めまぐるしく変化する若者の流行。その変化に対して的確に消費者ニーズを把握して商品を提供することは、この年代を主要ターケットにしているブランドにとってビジネスの成否を分けると言っても過言ではない。19歳を中心とした男性若者層をターゲットとしてスキンケア・ボディケア・ヘアケア商品シリーズなどを30年以上に渡って展開しているブランド「ギャツビー」もそのひとつだ。ブランドを展開するマンダムは、流行の風向きをどのように読み、マーケティング努力をしているのだろうか。マンダム 商品PR室の主任である奥 啓輔氏に話を聞いた。
変化する若者の美意識 美肌への関心が高まる
ギャツビーはこれまで、ニキビなどの肌トラブルを抱える若者男性の需要に応えるスキンケアシリーズを展開してきたが、奥氏によると近年は大学生を中心に“より綺麗に見せる肌”を目指したいという男性が増えてきているのだという。
近年、洗顔だけでなく化粧水や乳液といった本来は女性が使用するようなスキンケア商品を使用する若者や、中にはエステサロンでスキンケアをする若者が増加しているとのこと。背景には、韓流スターなど“美しい男性”に対する憧れなどもあるのだという。同社はこのようなニーズの大きな変化に対応するために、8月には同ブランドとして初めて「ギャツビー つるんと肌シリーズ」として、“見た目に働きかける”ことを目的としたピーリング洗顔料やミルキーローションなど4商品を発売している。
「様々な調査や消費者インタビューを定期的に行ってきた結果、従来のトラブルケアだけでなく見た目を重視することへの意識が高まっていることがわかってきた。トラブルをケアしたいというニーズから、トラブルのない肌をキープしたいというニーズへとボリュームゾーンが動いている。また自社調査の結果、“人から褒められる肌を目指したい”という層は15歳~19歳の28.6%、20歳~24歳の30.6%にも及んでいる」と奥氏。
同社は、ターゲット層のこうした意識変化を新しい兆しと捉え、これまでの定番商品とは異なる新しいコンセプトの商品ラインを展開したのだという。
では、このような若者男性のスキンケアに対する意識変化にはどのような動機があるのだろうか。奥氏によると、男性が女性に対する第一印象として重視するポイントに意識変化が見られているのだという。
「昔であれば、服装や引き締まった肉体、整った髪型などを重視する傾向があったが、最近では肌の綺麗さが上位に挙がる傾向がある。一方で女性が重視するポイントには“清潔感”が挙げられるが、清潔な肌としても“つるんとした肌=美肌”が上位に挙がっている」と奥氏は自社調査を挙げて説明。女性が男性に求めるものとしても、肌が美しいことが重視されているのだ。
また一方で奥氏は、FacebookやInstagramといったSNSを通じて、自分自身が人の目に触れる機会が多くなってきたことも、意識変化の要因ではないかと指摘している。
「そうした場で自分の印象を悪くしたくないという意識が強くなっているのではないか」(奥氏)
加えて、奥氏は若者男女のコミュニケーションの変化も意識変化に影響を与えているのではないかと指摘する。
「今の時代の若者男性は、異性に対するハードルが下がっていて、恋愛対象としてだけでなく、よりカジュアルな関係でコミュニケーションが取れるようになってきている。また母親に対しても“反抗期なんてカッコ悪い”と思う傾向が増えていて、異性に対して距離が縮まっている。男性の女性化というと言いすぎかもしれないが、無骨な男らしさで個性を主張するのではなく、異性に馴染んでいく価値観というのが芽生えているのではないか」(奥氏)
世の中を見てみると、若者男性は恋愛に消極的で大人しい“草食男子”が増えてきたり、一方で若者女性の中ではVineのブームに代表されるように男性のようにたくましく遊ぶ姿が話題になったりと、男女の“らしさ”の垣根を超えたジェンダーレスともいえる嗜好性の傾向が見られている。こうした変化を敏感に捉え、ブランドも商品戦略やコミュニケーション戦略を打ち出しているのだ。
流行の変化を読み、トライアンドエラーを繰り返す
では、「ギャツビー」ではこうした若者の流行をどのように捉えて商品戦略を立てているのだろうか。奥氏によると、マンダムでは消費者の意識調査をブランド立ち上げから30年以上継続しておこなっており、年次で調査することもあれば半年に1度という短い間隔で調査している項目もあるのだという。
その傾向などを踏まえて商品戦略を検討しているそうなのだが、実は男性向け商品の場合は急激なニーズ変化は見られないのだという。
「これだけ情報の消費スピードが速くなっているが、男性の意識は年々徐々に変化していく傾向がある。女性のメイクアップのトレンドのように急激に変化することはない」と奥氏。
ベーシックな嗜好性の中で生まれる大きな意識変化の兆しを読み、トライアンドエラーを繰り返しているのだそうだ。
「ベーシックな商品も2年から3年の周期で全面リニューアルを行っている。商品やブランドの鮮度を維持することが重要だ」(奥氏)
奥氏によると、こうしたリニューアルで投入する新商品には、流行に乗れるものもあればそうではないものもあるのだという。まさしく、トライアンドエラーを繰り返しながらブランドの歴史を作っているわけだ。今回の「ギャツビー つるんと肌シリーズ」についても、「かなりチャレンジングな提案になっている」と語る。
「スタンダードな商品であれば肌トラブル訴求によるアプローチができるが、今回の新商品は“見た目に差がつく、つるんとした肌”という質感向上がコンセプト。今までのギャツビーだけでなく、競合商品と比べてもこれまでにない商品だ」(奥氏)
奥氏によると、商品開発がはじまったのは2年ほど前。狙いとしては、これまで肌トラブル対策をしていた若者男性に対して、少しステップアップしたスキンケアをすることを提案してエントリーしやすいように、メッセージングや商品コンセプトを作っていったのだという。
「例えば、保湿。洗顔のあとに化粧水だけを使っていた消費者に対して、目立ち過ぎない範囲で少し肌がきれいに見える保湿クリームを提案する。何かを"塗っている感"を出さずに、ほんのりピンクのつややかな肌に仕上げることができる。『目立つことはしたくないが、肌が綺麗になったことを実感したい』というのが、今の若者のウォンツにあるので、それを実感できる商品を開発した」と奥氏。
今の若者男性が求める“健康的な肌”とはどのような質感なのかを研究してきたのだそうだ。
新しいコンセプトが受け入られるためには、継続的な啓蒙が必要
一方のプロモーション戦略については、テレビCMはもちろん、ウェブの活用を重視しているのだという。男性のスキンケアについては、女性向けと比較すると雑誌メディアもテレビの情報番組もそれほど充実しているわけではない。しかし今の時代、消費者はインターネットから様々なインスピレーションを得て、興味を持った消費者はネットを駆使して自分自身で積極的に情報を収集する。ウェブを充実させることで、消費者に興味喚起を行い、情報ニーズに応えることができるのだ。
奥氏は、「新しい体験を提供するには、商品の使い方をしっかりと訴求しなければならない。ウェブサイトでの情報提供を充実させたほか、男性スキンケアへの意識の高まりを啓蒙する取り組みも行っている。若者男性の場合、自分の見た目に対する意識が高まるのは恋愛をしたときと、就職活動のとき。大学に出向いて就職活動学生向けの身だしなみセミナーも展開している」と説明。また、女子大生に“理想の男子”を語ってもらう企画を展開し、Twitterなどでの拡散も実現したのだそうだ。
「若者男子に美肌への意識をもってもらいたいという考えで様々な啓発活動を行った」(奥氏)
こうしたプロモーションの反響は予想を大幅に上回ったのだそうで、女子大生へのインタビューから飛び出した“ゆでたまご男子”(身だしなみが整っていて清潔感があり、肌はつるんとしていてスキンケアに積極的。初対面ではカタい印象だが、仲良くなると優しく知識も豊富で自分の軸をしっかり持っている男性)という言葉は若者の間で流行になったほどだという。
「男性は女性がどのような点を評価しているのかというテーマに非常に敏感。女性の意見に対する男性の意識の高さを実感した」(奥氏)
そして、8月の販売開始からの売れ行きについては、「ギャツビーというブランドに対する小売店からの信頼は厚く、ドラッグストアを中心に数多くの店舗で新商品を展開している。売上もピーリング洗顔料を中心に堅調に伸びている」(奥氏)とのこと。しかし、同じギャツビーのスタンダードな商品と比較してターゲット層を絞っているため、主力商品に並ぶボリュームになるまでには継続的な啓蒙活動が必要だという。
「今後、若者男性の美肌への意識は間違いなく高まっていく。市場を見ても、ここ5年ほどはスキンケア商品の市場規模が確実に伸びている。市場規模の変化が大きくない化粧品市場と比較しても、スキンケア市場は今後さらに成長が見込める有望市場なのではないか。競合もスキンケア市場には注目して新商品を次々に投入している。マンダムとしても重点分野として注力していきたい」(奥氏)