中国でのiPhone需要はピークに達しつつある可能性
中国でのスマートフォンのトレンドを正確に把握するのはかなり難しいが、参考となるデータの一部はIDCが今年2月に出した「China Smartphone Market Sees Its Highest Shipment Ever of 117.3 Million in 2015Q4」という調査報告で把握できる。2015年末時点でのデータではあるものの、Appleが同国で非常に健闘していることがわかる。例えば2015年全体では出荷台数ベースで13.4%のシェアで、小米(Xiaomi)や華為(Huawei)に次いで3位のポジションにつけている。しかもAppleの製品はハイエンドに偏っており、競合他社の製品と比べてASPが3倍近い。つまり売上ベースでいえば群を抜いている。これは中国政府やその政策を支持するメディアらの格好の攻撃ターゲットになる可能性を意味しており、今後も懸念材料としてくすぶっていくだろう。
もう1つは市場での競合だ。前述のようにiPhoneが際立って高い以外は、中国でのスマートフォンのASPはだいたい150~250米ドル程度のレンジに収まっている。日本ではこの水準は「ローエンド」に近い価格帯だが、実際には中国では「ミッドレンジ」に属する製品だと考える。Xiaomiの「Mi」シリーズなどが典型だが、中国におけるスマートフォンのコアレンジは「250~300米ドル」程度であり、ここが最も競争の激しいラインとなっている。先ほどのIDCのランキングにも登場している「Oppo」や「Vivo」といった地場メーカーが主力としているのもこの価格帯であり、Appleが特殊な点を除けば、この価格帯での攻防が続いている。実際、性能面でみれば、このミッドレンジの上位製品とiPhoneでの差はそれほどなく、iPhoneが売れている理由も「ブランド」と「ステータス」に依る部分が大きいと筆者は考えている。そのデザインもさることながら、デバイスを所持して使いこなすことこそが中国でも評価されるという位置付けだ。
殴り合いが激しい市場ということは、ちょっとしたきっかけでシェアが大きく増減することにもつながる。好調のXiaomiでさえMiシリーズの評価によって大きく足踏みしたり、中国市場で大きなシェアを抱えていたSamsungやLenovoはランク外に消えてしまった。筆者は毎年複数回中国を訪問しているが、2015年春の時点では話題になっていたMeizuが2016年には影を潜めてしまうなど、非常に動きがめまぐるしい。また、中国の消費者はおそらく世界で一番好みや要求がうるさく、ユーザーの期待を少しでも外してしまうと、人気メーカーでさえ翌年にはランク外に消えてしまう恐れがある。
筆者は今年も4月に中国の深センを訪問してみたが、そこで気が付いたのは「iPhone」ユーザーの異常な多さだ。鉄道やモール、道ばたですれ違う多くの人々が手に持つ端末を観察していたところ、「iPhone 6または6s系の端末」を持つユーザーが非常に多かった。地下鉄に乗ったときなど、車両内の9割近くがiPhone 6または6s系の端末だった。中国では日本と異なり端末にカバーをあまりつけないため、使用しているデバイスが見てすぐに判別できる。形でiPhone 6系だということが判別できるほか、ローズゴールド色が非常に多く、これらユーザーがiPhone 6ではなく6sの世代で購入したものだと想定できる。1年前の2015年3月に深センを訪問した際はiPhone 5cを含めてiPhoneの比率は2~3割程度だったと認識しているので、いかに過去1年でiPhoneユーザーが急増したかがわかる。隣接する香港ではiPhoneユーザー比率はそこそこで、むしろSamsung製品を使うユーザーの率が高かったので、深センでのiPhoneユーザー増加が際立っている。
平均的なユーザーが2年サイクルで端末を買い換えるのだとすれば、次の商戦期にあたる今年2016年9~12月ごろに市場投入されるiPhoneを購入するのは、iPhone 6以前の端末を使っているユーザーか、あるいは競合他社の製品を利用しているユーザーということになる。ただ、これだけ大都市でiPhoneが溢れ始めている現状で、ユーザーをiPhoneにつなぎとめるには、「iPhone 7 (仮称)」ともいわれる新製品がどれだけユーザーの目を惹きつけるかにかかっている。周囲の多くがiPhoneを所持するなか、ブランドやステータスとしてのiPhoneはすでに輝きを失っており、おそらく次の世代では「新製品の魅力」そのものにユーザーの目が向くと筆者は考えている。ミッドレンジ以下の製品が乱戦となるなか、デザインと機能の両面でどこまでiPhoneが訴求できるのかが問われるだろう。中国市場がiPhone普及のピークに達したのかを見定めてほしい。