Apple WatchがiPhoneの代替となるには

ただiPhoneは、4.7インチもしくは5.5インチのRetina HDディスプレイと高速なLTE通信、GPS、カメラなど、Apple Watchにはない機能を備える。また他の多くのデバイス以上に様々な用途が集積され、モバイル時代を代表するデバイスと言える。さらに、ひとり1台を実現し、最も身近な「コンピュータ」としての存在も獲得している。

もし、Apple Watchが、この最も身近なコンピュータの役割をiPhoneから引き継ぐとすると、前述のバッテリ以上に何をディスプレイとするか、どのように操作するか、といった課題が出てくる。さすがに対角で38mmや42mmのディスプレイが、iPhone 6やiPhone 6 Plusの画面サイズや操作性と対等になるとは考えにくい。

そこで、「Handoff」や「AirPlay」という機能が注目される。

HandoffはiOS 8やOS X Yosemiteの間で、他のデバイスに引き継いで作業を続けることができる仕組みだ。例えば、iPhoneで書き始めたメールをMacで開いて完成させたり、Macで作成したPagesの文書を、移動しながらiPhoneで開いて校正する、といった使い方が可能になる。

またAirPlayでは、iPhoneやMacなどの画面表示や再生中のメディアを、テレビやプロジェクタに接続したApple TVに転送して表示することができる。10月16日の新製品発表会の壇上では、iPhoneで編集したKeynoteのスライドをMacで修正し、Apple TVで再生。その際にApple Watchでスライドのコントロールを行っていた。

Appleはこうしたデバイス連携の技術を着々と準備しており、例えば、メインの処理はApple Watchが行い、データはiCloud、アプリやコンテンツなどの表示をApple TVが接続されたテレビ、文字入力をBluetooth接続のキーボードで行う、という連携も実現することができるようになるかもしれない。

10月16日のイベントでは、Apple Watch、iPhone、iPad、MacBook Air、iMacを横に並べ、これらが連携し合いながらコンピューティング環境を構成することを強調していた

ただ、この姿は、スマートフォンに集約された現在のモバイルの流儀とはいささか異なる、より分散して構成される体験になるだろう。シンプルとは言えず、複雑だ。デバイスのサイズの制約はスマートフォンにもあるが、大部分の操作を本体1つで行える点がApple Watchと異なっている。

さらに、AppleがiPhoneを中心としたエコシステムを堅持する限り、Apple Watchがセンターになることはない点も、書き加えておきたい。体験面、ビジネスモデルの面で次のイノベーションが起きるとき、Apple Watchの意味合いが大きく変化することになるだろう。