MicrosoftがナチュラルUIの重要戦略技術としてとらえるKinect for Windowsの存在が公式に発表された。新デバイスから得られる新しい操作性はどのようになるのだろうか。また、Windows 8のインストールプロセスに大きく変更を加え、Windows 7でも未サポートだったアップグレードを新たにサポート。今週も同社の各ブログに掲載された記事を元に、最新の動向をお送りする。
Kinect for Windowsで変わるコンピューターの操作性
Kinect(キネクト)というデバイスをご存じだろうか。Microsoftが販売している家庭用ゲーム機「Xbox360」用周辺機器として2010年11月に発売され、従来のゲームコントローラーを使用せずに、ゲーム内のキャラクターや入力ポイントをジェスチャーや音声で操作するためのゲームデバイスだ。
2009年に開催されたE3(Electronic Entertainment Expo:ゲーム専門の国際展示会)で開発コード名である「Project Natal」の名で発表され、2010年の発売に至ったが、このようなセンサーバーとデバイスの組み合わせは、任天堂のWiiリモコンやソニー・コンピュータエンタテインメントのPlayStation Moveといったデバイスが同年に登場し、多くの注目を集めている。
近年のMicrosoftを見ているユーザーには、Windows OSとOfficeスイートといったソフトウェア会社という印象が強いかもしれないが、元々同社はPCゲームに対するアプローチを行い続けてきた。例えばWindows 3.1用グラフィックライブラリとして公開したWinGは後のDirectXにつながり、爆発的なヒットを飛ばしたRTS(リアルタイムストラテジー)ゲームのAge of Empires(開発は米Ensemble Studios)をMicrosoft Gamesブランドとしてリリースしている(図01)。
また、ハードウェア面ではMicrosoft SideWinderシリーズも有名だ。現在でも同シリーズの情報はWeb上に残されている。その発想は従来のゲームパッドにとどまらず、“ひねる”という概念を加えた同Dual Strikeや、当時大流行したRTSゲーム用の同Strategic Commander、実際の自動車のようにハンドルとペダルをセットにした同Precision Racing Wheelなども登場。筆者もカーレースゲーム用として用意していたが、プレイ時の設置作業が煩雑になり、かれこれ数年は倉庫でホコリをかぶっている。
同シリーズは既に発売終了となってしまったが、現在はXbox 360 Controller for Windowsが主力ゲームデバイスとなった。ゲーム市場がコンピューターから家庭用ゲーム機に移行し、Xbox360を前提にゲームを開発するのが主流となったため、多様なPCゲーム用デバイスはマイナーな存在になってしまったのだろう。
このように同社はソフトウェアだけでなく、PCゲームというジャンルにも力を入れてきた経緯があり、Kinectというデバイスが世に登場したのは自然の流れといえるだろう。だが、ポイントはKinectそのものではなく、Windows OSとの関係である。Kinectというデバイスがリリースされた直後からコンピューター用デバイスとして動作させるためのハッキングが行われてきた。
当時の報道内容やKinect開発担当者の発言など紆余曲折を経て、今年四月にはKinect用SDKを発表し、六月にはKinect for Windows SDKベータ1、11月にはベータ2をリリース。そして先ごろKinect for Windowsの公式ブログで、Windows OS向けの単体デバイスとなるKinect for Windowsの開発計画を発表した(図02)。
図02 Kinect for Windowsの公式サイトからはSDKのダウンロードが可能 |
Kinect自体の設計は米国の一般家庭を想定しているため、日本の住宅事情にそぐわず、そのままコンピューターに接続しても数メートルの距離を保たなければならなかった。新たに発売されるKinect for Windowsはデスクトップコンピューターでの使用を考慮し、40~50センチメートルの距離で認識する「Near Mode」を備えつつ、カメラ自体の完了も施すという。また、ハードウェア的な改良面はカメラだけでなく、Kinectセンサーを配置しやすいようにUSBケーブルの長さを調整し、ほかのUSBデバイスとの衝突を避けるためのドングルも提供される予定だ。
Kinect for Windowsの登場で我々のコンピューター生活がどのように変化するのか想像するのは難しい。同社もそれを知ってか、新たな支援プロジェクト「Kinect Accelerator」で、KinectおよびKinect for Windowsの活用した技術を開発する企業に二万ドルの投資と、投資家へのプレゼンテーションの機会を約束している。
Kinectリリース当初から同社は米国の各大学と提携し、同デバイスを用いた新しい活用法を研究しており、以前寄稿した記事で紹介した「OmniTouch」で用いられているのも、Kinectをベースに改良された独自デバイスだ(図03)。
図03 「OmniTouch」のデバイスはKinectがベースになっている(Microsoft Researchの記事より) |
筆者は拙著で「Kinectの存在が、新しいコンピューターの使い方を提示できる可能性が高い」と述べたが、同社もKinect for Windowsの存在をナチュラルUI(Natural User Interface)という重要な戦略技術としてとらえている。Kinect for Windowsの発売は2012年始めを予定しているそうだが、すぐにWindows 7の使用環境が即座に変化するわけではない。先のプロジェクトから生み出されるソフトウェアや使用環境に左右されるものの、Kinect for Windowsが、ここ数年間におけるコンピューターのあり方を一変させる存在になるのは間違いないだろう。