インド市場への過度な期待は禁物
もし中国市場での拡大限界が見えた場合、今後の成長のためには別の成長市場を見つけて販路を拡大していかなければならない。ただ以前にも指摘したように、中国以外の途上国市場は非常に小粒であり、人口の多いインドは平均所得も中国の数分の1程度で端末の購入余力も低い。端末のASPは100~150ドル程度であり、どちらかといえばスマートフォンよりもフィーチャーフォンに近い部類だ(インドのスマートフォン普及率は2015年時点で3割に満たない)。
当然、iPhoneは高すぎて富裕層にしか手に届かない水準であるため、Appleがそのまま中国のスタイルで進出するのは無理だろう。「AppleがインドでSamsungのシェアを削って56%売上を伸ばす」という報道があったが、そもそもASPの低いインドで1割もないハイエンド端末の市場での話であり、Appleの同国のシェアは2%にも満たない。Appleが当面目指すのは「インドでの中古端末販売」だが、同社は現在インドでの中古販売直営店開設で苦慮している。外資の参入を規制するインド政府の意向により、営業許可がなかなか出ないというのが理由の一端であり、仮に参入が許可されたとしても、ビジネスの拡大はままならないとみられる。
Cook氏は中国訪問後にインドへと足を伸ばし、こうした問題の解決に向けた話し合いを進めている。またインドではハイエンド端末が一般的ではないだけでなく、iPhoneそのものが他国に比べて高く販売されている。ドイツ銀行の調査報告によれば、米国と比較してインドでのiPhone販売価格は31%高く、この問題をCook氏も認めている。関税や各種税金が原因であり、Apple自身の同国での利益率も他国に比べて低い。これは前述の外資や輸入規制に依る部分が高いと思われ、従来のビジネスモデルそのままでインドへと本格参入する難しさを示している。もしAppleが同国で地盤を築きたいと考えたとき、地域の事情に合わせたビジネスを再構築する必要に迫られるというのが筆者の考えだ。特に、中国では大きな躍進力となった「携帯キャリアによる端末の購入補助金」という仕組みがインドでは存在せず、同国でiPhoneを売りにくい下地となっている。