市場拡大のカギは未体験の魅力を彼らがどう伝えられるか?

VRが普及に至り、ビジネスとして花開くには、コンシューマーがVRコンテンツから得るUXを理解して、その価値が世間に広まるが必要がある。だが、前述のように価格設定は高いハードルとなり、街中でVRを体験する空間も国内にはない。この普及タイミングとして期待できるのが、PlayStation VRだ。

ソニーはPlayStation VRの価格を発表していないが、Oculus Riftより安価な設定を行うというメディアへの発言も聞こえてくるため、唯一コンシューマー向けの価格になるのではと期待できる。また、PlayStationという閉じられたプラットフォームにユーザーを囲い込み、PlayStation本体やゲームタイトルをユーザーに購入してもらえるため、仮にPlayStation VRで赤字を出しても全体的な利益につなげることがソニーには可能だ。

だが、Oculus VRもデバイスから利益を得ようと考えてはない。同社はPCの周辺機器に位置するOculus Riftを"プラットフォーム"と定め、VRコンテンツに特化した配信プラットフォームの運営をビジネスの主軸に置いている。このVRコンテンツはサードパーティが開発し、Oculusプラットフォームを通じた有料配信から得る収益で、Oculus VRと参画するサードパーティーベンダー両者が潤うビジネスモデルだ。

Oculus VRやPlayStation VR、他社のVRシステムのいずれかが一強体制を築くのか、フタを開けてみなければ分からないが、先進的なデバイスの"第一世代"がヒットする公算は低い。

前述のようにコンシューマーがVRコンテンツの魅力に気づかないからだ。イノベーターがVRコンテンツの魅力を世間に伝え、アーリーアダプターがVRデバイス普及を手伝う。そしてラガードに広まる気配が生まれてこそ、初めてビジネスとして成功する。

SONYの「PlayStation VR」。イノベーター、アーリーアダプターたちの活躍と価格設定がVRの普及に一役買うはずだ(同社公式ムービーより抜粋)

それでも今からVR市場に参画する意義はある。さまざまな未来技術を描いてきたSF小説が現実化した事例を見れば明らかだ。過去にもVRを題材にした小説や映画は多数存在したが、その世界が現実になる日が目前に迫っている。新たな市場でビジネスを始めようとしている企業はVR元年といわれる今年こそ参画を目指して動き出すべきだ。

阿久津良和(Cactus)