しかし、こうしたDMPの活用は“第一段階”にすぎず、山中氏は更に広い視野でデータマーケティングを見据えていたという。

「社内の顧客データだけでは十分ではないと考えていました。キリンのタッチポイントは顧客の生活全体からするとごく一部であり、顧客ライフスタイルの全体像を知るためにはキリンのデータだけでは足りません。データベースを拡張できる仕組みを導入しなければならないと感じていました」と山中氏は語る。

そこで今年から導入したのが、トレジャーデータが提供するデータマーケティング基盤「TREASURE CDP」だ。TREASURE CDPは、オウンドメディアのアクセスログ、広告配信ログ、CRMのコミュニケーションログなど企業が保有する顧客データだけでなく、セカンドパーティ・サードパーティのDMPが提供するオーディエンスデータを収集・統合管理してデジタルマーケティングのパーソナライズを可能にする。外部データを自社の顧客データと統合することで、顧客の姿をより鮮明にしようと考えたのだ。

「セカンドパーティ・サードパーティのオーディエンスデータも活用しなければ、顧客を深く知って継続的なコミュニケーションを生み出すことに繋がりません。そのためにスモールスタートだったDMPの活用を拡張して、外部データを柔軟に取り入れて活用できる基盤としてTREASURE CDPを導入しました。データマーケティングには、データを集めて、集約して、外部データと繋いで、分析して、コミュニケーションを生み出すというステップがありますが、TREASURE CDPはこの全体像をワンストップで実践できる数少ないプラットフォームでした」(山中氏)

山中氏がこのTREASURE CDPで目指すのは、マス、リアル、デジタルを統合したシームレスなマーケティングだ。

例えば、キリンは大量のテレビ広告を出稿しているが、テレビ視聴者数が減少傾向にある中、テレビCMだけではブランドコミュニケーションは十分ではない。ネット広告を活用したデジタルのタッチポイント創出は不可欠であるが、実際のところテレビ広告を大量に視聴した顧客に改めてネット広告を大量投入するのは、良い策とは言えない。デジタルのタッチポイントを活用するためには、テレビ広告の視聴回数の少ない人に、それを補う位置づけとしてデジタルを活用するのが理想的。そのためには、外部データであるテレビの視聴ログデータが必要になり、それを自社の顧客データと統合・分析する必要がある。広告配分を最適化して適切なコミュニケーションを生み出すためには、自社が保有するデータだけでは足りないのだ。

「TREASURE CDPでキリンが考える顧客本位のマーケティングを実現するためには、データのシングルソース化が重要になってきます。他のデータとのマッチングがしやすくなることで、顧客のことをどんどん深堀して理解できるようになります」(山中氏)

山中氏によると、TREASURE CDPの運用を開始してからは収集するデータのバリエーションを大幅に増やしているそうで、これまでアクセスログの収集していなかった全てのオウンドメディアでアクセスログを収集しているのだという。

また、外部の第三者データの取り入れも積極的に行っており、例えば街頭イベントとブランド認知の関連性の検証などもしやすくなったのだそうだ。 「自社だけでなく他社データを活用してできるようになったのは大きい。マーケティング・オートメーションなどコミュニケーションツールとの連携性の高さも良く、マーケティング施策の幅が広がりました」(山中氏)