ベンチマーク結果「Radeon CHILL」と考察
最後にRadeon Chillについてその効果を確認してみたいと思う。設定方法であるが、まずRadeon設定を立ち上げ(Photo71)、ここでゲーム(Photo72)→グローバル設定(Photo73)→→グローバルWattMan(Photo74)を開く。すると、一番下に"Chill"の項目が出現しているのが分かるはずだ。
Photo72:直接関係ない話だが、今回Intel Core i7-6700KとA10-7850Kという2台のマシンに同じ様にゲームをインストールしたにも関わらず、ここで出てくる項目が違うのはどういう理由なのか? 単にRX 480とA10-7850KのRADEON R7ではサポートされるゲームが異なるだけなのかもしれないが、ちょっと謎だ |
Photo74:これはRise of the Tomb Raiderでの設定だが、Wattmanの設定項目が異様に長いので、Chillの設定まで大分スクロールする必要があるのかがなり面倒である。WattManと分離するか、ショートカットが欲しいところだ |
ここでグローバルスイッチをOnにして、さらに画面上に出現する"適用"ボタンを押すと、Radeon Chillそのものが有効になる。ただこれはまだ全体としてChillを有効にした「だけ」で、さらに個別のアプリケーション設定の中のWattManプロファイル(Photo74)の中でも、Chillを有効にしてやることで、そのアプリケーションでChillが使えるようになる。 ちなみにWattManに対応していないA10-7850Kの場合、グローバル設定→グローバルChill(Photo75)と直接Chillの設定が可能であり、アプリケーション設定(Photo76)もChillのOn/Offと設定だけになる。
ちなみにこのChillの最大値と最小値であるが、以下のような動作となる。
- Chill最小値:ゲームの実フレームレートがこの数値を切る場合、Chillは動作しなくなる。逆に言えば、Chillの動作中はこのフレームレートが最小値となる。
- Chill最大値:Chill稼働中の最大フレームレート。これは要するにモニターの最大フレームレートであって、Chillが動作中にユーザーの操作があったら、これを超えない範囲でフレームレートを上げる。
さて、では実際にどうかということで、Photo45のリストに挙がっているゲームでいくつか試してみた。まずグラフ78~80はDeus Ex:Mankind DividedのベンチマークをRX 480上で実施した場合だ。まだDirectX 12には未対応なので、当然DirectX 11のみでのテストである。
赤色がChill無効、水色がChill有効で、実線がGPUを含むシステム全体の実効消費電力、破線がFRAPSで計測したフレームレートである。解像度は1280×720/1920×1080/2560×1440の3パターンで実施した。
結果を見ていただくと分かるが、フレームレートが40fpsに達していないグラフ79や80では、Chillの効果が無いのは当然として、明らかに40fpsを超えているグラフ80でもChillの効果はさっぱり見られない。ひょっとして負荷が高いせいか? と思い、解像度を1280×720pixelのままグラフィックのPresetをHighに落とした(グラフ81)ケースでもフレームレートに変動は見られないし、消費電力はむしろ僅かながら増えている始末だ。
ではゲームタイトルは? ということで、Rise of the Tomb Raiderの結果がグラフ82~84となる。こちらではかなり分かりやすく効果が出た。
まず1280×720pixel(グラフ82)では、Chillを有効にするとフレームレートはほぼ40fpsで一定に保たれるようになり、その分消費電力も大きく下がる。ただし解像度が上がると、その効果は次第に薄れてゆく。
1920×1080pixel(グラフ83)では、冒頭20秒程度はChillの効果が明白だが、その後はフレームレートが40fpsを切っているせいか、FRAPSのスコアはChill Offとほとんど変わらない。とはいえ、実際にはフレームレートが細かく上下しているためか、多少の省電力効果がある。これが2560×1440pixelだと、フレームレート/消費電力の両面で明確な差はなくなってしまう。
このグラフ82~84に示した90秒間の平均値を求めると
解像度 | 実行消費電力(W) | フレームレート(fps) | ||
---|---|---|---|---|
Chill Off | Chill On | Chill Off | Chill On | |
1280×720 | 255.1 | 209.0 | 63.0 | 40.1 |
1920×1080 | 254.4 | 235.9 | 37.2 | 34.2 |
2560×1440 | 250.7 | 251.7 | 24.0 | 23.6 |
といった具合である。これを見る限り、確かにフレームレートを犠牲にして、省電力化が実現できているのがわかる。1280×720pixelだと40Wほどの削減になるから、これは確かに効果的といえば効果的である。
他には? ということで、やはりリストにあったFar Cry Primalを実施した結果がグラフ85~87である。
こちらはフレームレート変動が画面に出るので、FRAPSを使わずにこちらをキャプチャしてみた(Photo77~82)。
消費電力とフレームレート、どちらもChillが効いているようにはさっぱり見えない。このあたりはAMD(というか、もともとはHiAlgo)がそれぞれのゲームで、どう「ユーザーが操作可能状態に置かれている」と判断するか次第なのだが、Deus Ex:Mankind DividedやFar Cry Primalのベンチマークモードはユーザー操作が可能とは認識されず、逆にRise of the Tomb Raiderでは操作可能と認識される模様だ。
ではベンチマークモードを使わなければ大丈夫か? ということで、久々にThe Elder Scrolls V: Skyrimを引っ張り出してみた。こちらは負荷が軽いので、A10-7850Kで実施してみた。ベンチマーク手順はこちらで説明した通りであるが、解像度は1280×720/1600×900/1920×1080の4つで、描画オプションは
- Antialiasing:Off
- Anisotropic Filtering:Off
- Detail:Low
とし、さらにOptionも全てLow/Noneに設定しておく(Photo83,84)。またThe Elder Scrolls V: SkyrimはVsync Offの設定が無いので設定ファイルを手で編集してVsync Offにする必要があるのだが、今回はあえてVsync Onのまま行っている。
この状態で、ゲームオープニングの220秒ほどの状況を記録したのがグラフ88~90である。Chillの効果がわかり易いのがグラフ88で、本来はVsyncの60fpsでクランプされるはずが、ChillをOnにすると設定値の40fpsでクランプされるので、それだけ動作周波数も下がるという具合だ。
ところが解像度が上がると、次第に60fps未満でしか描画できなくなり始め、その分消費電力差も近づいてくる(グラフ89)。そして負荷が重くなりすぎる(グラフ90)と、もうChillの最低フレームレート未満になるので、ChillをOnにしようがOffにしようが大差ないという形だ。
この220秒間の平均値をまとめると
解像度 | 実行消費電力(W) | フレームレート(fps) | ||
---|---|---|---|---|
Chill Off | Chill On | Chill Off | Chill On | |
1280×720 | 123.7 | 106.9 | 59.8 | 39.9 |
1920×1080 | 123.5 | 112.8 | 58.6 | 39.9 |
2560×1440 | 97.7 | 97.9 | 24.0 | 24.0 |
といった結果になった。1280×720pixelの時には16.8Wもの節約になるが、1920×1080pixelでは10.7Wまで差が縮むのは、フレームレートこそ40fpsのままでも、解像度が上がった分GPUの負荷が増えたためである。2560×1440pixelではむしろ消費電力が増えているのは、Chillの動作のオーバーヘッド分ではないかと思われる。TDPが95WのA10-7850Kで10~16Wの節約は無視できない効果があると言える。
ただ、ユーザーが操作を煩雑に行ったらどの程度効果があるか? という疑問も出てくる。そこで、1280×720pixelの環境で、冒頭の220秒の間「常にマウスを動かして視点を振りまくったらどうなるか」を測定したのがグラフ91である。赤と青はグラフ88の結果そのもので、緑色の実線と破線が、マウスを常時動かした結果となる。
ご覧の通り、フレームレートは煩雑に40fpsと60fpsの間を行き来し、消費電力もその分増えることになった。この結果の平均値を出すと
Chill Off | Chill On | Chill On(マウス操作) | |
---|---|---|---|
実効消費電力(W) | 123.7 | 106.9 | 123.8 |
フレームレート(fps) | 59.8 | 39.9 | 54.5 |
で、むしろ(0.1Wではあるが)消費電力が増える結果になってしまった。まぁ考えてみれば当然で、マウス操作の割り込みはCPUとGPUの両方に負荷を掛けるオーバーヘッドになるから、常時マウスを振り回して視点変えてれば、そりゃ消費電力も増えるわけである。
これは逆に言えば、Chillで消費電力が本当に下がるかどうかは、当然ながらどのくらいの頻度で操作を行うかに掛かっているとも言える。このあたりは当然ユーザーのプレイスタイルなどにも影響される部分だから、Chillがどこまで効果があるかは「個人差があります」ということになってしまう。その意味では実用性がどこまであるかはまだちょっと怪しい所で、今後の改善に期待したいところだ。
まとめと考察
ということでベンチマークなどを挟みつつ、Radeon Software Crimson ReLiveを評価してみた。今回ReLive機能については触れていないが、これはこれで西川善司氏あたりが何かやってくれるのではないかと思う(と、無責任に振る)。
それはともかくとして、ドライバの安定度は確かに高まったと思うし、性能改善は一応僅かながらも果たしている。Chillはまだ実用に耐えるかといえば微妙なところだが、激しいFPSとかでなければそれなりに効果はあるだろう(ただ対応ゲームが少ないのが残念だが)。とりあえず既存のRadeonのユーザーは、これをインストールすべきだろうと思う。