7月27日、「デジタル教科書教材協議会(DiTT)」設立シンポジウムが東京・明治記念館で行われた。同協議会は、およそ2,000万人にのぼるすべての小中学生と教師に対してデジタル教科書を提供し、教育による国力向上を目的とする。
デジタル教科書教材協議会は、7名の発起人を中心に5月から設立準備が進められてきたが、会長には三菱総合研究所理事で元東京大学総長の小宮山宏氏が就任し、副会長には立命館大学教育開発推進機構教授の陰山英男氏、東京学芸大学客員教授の藤原和博氏、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏の3名が就く。また、総務省、文部科学省など政府からのオブザーバー参加を仰いでいる。
活動内容として、「デジタル教科書教材に関する課題整理・実証実験・普及啓発・政策提言などを行う」(DiTT)ことを掲げているが、当面は「デジタル教科書に適したデバイスのスペック検討が主な活動になる」(中村氏)という。委員会として、デジタル教科書/教材のモデルおよび教育環境の検討を行う「未来モデル委員会」と、ビジネスモデル、普及方策、実証実験の検討実施を行う「普及啓発委員会」を置き、コンテンツやワークショップをテーマとするワーキンググループも設置される。
現在、同協議会が試案として掲げているデジタル教科書の条件は以下の通り。
- 小学1年生が持ち運べるほど軽く、濡らしても、落としても壊れにくい
- タッチパネル
- 8ポイントの文字がしっかり読めて、カラー動画と音楽が楽しめる
- 無線でインターネットにアクセスできる
- 学年別にすべての教科書が納まる
- 作文、計算、お絵かき、動画制作、作曲・演奏ができる
- 学校でも家庭でも使える
- 学校でも家庭でも手に入れやすい価格
- 電池が長持ちする
- セキュリティ・プライバシー面で安心して使える
2011年度にはモデル校による実証実験を開始し、デジタル教材を活用した指導方法の研究/開発を進め、2015年にはすべての小中学生にデジタル教科書を配布したいとしている。
シンポジウムでは、発起人に名を連ねるマイクロソフト 代表取締役社長の樋口泰行氏およびソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏が講演を行った。両名とも「今の日本はかなり危ない状態」との危機感を強く表明しており、樋口氏は「"ガラパゴス"という言葉に代表されるような内向きの姿勢がこのまま子どもたちにも拡がれば、日本は国際社会から取り残される。英語力とICTを基礎スキルとし、それを土台に問題解決力、コミュニケーション力、創造力といった実践的スキルを身につけさせていく必要がある。そのためにデジタル教科書ができることは大きい」とし、マイクロソフトとしてもさまざまなデジタル教材を開発していくとしている。
過激?な発言で会場を沸かせたソフトバンク 代表取締役社長 孫正義氏 |
一方、孫氏は「すでに日本が成長を止めてから20年近くが経っている。もし、このままの状態が続けば30年後はもっとひどくなり、"失われた50年"という事態になりかねない。いまこそ天下国家を考え、教育を根本から変え直すとき」と国力向上のためには教育政策の根本的な転換が欠かせないとする。「私は今日、ここに物議を醸しに来た。日本人が豊かで幸せで自信と活力にあふれる社会を取り戻すには、日本の国際競争力を強くしなければならない」とし、「運動会の徒競走で手をつないでゴールする - こんな馬鹿げたやり方で世界に通用する競争力を子どもたちに身につけさせることができるわけがない。30年後に世界で堂々と渡り合える人材を輩出するには、今までの教科書や教え方ではダメだ。すべて間違っている」と力説、そしてデジタル教科書こそが「30年後の日本を支える武器」と言い切る。
会場には多くの教育関係者や文科省関係者も列席していたが、孫氏は「自分が教えた生徒たちから30年後に、"先生に教えてもらったことは30年後、何の役にも立たなかった"といわれたらくやしくないですか。くやしいと思わなければダメなんです。今のままでは確実にそうなる」「デジタルでできる部分はどんどんデジタル化すべき。教師が手で丸付け(採点)する必要なんかない。"紙と鉛筆のぬくもりを生徒に伝えたい"なんてことをいう先生は山の奥にでも引っ込んで、国のお金ではなく自分のお金で好きな教育をやっていただきたい」「90%を超える教師がデジタル教科書に賛成しているのだから、教育委員会や文科省の方々は我々の邪魔をしないでいただきたい。お金を出してくれなくてもいいが、抵抗勢力にはなってもらっては困る」「教育とは、一部の教育委員会の先生の管轄下にあるものではない。国民の管轄下に置かれるべきもの」など、現状の教育界に対して批判とも挑発とも取れる発言を行ったが、講演の最後では会場からひときわ大きな拍手をもって迎えらていた。