注文住宅事業をメインとする住まいと暮らしのワンストップソリューションカンパニー 桧家ホールディングスではAIチャットボット「EXA AI SmartQA」を導入し、営業活動に関する質問に自動回答する「ひのくまコンシェルジュ」を開始した。本当に業務で活用できるツールなのか疑問を持たれがちなAIチャットボットだが、同社内では活用者の半数以上が業務で役立っていると回答する。展開1カ月で手ごたえを感じ始めた同社のAIチャットボット。その活用方法や現場のリアルな反応に迫る。

  • 営業活動における疑問に回答するAIチャットボット「ひのくまコンシェルジュ」

営業活動に役立つAIチャットボットを目指す

長時間労働の是正や女性が働きやすい環境作りなど、世間で「働き方改革」が活発になる中、桧家ホールディングスでも社員の働き方改革の一環としてAI活用が進んでいる。AIの中でも比較的に導入ハードルの低いAIチャットボットを導入した同社だが、総務や人事等、決まった質問に回答するチャットボットではなく、営業活動に使える商材知識や応酬話法を教えてくれるチャットボットとして運用を開始した。

株式会社桧家ホールディングス グループ管理部 システム課 課長 萩原 紀和氏

「最前線で働く営業は商材知識だけではなく不動産や法律関係の知識も必要です。2017年3月に東証2部に上場した弊社は営業力強化に注力していることもあり、営業活動に本当に役立つツールの構築を目指しました。コンサル会社に依頼し1年以上かけて作成した応酬話法のマニュアル等、研修コンテンツは充実しているのですが、活用されていない現状もあり、AIを活用し再利用できないか検討していました」と話すのはグループ管理部 システム課の萩原氏。

「AI」とつくと、なんでも回答してくれる魔法のツールと認識されることもあるが、そんなAIチャットボットが簡単に出来る訳ではない。どの程度のレベルのチャットボットを目指したのか。

「最終的には全営業に役立つ回答が返せるチャットボットになるのが目標ですが、最初は新人や中途社員に役立つ内容になれば良いと思いました。営業活動に必要な情報が社内で点在していることもあり、誰に何を確認すれば良いか分からない社員がチャットボットに質問を投げれば疑問を解消できる、まずはそんな内容にしたいと思いました」(萩原氏。)

ベテラン社員から新人までをカバーできるチャットボットに仕上げるには相当な工数とデータが必要であることから、まずは営業スキルの平準化を目指し新人や中途社員をフォローする内容を目指すことになった。

AIチャットボットの実態

株式会社桧家ホールディングス グループ管理部 システム課 大島 美咲氏

同社が選んだAIチャットボットは株式会社エクサが提供する「EXA AI SmartQA」だ。以前より導入している法人版LINEの「LINE WORKS」をインタフェースに採用できる点が最大の決め手だった。同ソリューションはAIエンジンにIBM Watsonを使用、その中でも「Retrieve and Rank」という検索エンジンに機械学習を組み合わせたAPIを活用し、回答の正確性を高めている。この「Retrieve and Rank」はログデータを学習することで質問と回答の関連性をランク付けするもので、ユーザーの質問に対し確信度の高い回答を3つ列挙する。その他、同じ単語でもひらがなやカタカナ等の複数の表記を登録できる「同義語ファイル」を作成し学習できるのも特長だ。

「学習データには以前作成したExcelベースの応酬話法約1,400件を入れています。その他にも既存の研修コンテンツを活かし商材情報や契約関連の情報も入れ、全部で約2,200のQ&Aを学習させました」と日々のメンテナンスやデータの更新を担当する大島氏は話す。

  • 応酬話法の学習データ

「現場への展開は、LINE WORKSがユーザーインタフェースであることから、一斉におともだち申請を送ることで展開、使用開始になります。既存のマニュアルを学習データにしているので、展開までの準備期間は約2カ月程度でした。展開開始から約1カ月経ちましたが、すでに営業の半数は活用し始めており1日約30件質問が寄せられています」

使用はまだ一部ユーザーに留まっている状況である一方、アンケートでは活用者の半数が業務に役立ったと回答しているという。

  • 管理画面から活用状況を確認できる。アンケート結果(右側円グラフ)

「初めこそ回答できる質問が少なかったとしても、返ってくる回答が有益なものであれば、ユーザーも離れないと考え、ベテラン営業に話を聞き回答を用意するほか、複数部署と連携し回答や質問を準備しました。現場で本当に使われるものにしたいと考えているので、システム部門の机上の空論にならないように意識しています」(大島氏)

毎日数十分~1時間程度、チャットのログを確認のうえ精査し、より正しい情報に修正、順次Q&Aも追加している。その地道な成果が少しずつ見えてきたようだ。

現場の反応と今後の展開

少しずつ形になってきた同社のチャットボット。現場の意見を聞いてみると驚くほど好評を得ている。

株式会社桧家住宅 新・川崎展示場 ハウジングアドバイザー 田中千晶氏

「お客様からの質問で分からないことがあれば、まずAIチャットボットで確認しています。回答も的確なことが多く、疑問を放置することなく即解決できるようになりました」

と語るのは新・川崎展示場のハウジングアドバイザー田中氏。彼女は2017年4月に入社した新人だ。

新人からすると、忙しい先輩社員に時間をとって質問することに抵抗を感じることがあるという。その点、チャットボットであれば同じ質問を繰り返し確認できる他、先輩に聞くほどではない疑問も気兼ねなく質問できていると言う。

「たとえば、展示場へ来場いただいたお客様には、まずご予算をヒアリングすることが重要になるのですが、どう切り出せば良いのか悩んでいました。応酬話法のマニュアルは展開されていますが、Excelベースなので正直質問を探すのは面倒。そんな時にチャットボットへ質問をすれば的確な回答を瞬時に返してくれます。来場客の多い週末は先輩に質問している時間もないので、接客の合間にチャットで確認でき助かっています」

展開当初は、回答できない質問や、誤った内容が返ってくることもあった。しかし現在は少しずつ改善され、より役立つ内容にブラッシュアップしていると話す。

「正直なところ厳しい意見が大半になると思っていたので、活用者の半数が役立っていると回答したことに驚きました。日々の回答精度を上げる取組みを続け、社内でのプロモーションを強化し活用を浸透させることで、営業力向上に貢献するツールにしていきたい」と萩原氏は話す。

まだまだ始まったばかりの同社のチャットボット。新卒や中途社員からは一定の評価を得られたので、今後は全営業に役立つ内容にすべく、商品カタログとの連携や法律関係の情報の拡充を検討している。同社のAI活用の目的はあくまで営業効率の向上。現場の要望を吸い上げ、それを取り入れながらステップアップを目指していく。