B1ガーバー製品についてセンチュリーマイクロに聞く

さて、ここまででB1ガーバーの素性や特徴については一通りご紹介したわけだが、ついでにこのB1ガーバー製品を企画したセンチュリーマイクロに、もう少し話を聞いてみることにした。お相手いただいたのは同社代表取締役社長の嶋野康生氏、技術部で商品企画を担当されている中沼雄介氏、それと技術部部長の出縄賢吾氏の三名である。

センチュリーマイクロ 技術部 中沼雄介氏

まずは冒頭でも触れたDDR4-2400モジュールについて、「おかげさまで非常に注目を集めております」(中沼氏)ということで、手ごたえはかなりあった模様だ。ちなみに現在は8GB×2のセット販売のみだが、今後は8GB×4の構成、あるいは間もなく登場するであろうSO-DIMMタイプのプラットフォーム向けも企画中とのことである。逆に「Single Channelの要求はほとんど無い」(中沼氏)という話であった。

そのDDR4-2400モジュールであるが、嶋野氏によると、「そもそも2400MHzのチップは、本来2015年末に登場するスケジュール」だという。しかし、「われわれは『存在しない』2400MHzチップの注文を毎回2万個ずつ、ずっと入れていたんです。そうしたら突然、Micronから『本当に少量だけ2400MHz動作のものが取れた』というお話がありまして、それを全部ウチで引き受けた形です」(嶋野氏)という経緯でいち早く製品化できたという。

「ただ、われわれとしてもチップを入手して、モジュールを製造・評価をしたのですが、『これどうしようか?』 ということで最初は売らないつもりだったのですが、バイヤーさんにお話をしたところ、『どうしても欲しい』ということでいきなり取り合いになりまして(笑)」(嶋野氏)。入手できた2400MHzのDDR4チップの数が限られていた事もあり、DDR4-2400モジュールの総数は数十のオーダーで、これを秋葉原の2店舗に卸したところ『瞬殺』だったそうである。

「そもそも数が少ないですし、現時点ではDDR4-2400に正式に対応しているプラットフォームがないのと、いくら正規のルートで買っているとはいえ、そういう『出たとこ買い』なので、サーバ向けなどスケジュールベースで収めているお客さまには納入できません」(嶋野氏)との理由から現時点では、DIYマーケット向けにとどまるとしている。

ちなみに嶋野氏によれば、同社のB1ガーバーを使った製品は3種類存在するという。1つ目が、正規のDDR4-2400チップを積んだDDR4-2400モジュール、2つ目が正規のDDR4-2133チップを積んだDDR4-2133モジュール、3つ目がBUY MOREオリジナルとして販売されているDDR4-3000のOverclockモジュールである。3つ目のOverclockモジュールは、あくまでもBUY MOREのオリジナル製品という扱いであり、センチュリーマイクロの正規品という意味では最初の2種類のみになる。

これについて「現状の2133MHzチップを使っても、B1ガーバーを使えばオーバーボルテージをしなくてもDDR4-2400の動作が難しくないのでは?」と確認したが「弊社はあくまでもメモリメーカーが公式にサポートした動作周波数でリリースします」(中沼氏)との事。

その理由として「例えば不良品があった場合には、われわれからメモリメーカーに対して不良品の解析をお願いするわけですが、オーバークロック品を売るようになってしまうと、メモリメーカーに解析を断られてしまうこともあります。これはサーバー系のメモリの場合には非常に問題になってしまいます」(出縄氏)という事情があるのだという。

いよいよ本題のB1ガーバーであるが、出縄氏によれば「B1ガーバーは、作り自体がかなり進化しているというか、相当考えて突き詰めて設計されています。目玉としてはルーティングの距離を大幅に減らしたことです。平たく言うと、DDR4-2400は1.2GHzのDouble Edgeで64bitの信号をパラレルで送受信するので、本当に大変なのですが、そこの配線長が2/3くらいになっています。あとは当然64bitを同時にスイッチングする訳ですから、電源も見ないといけない。その辺をきちっと最適化した感じです」と分析する。

具体的には「例えばB0ガーバーの場合、信号線は8層基板の5層目に集約されていて、パターン自体はきれいなんですが、配線長は長くなってますし、また相互の干渉が発生しやすくなっています。これに対してB1ガーバーは信号線を3層目と5層目に分けて、かなりシンプルに、しかもお互いが干渉せず、配線長を短縮しています」との話だった。

「私どもも、もともとB0ガーバーで製品作っていました。開発コストも掛けていますので当然量産ベースに乗せて投資回収をしたかったんですが、B1ガーバーが出てシミュレーションや検証を行ったところ、あまりにも電気的に出来が良かったので、急遽『これは新しいほうで走らないとまずいぞ』ということで開発費も回収できぬまま(笑)、B1ガーバーに製品ラインナップを切り替えました」(出縄氏)とか。すでにB0ガーバーの製品は完全になくなっているそうで、同社にとっては少なからずリスクのある決断ではあったようだ。

ただ、そうなると気になるのは他社の動向である。B1ガーバーのデザインファイルそのものはまだ一般公開はされていないが、JEDEC会員企業はすでにアクセス可能になっているから、ほかのメモリベンダーもB1ガーバーをベースとしたDIMMを製造することは可能だ。こうなった時に差別化は可能か? について伺ったところ「ガーバーファイルが同じであっても、製造に利用する機材のメーカーも違いますし、メモリは積層がとても大事なファクターですから、そこで差別化は十分できると思っています」(出縄氏)という返事であった。

ちなみにB0ガーバーと比べるとB1ガーバーは、BOM(部品原価:Bill of Materials)と実装コストの両方が上がっているという。「部品コストですが、ラフに言って1.2倍位上がっています。ただBOMのほとんどはメモリチップの値段で、ここは変わりません。ただ今回は容量の大きい、しかも低ESRのコンデンサを(パスコン用に)実装していて、これが高価なんです。トータルすると、百円玉が何枚か位の差は出ています。これに比べると実装コストはまだそこまでは上がりません。例えばチップコンデンサは0603(0.6mm×0.3mm)のものを使っておりますが、これはDDR3の終わり頃から採用が始まっていまして、すでに弊社の工場でもこれに対応しているので、キチンと載せられるようになっています。そもそもDIMMはそれほど大きな基板ではないので、どこの工場で生産されても(部品原価ほどには)変わらないと思います」(出縄氏)。

余談になるが、ノーブランドのDIMMの場合、実はメモリチップ以外にも差があるという。「例えばチップコンデンサや抵抗についても、やはりメーカーの標準品とノーブランド品があります。標準品はノーブランド品と比べると1個あたりの価格が10倍くらい違うのですが、低価格の海外製DIMMモジュールの場合、安い部品を使われるところが少なくないので、こうなるともう(メモリチップを含めた)BOMがお話にならない位変わってきてしまいます」(出縄氏)という話であった。

さらに、このB1ガーバーは、検証のころからいろいろその優秀さを発揮していたらしい。中沼氏がZ170マザーボードを使って検証していたのだが、B0ガーバーのDIMMをZ170マザーボードに装着すると、マシンが動かなくなったという。

これはUSBコントローラへの電源供給が不安定になり、マウスとキーボードが動かなかったのだという。「そこでB1ガーバーのものに差し替えたらあっさり動きました」と中沼氏。また、これも確認のために、B1ガーバーを使ってHaswell-E+X99という環境でチャネルあたり2枚のDIMMを装着した状態で「DDR4-2400は余裕で行けました」(中沼氏)という話である。

もともとJEDECの方からの話では、DDR4-2133ではチャネルあたり2枚まで、DDR4-2400では1枚か2枚で微妙なところ、DDR4-2666以降はチャネルあたり1枚といった話が出ていたが、少なくともUnbuffered DIMMに関してはこれはB0ガーバーを前提にした話で、B1ガーバーではまた状況が変わってきそうな様子である。

そのB1ガーバーはどこまで行けるか、というのが次の話題。もともとJEDECのSpecificationではDDR4-2400までが定義されており、その先はまだ定義されていない。これについて出縄氏によれば「B1ガーバーは非常に出来が良くて、いまのところは定格で2400MHzですが、2666MHzはまず問題なくこのガーバーで動きますし、3000MHzとか3200MHzあたりまでは行く……のかなぁ。個人的な考えとしては3200MHzまでは行けそうに思えるのですが」とのこと。

メモリチップに関しては「実はDDR4-2400のスペックをデータシートで見ていると、『もうこれDDR4-2666のスペックだよね』というところがあちこちありまして、なのでDDR4-2400からDDR4-2666は割と一瞬で移行するかもしれません」との話で、案外2016年には急速にDDR4の速度が上がることになるのかもしれない。

では、同社の製品ラインナップはどうなるかという話であるが、まず8GB未満の構成に関しては「当初、2015年9月にSkylakeの下のモデルが出たので、もう少し少容量のニーズが出るかと思ってたんですが、蓋を開けてみたらDDR3対応のマザーボードが結構多い」(嶋野氏)ということで、小容量品は引き続きDDR3が使われると同社は判断しているようだ。

「いまのところは小容量のモデルは考えておりません。またサーバー向けのRegistered DIMMに関しては、DDR4-2133がすでに出荷済みで、DDR4-2400をいつ出すかを現在検討中です。もともとDDR4に関してはサーバー向けのマーケットでは一定の評価を頂いているので、この後知名度が広がればさらにマーケットが広がるかな、と思っております」(中沼氏)という。

ちなみにDDR4-2400については「いまは2400MHz動作のメモリチップの供給量が非常に少ないのですが、2016年半ばには大量に出てくるようなので、そのころには潤沢に供給できる」との話であった。むしろ、8Gbit DIMMの方がやや先行しそうな勢いらしい。「取りあえず速度は2133MHzですが、8GbitのチップがSamsungから入ってきます。フルスペック、つまり2400MHzで8Gbitのチップは2015年末、という話になっているので、2015年末~2016年にはDDR-2400の16GBモジュールが出荷できるようになる予定です」(嶋野氏)という状況のようだ。

ただ、この8Gbit品はモノリシックではなく、2つの4Gbit品をTSVで接続した、DDR4-3DS構造のチップの模様なので、当然ながら4Gbit品×2よりも高価になる。サーバー向けにはすでにSamsungがモジュールの形で量産出荷を始めているが、サーバー用途であれば多少高くても容量が大きいものが好まれるものの、コンシューマ向けにどこまでこのニーズがあるかは見えない部分でもあり、同社の中で現在も検討中らしい。

ということで、(いろいろ脱線しつつ)さまざまなお話を伺うことができた。同社としては信頼性とか機能面を最大の売りにしており、特にDDR4世代ではほとんどが国外メーカー品に切り替わっている中で、国産メーカーとして頑張ってゆきたいとしている。

このあたりのアピールが足りない部分を補うべく、2015年9月に同社Webページを全面的に刷新。「品質向上への取り組み」というページでこうした品質に関わる技術的な部分の説明を行っている。

また読者へのメッセージとして、嶋野氏は「メモリという製品は個性が出しにくい部分で、どちらかというと規格で決まってしまいますから、どうかすると価格のみで買うかどうか判断されている部分があります。ところが実際はメモリといってもさまざまな要素が絡んでおり、われわれはその全部に関与する形で製品として提供しています。こうしたことを分かっていただいたうえで、メモリを選んでいただけると大変にうれしいと思います」とアピールする。また、「弊社のDIMMの場合、SPDにCL14とかCL17とか、JEDECで定義されてはいるが『誰が使うんだ』みたいなパラメータもきちんと入れています」というのは、DDR4 DIMMで大変苦労されたこともあってであろう。

一方、中沼氏は「使っていただければ差が分かると思います」と簡潔にまとめた。これはパフォーマンスのほか、いわゆる相性問題のようなよくある問題も含めて、同社のB1ガーバー製品に対する自信の裏返しではないか、と感じたインタビューであった。