制御と選択肢を提供することでパブリックが主流

インターネットイニシアティブ(IIJ) 鈴木透氏

最初に梅岡氏が発した質問は、いきなりの本題「2年後のクラウド業界は?国産クラウドはどうなっている?」というものだ。

これに対してIIJの鈴木氏は、IDC Japanの予測から、プライベートクラウドの市場規模が大きく成長することに着目した。

「おそらく2年後だと、所有型のプライベートクラウドが主流のままだと思われます。しかし、私たちがコストと拡張性というメリットを伸ばしつつ、オンプレミスの利点である性能やセキュリティ、運用における"制御"と"選択肢"を高めることで、いずれはパブリックと利用型プライベートが主流になっていくと考えています」(鈴木氏)

「2~3年前には何でもかんでも"クラウド"と呼ぶほどに加熱していましたが、それがようやく落ち着いて、市場が冷静になってきています。私たちベンダーやユーザーの皆さんで、正しい使い方や新しい使い方を考えて行きたいですね」とニフティの山口氏は述べた。

さくらインターネットの横田氏は、同社の仮想専用サーバサービス「さくらのVPS」とクラウドを組み合わせて提供していきたいとしつつ、「格安なVPSがどんどん登場しており、クラウドを飲み込んでしまうのではないかと思っています」と持論を述べた。

梅岡氏が、GMOクラウドの岩間氏が提示したスライド中の「PaaS(Coming Soon)」となっている点について聞くと、岩間氏は「『CloudPlatform2014』という構想で、SaaS、IaaS、PaaSまで含めた包括的なクラウド基盤を提供していく」として、特にPaaSについては次のように回答した。

「海外では、とてもおもしろいPaaSが多数スタートしています。しかし企業では、海外のサービスを使うことが懸念され、二の足を踏んでいます。日本の法律でデータを守りつつ、新しい有用なサービスを使えるように、当社の基盤で提供していきたいと考えています」(岩間氏)

このPaaSについてさくらインターネットの横田氏は「レンタルサーバとの違いがなく、現在のPaaSは難しいと感じています。もっと簡単で新しいPaaSを提供できるとよいですね」と述べている。

セキュリティ責任は事業者とユーザーで分け合うもの

GMOクラウド 岩間和彦氏

堀氏は、転職情報などのWebメディアを提供するマイナビのIT担当者として「当社のサービスは個人情報の扱いが多く、クラウドの利用を控えている状況です。パブリッククラウドではセキュリティが問題視されますが」と尋ねた。

これに対して、GMOの岩間氏は「正直に申し上げれば、専用サーバやプライベートクラウドを使うことをおすすめするほかありません」、ニフティの山口氏は「セキュリティは、なんでもかんでも事業者に責任があるというわけではありません。そのため当社では、責任分解点を明確に定義しています」と述べ、ユーザー自身でもセキュリティレベルを確保する必要があるとした。

一方でIIJの鈴木氏は、「2013年4月にユーザー調査を行い、『導入前にあったセキュリティへの懸念はどうなったか』と聞いたところ、『解消された』『軽減された』との回答が7割を超えました。最初の要件は厳しくても、試して使ってみると、そこまでガチガチにしなくても使えると思ってくれるようです」と述べている。

こうした回答に対して堀氏が「クラウドへの移行はたいへんなんです。技術的にというよりは、社内的な上長承認や稟議で」と答えると、会場から笑いが漏れた。

AWSを見習いつつ、シェアを獲得しにいきたい

最後の質問として梅岡氏は「ぜひ2年後には国産クラウドが圧倒してほしいという想いから」として、「AWSを意識していますか?」と問うた。

まずGMOクラウドの岩間氏は「IaaSはAPIを用いるのが前提であり、AWSのAPI以外を使うことは避けられないと感じています。そのため、すべてに対応したうえで、AWSから移行できるような体制を整えていきます」と述べた。

「企業のオンプレミスシステムをクラウドへ移行してもらうという点で、AWSは知恵を絞り合ってアピールしていく同じ仲間だと思っています。機能やコンセプトは見習うべきことが多いです。とは言え、どうやってシェアを奪えるかということはよく考えています」(IIJ 鈴木氏)

「すごく意識しています! 非常に巨大な台風のようなものですから、意識しないわけにはいきません。立ち向かうというよりは、同じ土俵で戦うのをどう避けるかという視点で考えていますね」(ニフティ 山口氏)

一方で横田氏は「当社のサーバ/VPS領域は、AWSの来日によって、いったん大きく敗北を期しています。しかしその後、クラウドやVPSは巻き返しているところです。その点で、以前ほどは意識していないですね」と述べた。

ベンダーとユーザーがいっしょに考えるクラウド

国内クラウドベンダーは、おのおの非常に特徴的なサービスを展開し、エンジニアや企業の課題を解決するために尽力していることが垣間見れた。そうしたきめ細やかなサポートと安全性・安心感を武器に、AWSのような巨大な黒船と競い合い、よりよいサービスを提供し続けていただきたいものだ。

一口にクラウドと言っても、さまざまな利用形態があり、サービスがあり、物理的なロケーションがある。ニフティの山口氏が述べているように、ベンダーとユーザーがいっしょに考えて、最高の解を探すべき領域であると言えるだろう。