宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月5日16時半より、同日実施した小惑星探査機「はやぶさ2」の衝突装置(SCI)運用について記者会見を開催。この日初めて津田雄一プロジェクトマネージャ(プロマネ)が姿を現し、運用結果を報告した。DCAM3がイジェクタ(噴出物)の撮影に成功しており、津田プロマネからSCI運用の成功が宣言された。
津田プロマネはまず、「本日私たちは、宇宙探査の新しい手段を確立した」と挨拶。DCAM3でイジェクタを撮影できたことを報告すると、記者席からは大きなどよめきが起き、会見場は拍手に包まれた。
その画像には、小惑星表面から出るイジェクタがハッキリと写っており、SCIが正常に作動し、予定通り命中したのは確実。津田プロマネは「とても嬉しい。我々も興奮している」とした上で、「こんなに早く画像を出せるとは想定していなかった。我々としてベストの中のベストが出た」と述べ、運用の順調さをアピールした。
佐伯孝尚プロジェクトエンジニアは、はやぶさ2の打ち上げ前、SCIの開発を担当していた。現在はプロマネを補佐し、全体を見る立場だが、「危険な運用なので、何かあったらどうしよう」など、いろいろプレッシャーがあったという。しかし無事成功して、「まだ油断はできないが、今日は素直に喜びたい」と笑顔を見せた。
やや気が早いかもしれないが、SCIが命中できたことで、あとはどのくらいの大きさのクレーターができたのかが気になるところだ。今回取得できた画像はまだこの1枚だけであり、今後、その他の画像も確認する必要はあるものの、画像に写ったイジェクタは、数10m程度の高さがあると見られている。
DCAM3の科学観測を担当している神戸大学の荒川政彦 教授は、「こんな立派なイジェクタカーテンが見られるとは想定していなかった」とコメント。もともと、アナログカメラでは写らない可能性もあってデジタルカメラを追加したという経緯があるが、アナログでここまで写っていたことで、「科学研究に十二分な成果が得られるのでは」と期待した。
ただクレーターができたかどうかについては、4月22日の週に行うクレーター探索運用(CRA2)の結果を待つ必要がある。画像1枚で得られる情報には限りがあり、荒川教授は「推測」と断った上で、「表面のボルダー(岩塊)に当たっただけでは、あれほど綺麗なイジェクタカーテンが出ることはあまりない。地表にクレーターができた可能性は高いのでは」と述べた。
DCAM3は非常に小型ながら、しっかりミッションを成功させた。時間的な余裕が全く無い中、この開発を担当した澤田弘崇氏は「非常に苦しかった。泣きそうになりながら作った」と当時を振り返る。打ち上げ後も、DCAM3は分離まで状態を確認できない設計だったためずっと心配していたが、電波を確認したときは「本当に嬉しかった」という。
今回取得できたのはアナログカメラの画像だが、より高精細なデジタルカメラの画像もすでに探査機側に保存されており、今後、地上に順次送信される予定だ。澤田氏は「きっと素晴らしい画像を撮っているはず。ぜひ有名な論文誌の表紙を飾って欲しい」と荒川教授にプレッシャーをかけ、周囲を笑わせた。
またSCIの命中精度はあまり良くないと考えられていたため、半径200mという広い範囲で命中場所が予測されていた。しかし、SCIを分離した高度500mまでは、誤差数mレベルの高い精度で探査機を誘導できた。今後、詳しく解析する必要はあるものの、「狙った北緯6°の地点にかなり近かったのでは」(津田プロマネ)とのことだ。
今回、SCI運用が成功したことで、今後、はやぶさ2の運用は次のフェーズに移る。まず、CRA2を確実に実行して、クレーターの場所を特定、クレーターの中に着陸するか、別の場所にするか検討する。もしSCIが狙った場所に命中していれば、着陸候補地点として目を付けていた「S01」にイジェクタが降り積もっていることも期待できる。
ただ、はやぶさ2の内部には、すでに第1回目タッチダウンで採取した貴重なサンプルが格納されている。この"人類の宝"を地球に持ち帰るのが何より最優先であるため、リスクはなるべく避けたい。津田プロマネは、「この状態でどの程度のリスクまで許容して着陸するのか、これからメンバーと考えていきたい」とした。