―― Windows 10は、どんなインパクトを与えるものなりますか。

平野氏「いくつかの観点からインパクトがあるといえます。まず1つ目に、マイクロソフトにとってのインパクトは、ユニバーサルプラットフォームの採用によって、ビジネスの領域が大きく変化するという点です。また、Windows 10では、無償で提供するといった取り組みを、歴代OSのなかでは初めて行っています。

無償で提供してビジネスになるのか、という指摘もありますが、これは、モビリティやクラウド時代における新たなビジネスモデルだといえます。我々が考えなくてはいけないのは、デバイスで儲けるという仕組みではなく、お客様に適したサービスをいかに提供するのかという点。デバイスは窓口でしかありません。

すでにマイクロソフトは、タブレット向けのOfficeは無償で提供していますし、とくにiPad向けにもかなりのOfficeを無償で提供しています。OEMベンダーに対するWindowsのライランス供給も、ディスプレイサイズが9型以下はすべて無償です。にもかかわらず、先ごろ発表した決算では、構造改革を行っているノキアの部分を除けば、過去最高の売上高、利益を出しているわけです。無償化をしていても、これだけの収益を出せる。無償化を基点としながらも、クラウド活用などを通じて利益を出しているわけです。

これまでは『デバイスが1台売れたらいくら儲かる』というわかりやすい構造でしたが、これからはどこで収益を獲得するチャンスが存在するのか、ということを、あらゆる角度から捉えていかなくてはならないと思っています。また、このビジネスモデルは、収益を得るのに、時間がかかるモデルだともいえます。7月29日に提供を開始しても、これまでのように、そこで何本売れて、いくら売り上げが立ったという計算が成り立たない。

半年後や1年後に、これまでとは違う形で、何かしらの売り上げが立つことになる。それが何かというと、1つの要素には限定されず、様々な可能性があります。例えば、より機能が豊富なアプリを利用したいというニーズをもとに収益があがったり、新たなサービスを利用することで収益があがることもあるでしょう。

最新のハードウェアを購入するという動きも想定されます。Windows 10のスペック要件(編注:PCのスペック)はWindows 7とほぼ同じですが、Windows 10には新たに搭載されたWindows Helloなどの機能があり、これに適したデバイスへの需要も想定されます。Windows 10を使っていただければ、ハードウェアの買い換えも促進されると考えています」

いろいろな「モノ」を着実に統合してきたWindows、その集大成がWindows 10

ユニバーサルプラットフォームの簡単な概念

平野氏「2つ目は、これまでにないようなデバイスが登場し、そこで新たなビジネスが発生するという業界へのインパクトです。マイクロソフトではHoloLensの製品化に取り組んでいますが、パートナー各社からも様々なものが登場するでしょう。その上で、これまでにないようなアプリを開発でき、新たな協業も生まれる可能性がある。ビジネスチャンスは一気に広がるといえます。また、Windows 10は随時、最新の機能やセキュリティ環境にアップグレードしますから、業界全体を刺激し続けるOSになるといえます。

3つ目に、エンドユーザーにとってもインパクトがあります。いま、多くのユーザーが複数のデバイスを所有していますが、Windows 10のユニバーサルプラットフォームによって、あるデバイスで使っているアプリは、別のデバイスでもそのまま利用できるようになります。どのデバイスでも同様の体験ができます。iPhoneやAndroid端末を使っているユーザーも、Windows 10と連携してデータを取り込んだり、アプリを使い込んだりといったこともできる。仕事でも生活でも、高い生産性を提供できるといえます」

多彩なデバイスでWindows 10が動いているであろう近未来

極端な話、Windows 10だけで済めばエンドユーザーは何かと楽になりそう

平野氏「デバイスを中心にして語ると、ユーザーのメリットはわかりにくいのですが、一日の生活における各タッチポイントでどんなメリットがあるのかということを考えると、非常にわかりやすいのではないでしょうか。デジタルアシスタントのCortanaについても、質問のやりとりだけでなく、一日の行動に対して支援をしてくれたり、パーソナルな情報をもとにした検索方法が可能になったり……、といったメリットを提供できます。

2020年には、75億台のデバイスが利用される世界が訪れます。このとき、1つのデバイスの利用だけを中心にした考え方はありえません。

デバイスの後ろにある、クラウド、ビッグデータ、分析や予測技術を通じて、人がどういった生き方をして、どんなタッチポイントで、どんなデバイスを活用しているのかということを捉える必要があります。デジタルエクスペリエンスを通じて、生活を豊かにしたり効率化したりすることを考えなくてはなりません。Windows 10は、そうした世界を実現するものになります」