するなどエッジコントロールを担う配電盤

現在、HIVE内では3500の製品をセンサの設置などでIoT化しており、電気やガス、水道、ボイラー、AHU(Air Handling Units:エアフィルターや熱交換器、加湿器、送風機などを一体化した比較的大きな空調機)、冷却システム、各オフィス・オープンスペースの照明、ブラインドをはじめ、約3万カ所をコントロール・管理し、状況はディスプレイや各自のデバイスからでも確認を可能としている。

  • 3500の製品から3万カ所のデータを収集しているという

    3500の製品から3万カ所のデータを収集しているという

このように、データを収集し、コントロール、分析することで次のアクションの立案や新しいソリューションのアイデアの参考にするなど、継続的なイノベーションにつなげているという。

現状でHIVEは、ビル管理向けの「EcoStruxure Building」、電力供給向けの「EcoStruxure Power」、一部に電力グリッド向けの「EcoStruxure Grid」、スマートファクトリー向けの「EcoStruxure Machine」を活用している。

目標の達成に向けて

一見すると、同社の取り組みは単なるCSR活動であり、化石燃料に頼らざるを得ない日本では一笑に付される可能性もあるが、2050年に世界におけるエネルギーの消費量は人口増加や都市化、産業化、デジタル化により、現状と比べて50%増加することが見込まれている。

また、同時にCO2排出量を半減させ、温暖化を抑制するというグローバルで取り組まなければならない課題も多く存在し、これらの解決に向けてエネルギーマネジメントは3倍の効率化が求められているという。

同社では、2030年までに事業運営に要する電力を再生可能エネルギー100%とし、中間目標として2020年までに80%を目指す「RE(Renewable Energy)100」や、同じく2030年までにエネルギー効率を2005年の基準値との対比で倍増させ、省エネルギーの1ユニットあたりの経済生産を倍にする「EP(Energy Productivity)100」に参加している。これらは環境NGOであるThe CLIMATE GROUPの国際的なイニシアティブだ。

これに準ずる形で同社は、グローバル1000カ所以上の拠点(200カ所の工場を含む)において、再生可能エネルギーの活用やエネルギー効率を向上させる設備・システムの導入、PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)などを活用し、目標を達成することにコミットメントしている。

同社では、エネルギーマネジメントを事業の根本に据えているため、蓄積された知見やノウハウをステークホルダー、ひいては社会全体に還元していると言えるのではないだろうか。今後も目標達成に向けて、同社の取り組みに期待したいところだ。