ウィルコムは22日、次世代PHSサービス「WILLCOM CORE XGP」のエリア限定サービスを27日から開始すると発表した。エリアとユーザーを限定して9月末まで実施し、10月から本格サービスを提供する。東京・JR山手線内の一部地域でサービスを提供し、利用料は無料だが、一般モニターの募集は行わない。

真のワイヤレスブロードバンドを目指すXGPがいよいよ開始へ

限定サービスでは、第1段階として27日から都内の数カ所でXGPのデモ展示を展開。その後アプリケーション共同実験パートナーへXGP専用データ通信カードを貸し出す。第2段階として、6月から500人のモニターにカードを貸し出す。モニターはMVNOや企業・団体などの法人ユーザーが中心になり、一般ユーザーが利用できるのは10月の本格サービス開始以降となる。

限定サービスで提供されるPCカード型の通信端末。左がNECインフロンティア製、右がネットインデックス製

27日時点では100局程度のXGP基地局が設置されており、6月までに数百局を設置し、山手線内の主に西部と南部にエリアを展開する。基本的に従来からトラフィックの多いエリアで、200~300mごとにXGP基地局を設置していく考えだ。

当初のサービスエリア。27日の時点ではオレンジの部分だが、6月までにはエリアを拡大する。その後のエリア拡大に関しては現時点で明らかにされなかった

エリア展開のイメージ。東京駅周辺の現在のPHSの基地局

このうち、バックボーンが光化している基地局(黄色)

この光化した基地局の場所にXGPの基地局を設置していく

また、山形、神奈川、大阪、京都、広島の各府県ではアプリケーション実証実験を実施。山形県ではデジタルディバイド解消、広島県では路面電車やホテルなどのデジタルサイネージ(電子看板)のインフラとしての実験などが行われる予定で、さらにISPなど約80社がMVNOパートナーとして限定サービスへの申し込みをしているという。

横浜の「開港博 Y150」にあわせ、XGPとおサイフケータイを使ったデジタルサイネージの実験

阪神電鉄では、カメラの設置、駅や沿線へのデジタルサイネージの実験などを行う

広島では路面電車やホテルなどで活用

山形では、すでに30mの高度化PHSの鉄塔が建っているが、ここにXGP基地局を設置する

限定サービスを通じて、ネットワークやサービスの品質を高め、10月の本格サービス開始時には「(ユーザーが)満足できる状況になっている」(ウィルコム・喜久川政樹社長)ことを目的とする。

今回限定サービスが提供されるXGPは、2.5GHz帯の周波数帯を使った高速無線通信だ。UQコミュニケーションズのモバイルWiMAXと同様に、モバイルブロードバンド環境の実現が期待されている。XGPはWiMAXやLTE(第3.9世代携帯電話)と同じく、変調方式にOFDMA、高速化技術にMIMOを使うなど、技術的な共通点は多いが、マイクロセル方式で基地局が設置され、TDD方式により通信速度が上下対称である点が大きな違いとされる。

同じ2.5GHz帯を使うWiMAXやLTEと技術的には似ている部分も多いが、異なる部分が重要となる

XGPは上下対称の速度を実現できる

喜久川社長によれば、従来の携帯電話で利用されていたデータ容量は1カ月10MB程度。それに対して固定のADSL/FTTHは約1,000倍となる10GB程度が使われており、モバイルブロードバンド環境でもこのぐらいのデータ容量の利用が期待されているという。

トラフィックの多い地域でも通信速度が落ちないのがXGPのメリット

そうした状況でXGPは、マイクロセルによって基地局を細かいエリアに設置。都市部の昼間や住宅街の夜間など、ユーザー数が増えると速度が落ちるマクロセルに比べて大容量のデータ通信を、速度を落とさずに提供できるという。「大容量のデータ通信をさばいていくためにはマイクロセルが必須というのは常識」と喜久川社長。

記者会見場に設置されたデモ環境での通信速度。下りは18Mbps程度が出ている

こちらは上り。下り速度より遅いのは、チューニングが足りていないからだそうだ

また、約16万局というPHS基地局の場所に設置できる小型基地局を開発し、アンテナを共用するなど既存の環境を活用できるため、低コストで基地局が設置できる。すでに光化したIPバックボーンもそのまま活用できるため、喜久川社長は「環境を含めてさまざまなインパクトが少なく、低コストに、素早いエリア展開が可能」とメリットを強調する。

京セラが開発した小型の基地局

既存のPHS基地局と同じ場所に設置できる

限定サービス開始時には、XGPは上下20Mbpsの通信速度で提供される。マイクロセルによって理論値と実効値の差も少なく、特にトラフィックの多い都市部でも理論値に近い通信速度が出せるため、喜久川社長は「真のモバイルブロードバンドはXGP」と指摘する。

喜久川政樹社長

上り速度も最大20Mbpsとなるため、テレビ会議や動画配信など、上り速度が必要なサービスに強みを発揮でき、「新たなアプリケーションが活用されるインフラとなりうる」と喜久川社長は期待する。

実際、実験の中ではフジテレビと協力して取材現場から中継車なしで映像を伝送して放送する放送インフラとしての実験や、無線のネットワークカメラを使った実験も予定しており、喜久川社長は、PCを使ったデータ通信だけでなく、さまざまなアプリケーションについて実験を行っていきたい考えだ。

会見場で行われた映像伝送のデモ。エンコード・デコードが発生するため、実際よりも遅れて表示されるが、撮影された映像がワイヤレスで伝送できていた

ネットワークカメラに関して喜久川社長は、既存の16万基地局にカメラを設置してネットワークをどう活用するかも検討したいとしているが、「社会的にいい面も悪い面もある」(喜久川社長)ため、BWAユビキタスネットワーク研究会で検討を行い、「新しい社会インフラの構築」(同)にも意欲を示す。

無線でのネットワークカメラも実現可能

これは実際の東京・六本木付近のライブカメラ。XGPによってワイヤレスでライブカメラの映像が取得できる

また、世界9の国や地域の約40社が集まった国際標準化団体も立ち上げ、XGPの標準化を行って国際的な通信インフラに育てることも狙う。現状はMIMOを使っていないため通信速度は20Mbpsだが、規格を策定した上でMIMO対応も図り、さらなる高速化も行う計画だ。

同社が目指す次世代ネットワーク「WILLCOM CORE」は、3G携帯電話や無線LANなど、さまざまな通信を連携させる構想だが、その中心にあるのが今回のXGPであり、喜久川社長は、XGPが「(中国の故事にある)画竜点睛の目であり、XGPがなければ成り立たない」と表現。XGPによってWILLCOM COREが「旅立っていく」(同)ことを目指している。