山中氏は、TREASURE CDPの運用効果について「始めたばかりなので効果が実感できるのはこれから」としながらも、既存顧客に対するコミュニケーションとブランドマーケティングの双方で手ごたえを感じているようだ。

既存顧客に対するコミュニケーション(CRM)の領域では、「マーケティングのプロセスが変わったことでデータを基にしたPDCA運用がしっかりできるようになりました」と山中氏は語る。

顧客へのアプローチを考える段階から実際のロイヤリティ向上、売上への貢献をデータによって透明化できることによって、コミュニケーション施策が持つ意義が明確になるのだ。

「データに基づくマーケティングシナリオの仮説を立て、データを基に検証することができるようになります。顧客とのコミュニケーションを活性化して、ロイヤリティ向上を目指すことができるのではないかと思います」(山中氏)

一方、ブランドマーケティングにおいては、ただ施策の効果を検証するだけでなく、接触フリークエンシーと売上の相関性の検証などもできるようになるのだという。

「自社データだけでなく外部の売上データや調査データを活用して、テレビCMやデジタルマーケティングの各施策と認知向上・態度変容や売上の関連性を見える化できるようになります。広告接触をめぐる様々な従来の仮説が実際にどうなのかをデータをもとに検証でき、顧客行動の傾向を把握することで戦略を見直すことができるのではないでしょうか」(山中氏)

今後は、TREASURE CDPによって得られる気付きと改善を積み重ねることで、広告効率の改善や顧客に合わせたコミュニケーションのパーソナライズ化が実現し、マーケティング施策の売上貢献を更に明確にできるはずだ。

加えて、山中氏はこうしたマーケティングのデジタル変革に合わせてマーケティング組織そのものも大きく変更したと説明する。デジタルマーケティングの領域を各事業部からキリン本社(統括会社)に集約し、データの集約やデジタルマーケティングの戦略立案といった役割を統括会社が担い、各事業部、事業会社と連携して進めているのだという。

「組織を大きく変えたのも顧客本位のマーケティングを実践するためのひとつの方策です。デジタルマーケティング部が各事業部の目標を支援する参謀役として動くことができます。各事業部は短期的な売上を追求するというのも重要なミッションであり、長期的な顧客ロイヤリティの構築を各事業部だけで推進することは難しい。そこで、事業会社と切り離した組織が参謀となりマーケティングのデジタル化を推進しています」(山中氏)

また、デジタルマーケティングの推進には情報システム部門との連携も不可欠だが、多くの企業ではマーケティング部門と情報システム部門は文化が大きく異なり軋轢が生まれることもある。そこでキリンでは、情報システム部門の一部機能をマーケティング部門に統合して連携を強化しているのだそうだ。

「マーケティング部門と情報システム部門が分かれてしまうとスピード感が得られません。連携を強化することで意思決定がタイムリーになり、環境変化に柔軟に対応できるようになります」(山中氏)

このように、トップダウンによる意識変化の促進、データマーケティングプラットフォームの整備、社内組織の変革という3つの要素によって、キリンは顧客本位のマーケティングを推進するためのデジタル変革を急速に進めている。今後、それは顧客ロイヤリティの向上や売上のアップというインパクトとして企業に利益を生み出すことになるだろう。

「今後、全方位的なコミュニケーション基盤をTREASURE CDPを使って生み出していきたいと思います。リアルで接触した顧客との継続的なコミュニケーションや、テレビで伝えられないことをデジタル施策で補完したりといったマス、デジタル、リアルの統合的なマーケティングを展開することで、顧客エンゲージメントを構築していければと思います」(山中氏)