同社 スマートプロダクト部門 副部門長の伊藤 博史氏は、同社のビジョンを「コミュニケーションデバイスをより高い知能と機能を備えた人間の能力を拡張するツール」と語る。スマートフォンのXperiaに加えて、6月より販売を開始したスマートプロジェクター「Xperia Touch」、音声アシスタントを内蔵したスマートイヤホン「Xperia Ear」、そしてXperia Hello!が人間の能力を拡張するツールという位置付けだ。

Xperia Touchも、一般的なプロジェクターにAndroidを組み合わせた特殊な製品で、その独特な世界観は「大変好評をいただいている。海外からも問い合わせがある」(伊藤氏)。こちらも14万9880円(税別、ソニーストアの販売価格)であり、このデバイスの売れ行きが一つの自信として「Xperia Helloについても期待している」(伊藤氏)のだという。

ただ、Xperia Touchは既存の競合製品がほとんど存在せず、類似ジャンルも存在しなかった。言ってみればAIBOのような「ソニーらしい、おもしろ製品」としてのニーズも多分にあっただろう。一方で、Xperia Hello!は時期的にもAIスマートスピーカーと競合視される可能性が高い。前述のGoogleやLINEだけでなく、年内にはAmazonのEchoも上陸する予定で、価格は最安で6000円程度だ。

Google Homeは1万4000円。miniにいたっては6000円(いずれも税別)と、同一視されるデバイスとの価格競争では、完全に後塵を拝するXperia Hello!

会場にいたあるITジャーナリストも「これが10万円を切る価格なら見どころはあったが……」と話していた。一例で言えば、約15万円はNTTドコモが「iPhone X 256GB」の予約価格として提示している14万3856円よりも高い。ソニーが「ロボット製品としてみれば、ある程度の価格には落ち着いている」という説明をしていても、消費者の目は厳しいのではないかというのが率直な感想だ。

自前主義で技術力を磨けるか

ただ、筆者がGoogle Homeを利用していて至らないと感じている点、逆にXperia Hello!に期待できる点は存在する。

例えばGoogle Homeはディスプレイがなく、すべてを音声コマンドで完結させている。そのため、本来ビジュアルと組み合わせて表示して欲しい情報、例えばWikipediaの人物情報やニュースの画像などが見られない。これらはXperia Helloでは実現できているし、ディスプレイを搭載していることでビデオ通話、ビデオ伝言機能なども用意されている。

また、音声だけで「ごめんなさい。わかりません」と言われるよりも、ロボットならではの顔の表情の動きや胴体の動きが直接訴えかけてくる感情表現はAIスマートスピーカーとは一線を画すだろう。現時点でコミュニケーションロボットと呼ぶには乏しいコミュニケーション&応答量だが、ニュースや天気予報、リマインダーといった情報のやり取りだけでなく、雑談やミニゲームなどの細かなコミュニケーションが可能になれば「約15万円の納得感」は出てくるはずだ。

踊ったり、着せ替え衣装を用意するなど、ロボットらしさも見せるXperia Hello!

野村総合研究所の調査によれば、現在ロボット産業の主流は産業用ロボットであり、2020年においても産業用が1.2兆円、サービスロボットが1兆円規模だという。しかし、AIやロボティクス技術の進展によってその後は急激にサービスロボットが拡大し、2035年には産業用ロボットが2.7兆円にとどまるのに対し、サービスロボットは5兆円まで市場が拡大する見込みだという。

日本では、ソフトバンク・ロボティクスが提供する「Pepper」やSHARPが提供する手のひらサイズの「ロボホン」など、サービスロボットに向けた取り組みが世界に先駆けて進展している。Pepperについてはもともとフランスのアルデバラン・ロボティクスがコアを作り上げ、台湾の鴻海が生産しているものの、シャープのロボホンは広島で、Xperia Hello!についてもソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO)が「メイドインジャパンで生産している」(伊藤氏)。

AI技術はGoogleやAmazonのAWS、Microsoftなどクラウド大手が遠く先を行くものの、ソニーもXperia Hello!で採用する各種認識技術を内製化するなど、「自前主義」で知見を溜める方向へシフトして技術力を磨く構えだ。それは「新しいコミュニケーションを創造するという目標のもとに開発してきた。家庭内のロボット市場は発展していく領域。期待値は高い」という伊藤氏の発言からも、内製化を重要視していることが伺える。

いわゆるIoTはハードとソフトの両面でブラッシュアップが必要とされる。その代表例となりそうなパーソナルなサービスロボット分野で、いかに先行力を活かして知見を溜められるか、そしてハードの強みを持つ日本勢がどこまでソフトウェアをブラッシュアップできるかが、今後20年を左右する可能性はある。

AIBOを諦めた過去を頭の中から排して見れば、Xperia Hello!はロードマップを長期間に渡って描き、その第一弾のテスト・マーケティングの製品とも思える。もしそれが現実のものだとすれば、Xperia Hello!が持つ価値は計り知れないはずだ。

ソニーモバイルコミュニケーションズ スマートプロダクト部門 エージェント企画開発室 室長 倉田 宜典氏(左)と同部門 副部門長 伊藤 博史氏(右)