スペインで3月1日(米国時間2月29日)に行われるプレスイベントで事実上の公開が報じられているWindows 8 Consumer Preview(パブリックベータ版)。その名のとおりコンシューマー=一般消費者がWindows 8(開発コード名)に初めて触れる良い機会だ。同時期に公開される予定のWindows Storeも興味深いが、二月上旬に掲載された同OSの公式ブログBuilding Windows 8では、メトロスタイルアプリケーションによる消費電力の軽減や、ARMプロセッサ対応版Windows 8「Windows on ARM」に関する情報を明らかにした。今週も同社の公式ブログに掲載された記事を元に、Windows 8に関する動向をお送りする。

OSの使い勝手を左右し、重要な存在となる"エクスプローラー"改良ポイント - Windows 8レポート
Windows 8と今後のコンピューターに影響を与える「Windows Store」とセンサー機能
次世代Windows OSで変化する無線ネットワーク環境とファイルシステム
「Microsoft Flight」が無償提供、MicrosoftはPCゲーム黄金期を取り戻せるか?
デスクトップコンピューター向け機能の強化が目覚ましいWindows 8
コンピューターとWebサイトのログオンシステムを強化するWindows 8
自動アップデートでInternet Explorerの更新をうながすMicrosoft
Windows Storeの登場はWindows 8の成功につながるか
大容量ディスクと大型セクターをサポートするWindows 8
Kinect for Windowsの存在とWindows XPをサポートするWindows 8
Windows Updateによる再起動を最小限に抑えるWindows 8
Metroスタイルアプリを支えるWNSとマルチコアサポートを強化するWindows 8
世界を変える新入力デバイスと視認性を高めるWindows 8のタスクマネージャー
メモリ管理を改良したWindows 8
ランチャースタイルを作り替えたWindows 8
ネットワークとの親和性を高めるWindows 8ネットワークとの親和性を高めるWindows 8
仮想環境と互換性問題に対応するWindows 8
変化するWindows 8のファイル管理システム
Windows 8の新ユーザーインターフェースを見てみる
USB 3.0をサポートするWindows 8の開発進捗状況

アプリの消費電力軽減と使い勝手を向上させるConnected Standbyモード

デスクトップコンピューターと異なり、ノート型やタブレット型コンピューターはバッテリ駆動が当たり前。そのため、使い勝手を維持しながらも消費電力を以下に抑えるかが重要なポイントとなるが、この涙ぐましい努力はユーザーの使用スタイルだけではなく、OSの基本的な設計も重要だ。特にWindows 8はデスクトップコンピューターと同時に、タブレット型コンピューター向けOSとしての側面を持つ。そのため、アイドル時間の消費電力軽減やWNS(Windows Push Notification Service)といった消費電力を軽減する仕組みを用意してきたのは過去のレポートで報告したとおり。

先日公開されたWindows 8の公式ブログ「Build Windows 8」の記事では、バッテリ寿命を向上させる仕組みとしてアプリケーションの電力効率の改善が詳しく説明された。端的に述べるとフォアグラウンド(前面)で動作していないメトロスタイルアプリケーションは実行を一時停止するというものである。8ビット時代からコンピューターに触れてきたユーザーなら、当時のコンシューマー向けOSの大半がシングルタスクだったため、マルチタスク=OSの進化という見方をしてしまうだろう。しかし、Windows 8は発想を転換し、シングルタスク風の処理でバッテリ寿命を向上させている。

もう少し詳しく解説しよう。別にWindows 8がシングルタスクOSになるのではない。バックグラウンド(背面)に移動したメトロスタイルアプリケーションは、バックグラウンドタスクとして自身をシステムに登録し、ユーザーが同アプリケーションを呼び出すまで一時停止状態となる。そもそもWindows NT系から現在のWindows 7はプリエンプティブ・マルチタスクと呼ばれる仕組みを用いていた。プリエンプションは先取りといった意味を持つがコンピューターにおいては、実行中のプロセスを一時的に中断する動作を指す。割り込み機能(一般的にはハードウェアタイマー割り込み)を使用して実行中のプロセスを中止したあとに、スケジューラーから次に実行するプロセスを決定することで、CPU時間をすべてのプロセスに分配し、マルチタスクを実現している。

Windows 8の改善は、この中止部分を一時停止に置き換えると同時に、スケジューラーによる管理から除外することで、メトロスタイルアプリケーションによる消費電力を軽減するというものだ。もちろん、このままでは一時停止したメトロスタイルアプリケーションが孤立してしまうため、自身を再び呼び出すための仕組みが内部的に用意されているので安心して欲しい。図01はWindows 8の開発資料である「Introduction to Background Tasks」から拝借したものだが、メトロスタイルアプリケーションがバックグラウンドに移行する際の流れが大まかに把握できるだろう(図01~02)。

図01 バックグラウンドに移動したメトロスタイルアプリケーションは、自身をシステムインフラなどに登録し、再び呼び出されるまで待機する(Windows 8の開発資料「Background Tasks」より)

図02 メトロスタイルアプリケーションの一時停止状態をタスクマネージャーで確認。バックグラウンドに移行した同アプリケーションには「Suspended」と表示される(公式ブログより)

だが、すべてのメトロスタイルアプリケーションが一時停止してしまうと、ユーザーの利便性が著しく落ちてしまう。例えば音楽再生ソフトウェアがBGMを流さず、電子メールの送受信はユーザーが能動的に実行しなければならないからだ。もちろんこの点も考慮されており、メトロスタイルアプリケーションがバックグラウンドで動作するためのAPI(アプリケーションから利用できるライブラリの集合体)を用意し、様々な機能を実現している。例えばWebサーバーへのアップロードやダウンロードは「Windows.Networking.BackgroundTransfer」を用いることで、最新のコンテンツが表示される仕組みだ。このほかにもデバイスの動機や印刷、スケジュールや電子メールの通知が行われる。

メトロスタイルアプリケーションの動作は、コンピューターによっても異なるようだ。従来の一般的なコンピューターではスリープ状態に移行するとOSはもちろん、各アプリケーションも停止してしまう。そこで登場するのが「Connected Standby」と呼ばれる新しいスタンバイ状態。ディスプレイは電源オフになるものの、カーネルは動作した状態になる。MicrosoftによるとConnected Standbyモードのバッテリ消費は、約16時間で5%以下を目標としているようだ。

このConnected Standbyモードに対応したコンピューターでWindows 8を動作させた場合、メトロスタイルアプリケーションは同モードに移行した際でも動作し、前述したバックグラウンドの動作が実現可能。本機能により新しいハードウェアとWindows 8を組み合わせることで、省電力を実現しながらも、これまで以上に利便性の高い操作環境を得られることになる(図03~04)。

図03 通常はコンピューターがスリープ状態に入ると、デスクトップアプリケーションはもちろん、メトロスタイルアプリケーションも動作が停止する。これが初期状態だ(公式ブログより)

図04 Connected Standbyモードに対応したコンピューターでは、同モードに移行してもメトロスタイルアプリケーションは停止しないため、バックグラウンドによる動作が可能になる(公式ブログより)

このように、Windows 8ではメトロスタイルアプリケーションによる電力消費の軽減と、バックグラウンドでの動作を期待される同アプリケーションに対するアプローチがなされている。これらの環境を実現するには新しいハードウェアが必要となるため、万人の利益につながらないものの、事実上のベータ版となるWindows 8 Consumer Previewの登場を機に、コンピューターのリプレースを求められそうだ。