10月30日、AMDはRyzen Threadripper 2920Xと2970WXを発売した。この2製品が投入される、という話は8月の段階で明らかにされており、これはまぁ予定通りという形だ。

で、筆者のところにも評価キットが届いたわけだが、ちょうどIntel Core i9-9900Kの評価をやっている真っ最中で、スタックに積まれる事になった。おまけに次々とスタックが深くなっていく関係で、こんな時期にレポートをお届けすることになってしまったことをお詫びする。

ただ、どうせ2か月遅れのレポートということもあり、単に2920Xと2970WXだけを試すのではなく、8月にお届けした深層レビューで評価したRyzen 7 2700X/Threadripper 1950X/2950X/2990WXについてもテストのやり直しを行った。

ちなみにテスト環境は先日お届けしたCore i9-9900Kのレビューにあわせた形とし、結果にCore i7-8700KとCore i9-9900Kも加えて、AMDとIntelのハイエンドCPU同士の一挙比較をお届けしたいと思う。

評価キット

もはや製品の説明そのものは不要かと思う。Ryzen Threadripper 2920Xは12コアのGaming向け、Ryzen Threadripper 2970WXは24コアのWorkstation向けの製品であり、それぞれRyzen Threadripper 2950X/2990WXの下位に位置する。

ただその分価格もお求め安くなっており、発売時の参考価格はRyzen Threadripper 2920Xが79,800円、Ryzen Threadripper 2970WXが159,800円となっている。で、実際の市販価格は?というと、12月13日付のAmazonでの価格は

  • Threadripepr 1920X:63,330円
  • Threadripepr 1950X:87,430円
  • Threadripper 2920X:86,179円
  • Threadripper 2950X:106,749円
  • Threadripper 2970WX:172,584円
  • Threadripper 2990WX:225,815円

といったところで、Threadripper 1950Xと2920Xの値段がほぼ同じくらいになっており、この辺りの予算を考えている人には悩ましい状況かと思う。

ということで評価キットの紹介を。パッケージは従来と全く同じ(Photo01,02)で、プロセッサもシルク以外は全く変更がない。裏面のコンデンサ配置はRyzen Threadripper 2950X/2990WXと若干違いがあるが、これはコア数が違う事によるものだろうか? CPU-Zによる表示はこんな感じ(Photo05~08)で特に不思議な点は無い。

  • Photo01:上がRyzen Threadripper 2920X、下がRyzen Threadripper 2970WXである。まぁこのパッケージはRyzen Threadripper 29xxシリーズ共通なので、違いがなくて当たり前なのだが

  • Photo02:このケースも共通

  • Photo03:こちら側はシルクとOPN以外違いが見当たらない

  • Photo04:左がRyzen Threadripper 2970WX、右がRyzen Threadripper 2920X。チップコンデンサの配置はそれぞれRyzen Threadripper 2990WX、Ryzen Threadripper 2950Xと比べてわずかに数が少ない。TDPそのものは同じだが、実際の消費電力が(コア数が少ない分)低めなのに対応したのかもしれない

  • Photo05:Threadripper 2950Xの時はコード名がPinnacle Ridgeと示されていたが、今回はColfaxと示されているのが大きな違いか。Family/Model/Revisionは同じ

  • Photo06:キャッシュ構成には不思議な点は無し

  • Photo07:こちらも同様。ちなみに12nmのZen+ダイは、1ダイ構成のもの(Ryzen 5/7向け)がPinnacle Ridge、2/4ダイ構成のもの(Ryzen Threadripper 29xx)がColfaxとなる模様

  • Photo08:4ダイ構成なので、L3も4つ

ところでAMDは10月5日に、Ryzen MasterをVersion 1.5にアップデートした。このVersion 1.5では、新しく"Dynamic Local Mode"と呼ばれる動作モードが追加されている。

もともとRyzen ThreadripperではDistributed Mode(UMA)とLocal Mode(NUMA)の2つの動作モードがある、という話は第1世代Ryzen Threadripperの検証で紹介した通りであるが、Ryzen Masterではこの2つのモードの良いとこ取りとなる、Dynamic Local Modeが実装された。

理屈としては簡単で、基本的にはDistributed(NUMA)モードとして動作するが、Ryzen Masterのスレッド監視ツールがWindows 10のバッググラウンドタスクとして動作し、メモリアクセスが頻繁に行われるThreadを監視して、そのThreadをメモリが接続されているダイに割り振るというものだ。

2970WX/2990WXの場合、メモリコントローラを持つダイ(Die 0/2)と持たないダイ(Die 1/3)あり、持たないダイの上でこうしたメモリアクセスを頻繁に行うと、当然遅くなる。なのでこうしたThreadを優先的にDie 0/2に割り振る事で、Distributedモードながら、Localモードと同様の効果を得よう、というものだ。

ということで、今回Ryzen Threadripper 2970WX/2990WXについては、常時Dynamic Local Modeをオンにして測定を行った(Photo09)。

  • Photo09:中段右にDynamic Local ModeのOn/offがある。今回は常時Onである。ちなみに2ダイしかない(=すべてのダイにメモリが繋がっている)Ryzen Threadripper 1950X/2920X/2950Xではそもそもこのモードが無効となる

テスト環境は表1に示す通りである。OSのバージョンとかドライバ、及びベンチマークテストは、Core i9-9900Kのベンチマーク環境に準じてある。なお、深層レビューの際にはRyzen Threadripper用のマザーボードとしてASUSのROG Zenith Extremeを利用したが、今回は開封の儀でも紹介しているもう一枚のマザーであるMSI MEG X399 Creationを利用している。

CPU Ryzen Threadripper 2950X
Ryzen Threadripper 2920X
Ryzen Threadripper 2950X
Ryzen Threadripper 2970WX
Ryzen Threadripper 2990WX
Ryzen 7 2700X Core i7-8700K Core i9-9900K
M/B MSI MEG X399 Creation
(BIOS Version 7B92v11)
ASUS Crosshair IV Hero
(BIOS 6201)
ASUS ROG STRIX Z370-F Gaming
(BIOS Version 1002)
ASUS ROG MAXIMUS XI HERO (WI-FI)
(BIOS Version 0506)
メモリ G.Skill F4-3200C14-8GFX×4
DDR4-2666 CL16で利用
Corsair CML16GX4M2A2666C16
(DDR4-2666 CL16 8GB×2)×2
ストレージ Intel SSD 600p 256GB(M.2/PCIe 3.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
グラフィックス GeForce GTX 1080 Founders Edition
(GeForce Driver 416.34 WHQL)
OS Windows 10 Pro 64bit 日本語版 Version 1803 Build 17134.1

こちらだと、空冷クーラーを使っても、(ROG Zenith Extremeの時に問題になった)PCI Express x16のSlot #1に装着できないという問題はない(Photo10)。

  • Photo10:ただCPUクーラーとGPUカードがかなり接近することになるので、ケースの中に入れて使う場合には内部の冷却風の経路を考えないとひどいことになりそうではあるが

ただ不思議な事に、(これはROG Zenith Extremeでもそうだったのだが)CorsairのDDR4-2666 DIMMを装着してもDDR4-2666動作が出来ないという問題が出たため、DIMMは評価キット付属のG-Skillのものを利用している。

ちなみに以下グラフにおける表記は

  • R7 2700X:Ryzen 7 2700X
  • TR 1950X:Ryzen Threadripper 1950X
  • TR 2920X:Ryzen Threadripper 2920X
  • TR 2950X:Ryzen Threadripper 2950X
  • TR 2970WX:Ryzen Threadripper 2970WX
  • TR 2990WX:Ryzen Threadripper 2990WX
  • i7-8700K:Core i7-8700K
  • i9-9900K:Core i9-9900K

をそれぞれ示す。また、LINPACKとSandraの結果は今回は割愛する(LINPACKはそもそもRyzen系で動作しないためで、一方Sandraに関しては既に分析結果をお届けしており、あまり新しい話がないためである)。