次世代の高速ネットワーク規格である「LTE (Long Term Evolution)」については、ユーザーにとって「ダウンロードやアップロードが高速になって快適なネットワーク環境を楽しめる」といった印象があるだろう。だがキャリアにとってみれば、ネットワークが高速になることで電波帯域あたりの通信収容量が増え、単位時間あたりにより多くの通信トラフィックを捌けるようになることを意味する。さらにLTEの無線ネットワークは従来の3Gとは別の帯域で構築されているケースが多いため、通信トラフィックの多い都市部や人口密集地帯では「負荷分散」という役割を果たす。ちょうどKDDIが子会社のUQ WiMAXを使って、auの3Gネットワークとトラフィックを振り分けている形に近い。

現在ではマイクロセルやフェムトセルなどの小型中継装置を使って携帯セルの範囲を小さくしたり、適宜Wi-Fiへトラフィックを逃がすなど、さまざまな負荷分散策が試みられている。現時点でLTEチップは実装面積が大きく、通常の3Gオンリーの場合よりも高コストになる傾向があるため、携帯端末への採用はハイエンド製品に限られる傾向があるが、この2つの問題が解決されるのであれば、将来的にすべてのラインナップにLTEを採用したいというのが携帯キャリアの本音だと思われる。

こういったことを考えれば、「iPhone/iPadがLTEを採用する」というのは、どちらかといえば携帯キャリア側からの強い要望だといえるだろう。LTEの商用展開はドコモを始め、米国ではVerizon Wirelessなど、ごく限られたキャリアのみが行っている段階であり、本来であれば端末コスト上昇要因であるLTEサポートは避けたいとメーカー側は考えるかもしれない。だが次世代iPad/iPhoneの登場時期は2012年夏以降だといわれており、このころには米国でもAT&TがLTE対応エリアをかなりの範囲まで拡大していると予想され、他国の既存キャリアも対応エリアを拡大しているだろう。端末の更新サイクルが1年単位であることを考えれば、おそらくベストなタイミングだ。特にiPhoneを採用して以降、AT&Tやソフトバンクなど携帯キャリアに対して「トラフィック急増でネットワークがつながりにくくなっている」といった指摘があり、たびたび大きな問題として取り上げられている。もしLTEを通じた負荷分散が可能ならば、携帯キャリアにとっては渡りに船だ。

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