ハイスピード技術によって、光学性能を越えていく

(中山氏)「QV-10から続くカシオのデジタルカメラを第1世代とすると、EX-S1以降が第2世代、このEX-F1以降が第3世代ということになります。第3世代以降の特長は、なんといってもハイスピード技術。これは、今後のデジタルカメラの基本性能として究極かつ不可欠と考えています。その最初の研究成果として製品化されたのが、EX-F1だったのです」

「EX-F1」
最大60コマ/秒の超高速連写と最大1,200fpsのハイスピードムービーを撮影できるハイスピードエクシリムのフラッグシップ。フラッシュがポップアップした姿がカッコイイ! センサーは1/1.7型660万画素CCD、レンズは36~432mm相当(35mmフィルム換算)、発売は2008年3月

(中山氏)「私たちは光学部品も、センサーを含めたキーデバイスも自社生産していません。では、どのように差別化を図っていくか。その答えは"LSIを駆使したデジタル処理"です。何倍ズームとか、何万画素といった既存の概念だけでは導き出すことができない、光学を超えた性能をデジタル技術で築いていく。

そのカシオの命題をひとつの形として結実させたものが、ハイスピード技術といえます。これを市場に対して強力にアピールする手段として、まずハイスピードエクシリムというひとつの製品カテゴリーを作りました。そして、その最初の形を色々と考えたんですよ。先進的な技術や発想を市場に浸透させるのは難しいですからね。その結果、最初はやや高額な、プロやハイアマが使って重宝するようなコンセプトのモデルにしようということになり、EX-F1はあえてブリッジカメラ的なデザインにしました」

―― ブランドリーダーとして、まず存在感のある機種が必要だった、と。

(中山氏)「そうです。そこから、技術をだんだんと他の機種に広げていこうと。ゆくゆくは通常ラインナップすべてをハイスピード機にしていこうという考え方でした」

―― それにしても、突然この形で発売されたのには、当時、非常に驚きました。

(中山氏)「カシオとしては今までやってこなかった、どちらかというと光学カメラメーカーっぽいデザインでしたからね。でも、EX-F1は決して一眼レフの代わりではなく、ハイスピード機ならではの超スロームービーや、超高速連写でしか撮れないものを追求したカメラなのです。EX-F1は今でも業務用などでかなりお使いいただいていて、後継機の問い合わせも多いですね」

―― スポーツカメラマンの方が、このカメラが雑誌の構成を変えたと話していました。例えば、それまで雑誌に載るのはラケットがテニスボールをとらえる瞬間だけだったのが、EX-F1が登場して以降、連続写真がシーケンスとして載るようになった、と。

(中山氏)「秒間60コマの超高速連写で、最高の一瞬を容易にとらえますから。パスト連写を使えば、ラケットを振り切ってからシャッターを切っても、ミートした瞬間が(さかのぼって)撮れているわけですね」

―― 60コマ/秒は一眼レフの最高級機より速いですし、その最高級機を使って撮ったとしても、撮り手にはかなりのウデが求められるでしょう。EX-F1は海外でもすごい注目度で、とあるテニスの大会では、EX-F1で撮った連続写真にカメラマンたちの人垣ができたとか。

(中山氏)「本当はもっと性能をアップさせたいんですが、なかなか手が回らないんですよね。センサーもソフトウェアもLSIも、今ならもっといいものがありますから」

EX-F1から始まったハイスピード化の系譜は、性能向上を重ねながら現行機種へ脈々と受け継がれていく。EX-Z3でEXILIMの地位を不動のものにした本流「Zシリーズ」も、ハイスピード技術をより明確にコアテクノロジー化し、さらにデジタルならではの画像処理と応用力が加わった「EXILIMエンジンHS」を搭載した、「ZRシリーズ」へと進化を遂げた。こうして発売されたのがEX-ZR10だ。

EXILIMエンジンHSを初めて搭載したZRシリーズの祖「EX-ZR10」

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