産業技術総合研究所(以下、産総研)は、ナノメートルサイズの構造(ナノ構造)を形成した熱電変換材料を用いてカスケード型熱電変換モジュールを試作し、ナノ構造のないPbTeでは7.5%程度に留まっていた変換効率を12%まで向上させたことを発表した。

この成果は、産総研 省エネルギー研究部門 熱電変換グループ 太田道広研究グループ付、ジュド プリヤンカ研究員、山本淳研究グループ長によるもので、同技術の詳細は5月21日、Cell Press発行の学術論文誌「Joule」に掲載された。

  • ナノ構造の形成により熱伝導率を大幅に低減させて、材料における熱電性能指数ZTとモジュールにおける変換効率の大幅向上を達成(出所:産総研Webサイト)

    ナノ構造の形成により熱伝導率を大幅に低減させて、材料における熱電性能指数ZTとモジュールにおける変換効率の大幅向上を達成(出所:産総研Webサイト)

熱電変換技術の開発は、ここ数年で材料の性能を示す指針である熱電性能指数(ZT)は向上したが、電極形成技術などが必要なモジュール開発においては大きな成果が上がっていない。

産総研ではこれまで、PbTe焼結体にマグネシウム(Mg)を添加してナノ構造を形成し、ZTをナノ構造が形成されていないときの値である1.0から1.8(550℃)まで向上させることに成功した。さらに、このナノ構造を形成した熱電変換材料を用い、セグメント型熱電変換モジュールを開発し、変換効率11%(高温側600℃、低温側10℃)を達成した。これらの成果を踏まえ、今回は新たなナノ構造の形成や、新たな高効率モジュールの開発を目指した。

熱電変換材料において、熱エネルギーを電力へと効率的に変換するには、電流をよく流すためにその電気抵抗率は低い必要があるのに加え、温度差を維持するために熱伝導率が低い必要もある。これまでの研究で、電流をよく流す一方で熱を流しにくいナノ構造の形成が性能向上には有効であることが示された。これまで、PbTe熱電変換材料では、ナノ構造の形成にはMgなどのアルカリ土類金属を使われることが多かったが、空気中で不安定で取り扱いが困難であった。

今回用いたp型のPbTeには、アクセプターとしてナトリウム(Na)を4%添加し、アルカリ土類金属よりも空気中で安定なGeを0.7%添加することで、5nmから300nm程度のナノ構造が形成されることを示した。

このナノ構造を形成したPbTe焼結体をp型の素子として用いて、一段型熱電変換モジュールを開発した。ここで、これまでに開発したドナーとしてヨウ化鉛(PbI2)を添加したPbTe焼結体を、n型の素子として用いた。ひとつの素子のサイズは縦2.0mm×横2.0mm×高さ4.2mmで、熱電変換モジュールは8個のpn素子対から構成される。

p型素子とn型素子の拡散防止層には、それぞれ、鉄(Fe)、Feとコバルト(Co)を主成分とした材料を用いた。低温側を10℃に固定し、高温側を300℃から600℃まで変化させて、出力電力と変換効率を測定したところ、温度差と共に増加し、高温側が600℃のときに最大出力電力は2.2W、最大変換効率は8.5%に達した。

今回開発した一段型熱電変換モジュールに用いたp型とn型PbTe焼結体は、300℃以下ではZTが低くなる。そこで、100℃程度の温度で高いZTを示す一般的なテルル化ビスマス(Bi2Te3)系材料を用いて、8個のpn素子対から構成される熱電変換モジュールを作製。PbTe熱電変換モジュールの低温側に配置した二段カスケード型熱電変換モジュールを開発した。二段カスケード型にしたことで低温での効率が改善され、高温側600℃、低温側10℃のときに最大出力電力1.8W、最大変換効率12%に達した。

この二段カスケード型熱電変換モジュールでは、部材が多くなってサイズは大きくなるが、低温側と高温側の熱電変換モジュールを個別に設計・開発できるといった利点がある。今回、カスケード型でも高い変換効率を実証できたことで、熱電変換システムの設計の自由度が増し、多様な廃熱源に熱電変換技術を適用できるようになる。

研究グループは今後、さらなる高効率化は目指す一方で、長期安定性などの検討や実証実験を進めていくという。PbTeを用いたモジュールは、高い変換効率を要求される分野での使用に適している。さらに、将来の市場拡大を見据え、使用が制限されているPbを銅(Cu)などで置き換える元素代替の研究も進めており、これらの成果を融合することで、熱電変換技術を用いた未利用熱エネルギーの電力活用への道を開いて省エネルギーとCO2排出削減に貢献するとしている。