「世の中にはたくさん飲み物があふれているけど、本当に飲みたいものって何?」

「たどり着いたのは、自分たちが信じられるもの=“自家製”というキーワード。そこで世界の家庭料理に着目してみたのです」(図子さん)。

商品開発のため……家庭の味を探しに海外を取材!

キリンビバレッジマーケティング部商品担当主任の図子久美子さん

「実際に世界の家庭を訪問し、おいしい知恵や技を教えていただく中で“なぜ塩を組み合わせるのか?”“なぜ加熱するのか?”といった疑問が生まれます。それを日本に持ち帰るのですが、ただ世界の味をそのまま日本に持ってくるのでは単なる輸入業者になってしまう。だからまず、私たちは自宅のキッチンから開発をスタートさせるんですよ。自分たちが『こんなふうにしたらおいしくなるかも?』というものを実際に作ってみるのです」。開発担当者が実際に海外を回ってヒントを得、それを自宅で改良。世界の家庭の味から日本の家庭の味に。新商品開発の度に、この“自家製”を愚直に追い求めることを続けてきたという。

飛躍のきっかけは売上の約6割を占めるソルティライチ

こういった図子さんたちの努力が実を結び、「世界のKitchenから」シリーズは2007年の発売以来、2015年末までで約4000万ケースを販売。そのうち直近3年(2013-2015)の売り上げが5割以上を占めている。ブランドの大きな飛躍のきっかけとなったのは、タイのローイゲーオにインスピレーションを受けた「ソルティライチ」。「ここ数年、熱中症問題が深刻ですよね。塩分・水分補給のための飲料もたくさん出ていますが、『ソルティライチなら飲める』というお声もたくさんいただいています」(図子さん)。

他にも、南イタリアの自家製のお酒から生まれた「ピール漬けハチミツレモン」(現在は製造終了)、スウェーデンの果汁シロップ“サフト”から生まれた「5種のベリーと天然水」、モロッコの花を蒸留して作るフラワーウォーターからヒントを得た「Sparkring Water」など、各国の家庭で得た知恵が商品化につながっている。

「世界のKitchenから」シリーズ

10年続く理由……それは“リアルであること”と“ストーリー性”へのこだわり

「まずひとつは“リアルであること”。私たちはイメージでものを作ることはせず、必ず現地で受け継がれている食の知恵をヒントにしています。もうひとつが“ストーリー性”。企業でありながら、商品作りのアイデアは極めて個人的な気づきや疑問が出発点。常識にとらわれない自由さも楽しんでいただいているんじゃないかなと思います。商品にかかる手間や時間、私たちが出会った世界の文化をひっくるめて、今の飲料業界で似た存在はいないと感じています」と図子さん。500mlで各社同程度の価格帯。その中でどう生き残りをかけるか。一つの成功例といえるのではないだろうか。