産業技術総合研究所(産総研)、岡山大学、東京都市大学、早稲田大学の研究グループは、試験用小型エンジンを用いた基礎実験で、水素燃料の優れた燃焼特性を活用した新しい燃焼方式を確立し、世界初となる高熱効率・低NOxを実現できる火花点火水素エンジンの開発に成功したことを発表した。

  • 高圧直噴火花点火水素エンジンシステムの構成と研究・開発の分担(最終システムの想定図)および目標性能(出所:産総研ニュースリリース)

    高圧直噴火花点火水素エンジンシステムの構成と研究・開発の分担(最終システムの想定図)および目標性能(出所:産総研ニュースリリース)

この研究開発は、化石燃料への依存を低減し二酸化炭素(CO2)排出を削減するため、水素燃料の用途を拡大する一環として行われたもの。

日本のエネルギー政策において、化石燃料への依存を低減しCO2を削減することは重要な課題となっており、これを解決するために基幹エネルギーのひとつとして水素を使用する計画が進められている。

しかし、これまで大型発電用の水素エンジンは、天然ガスエンジンに比べて出力および熱効率が低く、高負荷運転時に多くの窒素酸化物(NOx)が生成される技術的な問題があった。

今回、東京都市大学が提唱する、燃焼室に噴射した水素燃料噴流が分散する前の塊の状態で燃焼させる過濃混合気点火燃焼方式(PCC燃焼)を採用し、燃焼室壁面近傍での燃焼を減らすことに成功した。さらに、燃焼ガス温度の低い希薄混合気で、燃料の塊からNOxの生成が増加しないように水素濃度を制御し、噴流の形状と点火までの時間を最適化してNOxの生成を減らすことにも成功した。

また、排気再循環(EGR)でNOxの生成を抑制する方法を組み合わせ、試験用小型単気筒エンジンを用いて熱効率は54%と、現在の天然ガスを燃料とする世界最高効率の発電用大型エンジンを凌駕する性能を達成した。その際のNOxの排出量は、大都市圏の自治体条例の規制値の10分の1以下となり、CO2と微粒子物質の排出がゼロに近い水素エンジンのクリーンさを向上させ、ゼロ・エミッションの実現に一歩近づいたと言える。

さらに、産総研では、冷却損失を軽減させるように設計した燃焼室を使用し、EGRと給気の過給による低NOxと高熱効率化を達成しながら、図示平均有効圧力がこれまでの水素エンジンでは類を見ない1.46MPaという高出力を実現した。噴射時期をPCC燃焼条件に設定することやエンジンの設計最適化によって、より高い熱効率や出力の達成が期待できるとしている。

同技術により、発電用エンジンに用いられている天然ガスなどを水素に置き換えられるため、国内の年間500万トンのCO2の削減が可能となる。また、一気筒あたり600kW出力の大型機関で成立することを3次元数値計算シミュレーションにより検証することで、水素の燃焼室内における分布が計算できるようになるなど、燃焼性能の予測が可能となる。これらの技術と液化水素を圧縮して、高圧水素にする高圧液化水素ポンプと高圧水素をエンジンに噴射する高圧水素噴射弁の開発も合わせることで、大型機関への適用に向けた展開を進めていくとのことだ。