肝心の音質に迫ろう。先にまとめてしまうと、MDR-1000Xのサウンドは特定帯域の強調感が少なく、非常にニュートラルなバランスという印象を受けた。低音再生がややフラットで上品に感じられる部分もあるが、エッジを抑えたキャラクターは長時間の音楽リスニングによくフィットすると捉えることもできる。言い換えれば、より幅広いジャンルの音楽再生に対応できる柔軟性を持つヘッドホンだ。

LDAC対応のスマートフォンでワイヤレス再生時のサウンドをチェックした

JUJUのライブアルバム「MTV UNPLUGGED」から『ナツノハナ』では、ブレスやビブラートの繊細なゆらぎ、細かな表情を的確に捉える。ピアノは音色にわざとらしい色付けがなくタッチも軽快。弦楽器のハーモニーがしっとりと広がり、音像がシャープで重心の低いウッドベースがバンドの演奏をぎゅっと引き締める。ディティールが鮮明に引き立つので、ライブを目の当たりにしているような緊張感がみなぎってくる。賑やかなアウトドアでの音楽再生なのに、音楽に深く引きこまれてしまった。

ミロシュ・カルダグリッチのアルバム「Latino」から『Barrios Mangore : Un Sueno en la Floresta』では、クラシックギターの音色をとても素直に再現する。弦が弾かれて音が生まれる瞬間の様子が目に浮かぶほど解像感が高い。トレモロの演奏では音の粒立ちやほぐれの良さが際立つ。余韻の肉付きも芳醇。透明な空気感は演奏者が音楽に込めた感情を垣間見せる。音の消え入り際にまで耳を傾けられる、NCヘッドホンならではのストレスフリーな音楽再生が堪能できた。

本機は「ワイヤレス+NC」「ワイヤレス(NCオフ)」「有線+NC」「有線(NCオフ)」と、4つのリスニングスタイルが選べるヘッドホンだ。デジタルアンプのS-Master HXをオンにした状態でチューニングされているので、基本的には本体の電源をオンにして楽しむことをおすすめする。アンプを起動していれば、NCのオンオフや、ワイヤレスと有線を切り替えても音質にはまったくブレがない。常に本機らしい上質なサウンドが味わえる。

従来、ワイヤレスヘッドホンはアウトドアで使うものであり、NCヘッドホンはうるさい騒音を軽減しながら音楽を楽しむためのアイテムという考え方が一般的だった。ソニーのMDR-1000Xは静かな室内でじっくりと音楽を聴きたい時にもファーストチョイスになり得るリファレンスだ。また、新設された便利なNC周りの機能は、ヘッドホンの活用シーンをますます広げてくれそうだ。オーディオリスニングに革新をもたらすヘッドホンが誕生したと言ってもいいのではないだろうか。

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