MVNOの急増は総務省の後押しがあってこそ

しかしながら、かつてはMVNOという名前自体あまり耳にすることがなかったにも関わらず、最近になって急にMVNOが増えたのには、どのような理由があるのだろうか。そこに最も大きく影響しているのは国、ひいては総務省である。

かねてより総務省は、携帯電話大手3キャリアが、ネットワークだけでなく、端末とサービスを一体で提供する販売手法を、ユーザーの選択肢を奪うものだとして改善を求めてきた。また経営破たんや買収などで携帯電話事業者が3社に集約されたことで市場の協調的寡占が起き、市場が3すくみ状態となって競争が進まず携帯電話の月額料金が下がらないにもかかわらず、キャッシュバック等で端末の過剰な割引がなされている状況も、改善すべきとして問題視していた。

こうした大手キャリアの商習慣を変えるには、総務省自身がガイドラインを制定するなどして直接キャリアに指導をするだけでなく、ライバルを増やして競争を加速させる必要があると判断。しかしながら新しいキャリアを作るとなると、ただでさえひっ迫している周波数帯の割り当てをどうするのかという問題が発生してしまう。またそもそも、日本全国をカバーするインフラ整備のために巨額の投資が必要になることから、よほど体力のある企業でない限り参入自体が困難な状況だ。

今から大手キャリアに対抗できる「第4のキャリア」を立ち上げ、1から育てるのは現実的にも難しい。そこで総務省は、キャリアから回線を借りてサービスを提供するMVNOを増やし、市場競争を加速することに力を入れるようになったのである。MVNOの急速な広がりは、ある意味国の政策によるものでもあるのだ。

実際、総務省はこれまで、さまざまな場面でMVNOの支持に回ってきた。例えば2006年、日本通信がNTTドコモに相互接続を申し込んだ際、回線を借りる時にキャリアに支払う接続料などの設定で交渉が決裂したことから2007年に総務大臣の裁定を仰ぐこととなったのだが、その際当時の総務大臣は日本通信の主張の多くを支持。この裁定の結果が、現在MVNOが安価な料金でサービスを提供できるようになった要因にもつながっている。

また、昨年末に実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」では、MVNOのサービス自由度を高めるHLR/HSS(Home Location Register/Home Subscriber Server)などの加入者管理機能が「開放を促進すべき機能」として位置付けられ、開放に向けキャリアとMVNOとの交渉を促進する方針を打ち出している。

さらに言うならば、昨年のSIMロック解除義務化や、今年実施された端末の実質0円販売の事実上禁止措置なども、端末とネットワークを一体で販売しつつ、端末価格を大幅に値引くキャリアの販売手法を改めるだけでなく、それによって端末とネットワークの分離を進め、SIMのみでサービスを提供するMVNOの競争力強化を狙ったものと見ることができるだろう。

「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第2回会合より。タスクフォースではMVNOの競争力拡大のため、HLR/HSSを開放すべき機能として位置付けられた