この夏、注目の大作『マン・オブ・スティール』が公開された。同作は映画『ダークナイト』(2008年)のクリストファー・ノーランと、映画『ウォッチメン』(2008年)、『300<スリーハンドレッド>』(2006年)のザック・スナイダーがタッグを組んで制作した、これまでにないスーパーマンを描いた作品だ。スーパーマンシリーズの大ファンだという、作曲家ヒャダインは同じクリエイターとして、同作についてどういう想いを抱いたのか、またヒャダインの今後のクリエイションにどのような影響を与えたのか、話を聞いた。

ヒャダイン
アイドルポップスからJ-POP、アニソン、ゲームまで、幅広く楽曲を手がける音楽クリエイター。多様なジャンルを独自の視点で作品に昇華させている。自身も歌手、タレントとして活躍中。

――ヒャダインさんがスーパーマン好きだということを、この作品のイベントに出席していることで初めて知りました。

そうなんですよ。スーパーマン好きということはあまり周りに言っていなかったんです。スパイダーマンとかバットマンが好きって言うことに照れがあって。でも、今回このようなタイミングで人の前で言えるというのは嬉しいですね。

――"音楽家ヒャダイン"として、この作品をどうみましたか?

すべてが革新的でしたね。音楽にも流行り廃りがあって、どんどん新しいものを生み出していかなくてはいけません。ですが、それは古いものを捨てるという意味ではないんです。古いものを受け継ぎながらも、切り捨てないといけない部分もあると。そうしないと次に進めませんから。そういう部分がこの作品にも多くみられました。

例えば、スーパーマンに関する話であるにも関わらずタイトルに"スーパーマン"というワードが入っていませんし、ジョン・ウィリアムズの作曲したスーパーマンのテーマソングも使われていません。また、これは奇遇でしょうけど、主演のヘンリー・カビルさんはアメリカの方ではないですよね。スーパーマンはアメリカの象徴と見られる傾向があるにも関わらず、それを演じるのがアメリカ人ではないというのも革新的でした。そういった、昔の設定やヒーロー像を守りつつも、みんなの頭のなかにある"スーパーマン像"を壊し、新しい世界観を作り上げているんですよ。

――音楽制作でいう、"昔のものを活かす"部分とはどういったところになるのでしょうか?

そうですね。日本の音楽には歌謡曲という文化があって、歌謡曲のメロディは凄く愛されていますし、海外にはないものなんです。なので、そういったメロディを受け継ぎつつ、BPM(Beat per minuites)を早くしたり、展開を目まぐるしくしたりしながら、今のトレンドに合ったチューンアップを加えていくわけです。

――ほかに作曲する際に気をつけている点を教えて下さい。

基本的に、僕は鼻歌をベースに作曲することが多いのですが、それはピアノで作った曲だと、人が歌えないことがあったり、自分の手癖が大きく影響してしまう部分があるからなんです。それに鼻歌で歌える曲だったら、だれでも簡単に歌えると思うんですよ。

――なるほど。「この作品にはジョン・ウィリアムズの作曲したスーパーマンのテーマソングが使われていない」と話していましたが、やはり映画を観るときも音楽を意識するものなんですね。

んー、やっぱり音楽は気になりますね。けど、それよりも、映画のどこに山場をもってきて、どうやって展開していき、最終的にどういうオチをつけるのかという、展開の仕方を(音楽制作の)参考にさせてもらったりしますね。僕はひとつの楽曲の中に起承転結や喜怒哀楽のような展開を入れていくタイプなので。

幼い頃から超人的な能力を秘めていた少年クラーク・ケント。育ての親との約束でその力を封印し、孤独な少年時代を過ごした彼は成長し、ついに自分の真実を知ることとなる。しかしその時、クリプトン星唯一の生き残りであるゾット将軍と反乱軍が、クラークが地球にいることを突き止めた。それは、人類存亡を賭けた闘いが始まることを意味していた……

――そう考えると映像と音楽の制作には大きな違いがないように思えてきます。

おそらく、映画を作ることや絵を描くこと、音楽を作ることなどは、作品のなかにドラマを作るという点においては、クリエティブなことをする人はすべて共通しているじゃないかなと。クリエイターとしての根本の考え方は同じなんだと思います。

――たまたまその表現方法がヒャダインさんの場合は音楽だったと。

そうですね。僕は、昔からピアノをずっと習っていてなおかつ音楽が得意だったので。あと絵が苦手で、映画監督は絵がかけないといけないと勝手に思い込んでいましたから。今となっては自分でPVの脚本や演出なども手掛けているので、映画監督という道もあったのかもしれないと思えてきましたけど……。

――DAWソフトと映像制作ソフトの操作方法も、最近では似てきたと言われていますしね。

普段、楽曲のアレンジにDAWソフト「Cubase」を使っているんですけど、映像制作ソフト「Final Cut Pro」をちょっと触ってみたら、かなり操作方法が似てるなと思った記憶があります。あと、ボーカルレコーディングって、一度歌って終わりではなく、良いテイクのいい部分を繋ぎあわせていくものなんです。そう考えると、ソフトの操作方法だけでなく、作品を作っていく過程も似ているんですよね。

――じゃあ、いつか"映画監督ヒャダイン"が誕生するかもしれませんね!

いや、『マン・オブ・スティール』を観たので、無理だと思います。もうとんでもないんですよ、この作品を手掛けた映像クリエイターたちは! スーパーマンがニューヨークの街をもの凄いスピードで飛んでいくシーンがあるんですけど、その街並みが非常に丁寧に描かれているんです。凄いスピードで飛んでいくので、画面に映るのなんて0.01秒くらいなもんですよ。なのにとても高いクオリティで描いているんです。そこにクリエイターのプロフェッショナリズムを感じました。この精神は見習わなきゃなと。

――じゃあ、この作品がヒャダインさんの楽曲制作に影響を与えたというわけですね。

普段、映画とかを観て感化されることはないんですけど、この映画は違いましたね。とにかく頑張ろうと思いました。この制作陣の仕事の細かさ、ちょっとの妥協もない仕事ぶり。僕もこれからは今以上に妥協せずにやっていきたいなと思います。例えばレコーディングの際に、"OKテイクはとれているけど、もうちょっとレコーディングを続けたいな、けど時間が迫っているから切り上げよう"というシチュエーションがあったときに、そういう妥協はやめていこうと。現に、この作品を観てから、レコーディングの時間が長くなっていて、次の仕事に遅れてしまいそうなときがありました。そのくらい妥協ができなくなってしまったんです。ここまで真剣に作られた映画を観たら、自分も負けてられないなという気持ちがありますので。

――最後に、日本の若き音楽クリエイターに何かアドバイスをお願いします。

僕自身の考えでは、アイディアを生むためにはとにかく曲を作りまくることが大事だと思っています。1曲作って満足するのではなく、2、3曲と作っていくんです。そうすると自分のなかで磨かれていく部分があるんです。なので、アイディアが出なくても、くだらない曲でも、とにかく作って経験を積んでいくことが大切なんです。経験値を積んで成長していく『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のようなRPGと一緒なんですよ。

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